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化鳥《ウサァーク》

この度は当方初投稿作『バッドボーイ&ロンリーウイッチ』を閲覧して頂きまして誠にありがとうございます。

この作品の作者の能村倅吉と申します。どうぞ宜しくお願いします。


この話は前話からの続きとなります。この話から読んでも展開が分からない場合がありますので、良ければ前話・前々話以前からもお読み頂ければ幸いです。


魔法的なモノを組み込んだ戦闘描写は難しいですね。


今回も読んで頂いた読者の皆様の心、精神、感情、センスといった部分の何らかの琴線に少しでも触れられれば幸甚と存じます。


拙い話ではありますが、それではどうぞお楽しみ下さいませ。

俺が知識として知っている動物って言えば、犬であればゴールデンレトリーバーやドーベルマン、猫であればアメリカンショートヘアーやメインクーンなど、比較的有名どころを知っているのが精々だ。


そして、それは鳥に関しても同じだ。スズメやカラスを始め、ツバメやダチョウにツルやウグイス…珍しい奴を挙げれば、前にテレビで特集されていたヒクイドリやハシビロコウを知っているのが知識の限界だ。


だが、いま俺の視界の先に映っている大きな黒い鳥は、俺の有している動物知識の箸にも棒にも掛からぬ未知の生物だった。


全身を黒い羽毛に覆われたその未知の黒い鳥の全長は1.5メートル程の大きさで、それだけ見れば巨大なカラスと見違えるだけで終わっていただろう。


しかし、両翼の先端に付いた一振りの大きく鋭い鉤爪の存在や、タンチョウヅルやハクチョウのように長く伸びた首、こちらを睨みつけるルビーのように赤い瞳が、この鳥を俺の知っているカラスとは一線を画す存在だと主張していた。


「おい、何だよありゃ…」


「…あの鳥は『ウサァーク』っていうの。この辺の森の中に生息してる怪鳥だよ。あうぅ、ちょっとマズっちゃったなぁ…私達が木を切った場所ってウサァーク達の縄張りの近くだったっけ…」


危険を感じて投げ掛けた俺の質問に、ガキは自らの犯した失態(ミス)に項垂れながら肩を落として答えた。


そんな大事なことを忘れてんじゃねぇと思ったが、それよりも俺はガキの話に出たあの黒くてデカい化け鳥が妙に殺気立っているのが気になった。


「う、うさぁーくぅ?あの鳥(それ)ってヤベェのか?」


「うん…ウサァークって縄張り意識がすっごく強いのね。自分達の縄張りに入った生き物を絶っ対に許さない性格で、その時は集団で襲い掛かって侵入者にトドメを刺すまで執念深く追い回すの」


「つまり…ヤバいってことだな?」


「そうだね…あの逆立った鶏冠(トサカ)見える?あれって、ウサァークが自分達の縄張りに踏み込んだ侵入者に対して臨戦態勢に入った証拠なんだよね」


「やっぱりヤバいってことじゃねぇかよ!?」


「だね…いやー、普段の私だったらウサァークの縄張りなんかにそんな好き好んで近寄ったりはしないんだけど、今回はアギトと一緒に作業が出来るのが嬉しくってすっかり忘れちゃってたよー」


この状況を分かっているのかいないのか、ガキが少し困ったように眉根を下げて、この緊迫した現状よりも自分の失態を恥じるように「たはは」と苦笑を漏らした。


そのガキの緊迫感の無い態度に「笑ってる場合か!?」と突っ込もうとした矢先、まるでガラス板を鋭利な刃物で何度も斬り付けたような不快で甲高い奇声が上空のウサァーク達の方から聞こえた。


「ギァーッ!ギァーッ!!ギギャァーーーッ!!!」


「うおっ…!?」


「あうぅっ…!?」


ウサァーク達の鋭利な嘶きが合唱となって周囲に鋭く響き渡る。それを聞いた者の鼓膜を(つんざ)く不快な声量と音圧に俺とガキは思わず両手で耳を塞ぎ、目を閉じて身を硬く強張らせた。


そして、その不愉快な大合唱が終わった頃を見計らって閉ざした耳と目を解放し、再び前方のウサァーク達の方を見ると、そこには先程の五倍以上のウサァーク達がその黒い翼を羽ばたかせながら宵に更ける空を覆い尽くしていた。


