感情
この度は当方初投稿作『バッドボーイ&ロンリーウイッチ』を閲覧して頂きまして誠にありがとうございます。
この作品の作者の能村倅吉と申します。どうぞ宜しくお願いします。
この話は前話からの続きとなります。この話から読んでも展開が分からない場合がありますので、良ければ前話・前々話以前からもお読み頂ければ幸いです。
キャラクターのセリフ回しは難しいですね。
今回も読んで頂いた読者の皆様の心、精神、感情、センスといった部分の何らかの琴線に少しでも触れられれば幸甚と存じます。
拙い話ではありますが、それではどうぞお楽しみ下さいませ。
「あっ!見て見てアギトー!この木はどうかなー?」
「…ンなことで一々はしゃいでんじゃねぇよ…かったりぃな…」
崩れかけた拠点の建つ拓けた土地と、その周囲に広がる薄暗く鬱蒼とした雰囲気を湛えた森の中。その密集する木々の中からガキが一本の木を指差して声を上げた。
俺はそのガキの甲高い言動にかったるくなりながらも、右手に持った斧の背で肩を叩きながら今日何度目かも分からない溜め息を吐いた。
ガキの部屋で椅子作りの提案を受けた後、ガキはその高い勢いのままかったるさに襲われている俺を外へと連れ出した。目的は勿論、部屋で告げた通り俺用の椅子を作る材料となる木材の調達のためだ。
俺は当初拠点の中に残された大型家具を解体して椅子を作ればいいと提案したが、ガキから「残ってる家具は他で使うからダメ!」と駄々をこねられて、俺の提案は敢え無く却下された。
それじゃあ一体どうするのかと問えば、ガキはさも当然のように笑顔を浮かべて「木ならいっぱいあるよ」と宣い、俺はガキが昔に買ったという年季の入った斧を半ば無理矢理担がされ、この拠点の裏手に当たる森の方へと案内された。
そうして、俺はこの異星の地ウォーアムの薄暗い森の中で、地球で見たことの無い奇異な見た目をした木々の伐採に出向いているというわけだ。
(大工仕事をするのは百歩譲ってやってやるとしても、まさか伐採からするとはな…はぁ、クソかったりぃな…)
内心でウンザリしながらも、俺はガキが見つけてはしゃいでいる先の木を眺める。
真っすぐに伸びたその木の表面は、下方から刃物で切り上げたように鋭く逆立った独特の樹皮が幹全体を根元からてっぺんまでびっしりと覆っていた。
ガキの話では、この木はこの辺りにしか生えていない「イグス」という名の木で、以前にガキが自分用の椅子や他の家具を作った際にも手ずから活用したモノらしく水分を抜いて加工すれば木が本来持つ淡い色合いをした家具になると教えられた。
俺はそのイグスの木を遠巻きに眺めながら、伐採した際に収穫出来る木材の総量をザっと目分量で目算した。
逆立った樹皮のせいで収穫出来る量を目算するのは難しかったが、切り倒してからその樹皮全体を削いで採れる木材量と、それにかかる仕事の時間を天秤に架けるとわざわざ伐採するほどではなさそうだった。
「…次行くぞ」
「えー、これもダメなのー?私が作った時はこのぐらいで丁度だったけどなー」
「俺とお前じゃ背丈も重量も違うだろうが。もう三回目だぞ、このやりとり」
膨れっ面をして剝れているガキを尻目に歩き出す。ガキは俺が歩き出すのと同時に不服そうにしていた顔を一転させ、どこかウキウキとした雰囲気を纏いながら俺の隣について歩いた。
ガキは部屋の中で提案をして来た時から万事この浮かれ具合で、初の師弟ごっこに浮かれているのが誰にでも丸判りの調子だった。
俺が椅子として使うのに見合った木々を見つけて報告してくれるのはいいんだが、今のところその全部が空振りに終わっている。
一番初めにガキが見つけて勧めて来た木は高さと幹回りの太さは申し分なかった…だが、幹の表面に入った亀裂から中を覗くと中身はスポンジのようにスカスカで、虫に食われているのが一目瞭然だった。
二番目に見つけた木は少し森の中へと踏み入った場所に立つ立派な大木だったが、幹全体が苔むして木の内部に多量の水気を含んでいると一目で判断が出来たため、その水気を抜く時間の面倒さから伐採を見送った。
そして、俺達は二本目に見つけた木の地点からさらに森の奥の方へと分け入って、そこで見つけたのがこの三本目の木なわけなんだが…結果はこの有様だ。
一方のガキは自分が見つけた木を俺が否定する度に少しむくれて文句を溢したが、今こうして隣を歩いている様子を見る限りだと既に意識を切り替えているようで、真剣な目