「なっ…!?マジかよ…!?」


「うわー…すっごく増えたねー」


「チッ、仲間(ツレ)呼びやがったか…!おい、とっとと避難すっぞ!」


「あっ、それは大丈夫だよー。アギトは私の後ろにいてね。動いちゃダメだよ?」


「はぁ?お前なに言って…って、お、おい…」


俺の忠告を聞かず、逆にガキは俺に忠告を残すとそのまま数歩前方へと進み出る。


その足取りは目の前のウサァークの大群に物怖じしていないかのように軽やかで、ちょっとその辺りまで散歩に行くかのような気軽なモノだった。


そして、ガキが俺の前方で数メートルの距離を開けて立った瞬間、それまで獲物(おれたち)を品定めするように空に停滞していたウサァーク達が一斉に動き出し、さっきまでの鳴き声とは一際違った攻撃的な喊声(かんせい)を上げながら俺達の方へ突撃して来た。


「チィッ!お、おいテメェ…ッ!」


鋭い嘴に脚の爪、それに翼の先に付いた鋭利な鉤爪を持ったデカい化け鳥の群れがガキを狙って一直線に飛来しているその光景を前に、俺は思わずガキを庇うために無意識に駆け出した。


しかし、俺が軸足を蹴って駆け出したその瞬間。俺の身体は右手の平を上に向けて前方に突き出して立っている、目の前のガキの神託のような清廉さを含んだ台詞(こえ)に停止を余儀なくされた。


「≪―――(うろ)に連理、綴命(ていめい)()…≫」


「なっ…!?」


今まで聞いたガキの爛漫とした小五月蠅(こうるさ)い声色とは全然違った、まるで冴え凍える冷めた夜のように静かな声が聞こえたと思った瞬間、ガキの周囲に眩い白い極光が踊った。


その一瞬の激しい眩さに顔を顰めて視界を遮られるも、光に慣れて再び前を向いて見たその光景は、俺を絶句させるのに充分な衝撃を持っていた。


俺の目の前に広がっていた光景は、一言で言えば光の円舞。俺の眼前数メートルの場所に立っているガキの周囲には、いつかどこかで見た眩い白い極光が細かく煌く同様の白い粒子を帯びながら優雅に渦巻いていた。


儚げな透明感がありながらもその中に微細に煌くスパンコールを散りばめたようなその光の渦は、緩やかにその只中に立つガキの身体の方へと収斂していく。


すると次の瞬間。ガキの周囲で螺旋の渦を巻いていた光は白く輝く三つの魔法陣にその形状を変え、今度はガキが突き出して開いている右手の平の上へとその規模をどんどん縮小していった。


その間にもウサァーク達はガキに迫り、その先頭の一羽がガキにその鋭い足の爪を突き立てようと身を起こした瞬間、三つの輝く魔法陣がガキの手中に収まった。


そして…ウサァークの凶爪がガキの顔面数センチの距離に差し迫ったのと同時に、再びガキが冷淡な月を彷彿とさせる冷たい声色で短く言葉を紡いだ。


「―――≪ウステム・ウオィス≫」


「はっ…!?うおおおっ!?」


その途端、目も眩むような凄まじい白い極光がガキの手の平から周囲へと広範囲に渡って音も無く爆発するように放たれた。


俺はその極光の眩さと規模に思わず驚きの声を上げ、一気に光が爆ぜるのと同時に顔を両腕で覆い、目を瞑ってその場で身を竦ませた。


「――――――」


俺の耳に聞こえる音、その全てが止まって無くなった…ような気がした。


時間にすればほんの数秒だが、あれほど喧しく嘶いていたウサァーク達の攻撃的な威嚇の声や気配は感じられず、時間や空気さえも消え失せたかの如き“無”の静寂が俺の鼓膜に伝わる。


そして、俺は恐る恐る顔を覆っていた両腕を退かして再びガキの方に目をやった。すると、そこにはさっきまでの光の円舞を超える驚愕の光景が広がっていた。


眼前に立つガキの小さな後ろ姿、宵の紫が一段と濃くなった空を背負う森の風景…ここまではさっきまでの光景と同じだったが、あれだけ空を覆い尽くさんばかりに飛んでいた多数のウサァーク達がその姿を影も形も無く消していた。


「はっ…?ぁ?…はぁっ!?」


余りに突飛に訪れた光景に言葉を失い、両目を見開かんばかりにして愕然とする。俺の目に映る視界のどこにもあの怪鳥の姿は一匹も見受けられず、まるで最初からそんな怪鳥なんて登場しなかったかのように静かだった。


視線の先には俺に背中を向けて森の方を見て立っているガキの後ろ姿だけがいやに印象的に映り、金糸を梳いたような長い金髪を流れて来る微風(そよかぜ)(なび)かせながら佇むその姿にどこか泰然自若とした荘厳さを感じた。


ガキの手から拡散された光の眩さに思わず目を伏せていたせいで、その間にガキが何をしたのかは正直分からなかった。だが、多分ガキが発したあの白い極光こそがこの世界で法術と呼ばれる奇跡の一端だというのを、俺は混乱している頭の片隅で直感的に理解した。


俺が呆気に取られていると、ガキは風に遊ばせていた髪を手櫛で一度梳いて整え、まるで一仕事終えたかのような溜め息をついて俺の方を振り返った。


「ふぅ…あらかた一掃出来たかな。あっ、アギトは大丈夫だった?」


「ぁ…?あ、あぁ…大丈夫だけどよ…おい、ありゃ一体なんだ」


「えっ?さっき教えてあげたでしょ?ウサァークっていう鳥だよー」


「違ぇよ。お前が今したことだ。あれが、なんだ…その、お前の魔法なのか?」


「もうっ!まほーとか言うのじゃなくって、法術だよ法術ー!」


「揚げ足取ってんじゃねぇよ。それより答えろ。あれがこの世界の魔法…お前達が法術って呼んでるモンなのか?」


「うん、そうだよー。部屋で教えたことの復習だね。世界中に満ちてる聖霊からの魔導力と、私個人の魔導紋から精製される魔導力を併せて使うことで、ああやって法術を使うことが出来るんだよー!」


俺の追及する言葉にガキが一瞬脱線しながらも、どこか嬉々とした態度で答えた。そのガキの返答で、俺の思っていた考えが正しかったと証明された。


この世界に召喚されてガキに付きあうこと数時間。法術と言われる超常の異能力や魔導師と呼ばれる魔法使いの存在をガキから教えられてはいたが、俺は心のどこか片隅でまだ夢や幻を見ているモノだと些か疑っていた。


だが、こうして本当に魔導師が法術を使っている場面を見たからには、俺のそんな甘っちょろい考えは完膚なきまでに木っ端微塵に打ち砕かれた。


「…お前ってマジモンの魔法使い…魔導師だったんだな」


「えー?もしかして信じてなかったの?ひどいなー」


「いや、そういうわけじゃねぇけど…あんな法術(モン)初めて見ちまったから…なかなか理解が追い付いてねぇだけだ」


「あはは。まあ、法術を初めて見たんじゃしょうがないか。でもね?アギトだって私の下でしっかり修行したら、近い将来ちゃんと法術を使えるようになるよ!」


そう言いながらガキはどこか嬉しそうに微笑んだ。ガキの話す言葉が本当ならば、俺も将来的にガキが使ったような法術を使えるらしい。そうなると俄然この世界で法術を修得することに興味が湧いてきた。


「…それってよ、最終的にかめはめ波とか撃てたり出来るのか?」


「???かめはめは?なぁにそれ?」


子供じみたバカなことを聞いたと少し後悔する。どうやら長時間に渡る木の伐採で疲れ切った身体的疲労と未知の法術を目の当たりにした精神的衝撃で、俺の心身はかなり疲れているようだった。


「…いや、何でもねぇ。それより、さっさと戻ろうぜ」


バカな質問をした気恥ずかしさからガキから視線を外し、早いトコこの疲れ切った心身を休めるべく、聞き覚えの無い俺の言葉に疑問符を浮かべているガキを促す。


そして、俺はガキの拠点へと向けて疲れた足を引き摺るようにして歩き出した。

ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます。


作中に出て来るウサァークはポケ〇ンに登場するアー〇ーガアとス〇ンナを足して掛け合わせた生き物をイメージしてます。

また、リスティーシァの台詞の中に登場した綴命というワードは私が勝手に作った造語のつもりでしたが、まさかキチンと実在する意味のある言葉じゃないだろうと思って調べてみると、鋼の錬○術師の作者様が先に考えて作った造語でした。

自分の見識・作り込みの浅さを思い知りました。不愉快に思われた方がいらしたら本当に申し訳ございません。


デティールがイメージし辛い、荒○弘先生に土下座しろ、浅すぎて底が見えてるとお思いの方も多数いらっしゃることでしょうが、ちょっとでも良いな、面白いなと思って下さったのならば、是非ともまた続きを読みに来て下さいませ。


また、誤字脱字、表記揺れ、設定の矛盾、感想等を頂けますと嬉しいです。

それと、ページ下部のいいねボタンや☆マークを押して頂けると私のテンションやモチベーション等が上がって創作の励みとなりますので、良ければきまぐれにでも押してやって下さい。


今後とも『バッドボーイ&ロンリーウイッチ』をよろしくお願いします。

1/15改稿。

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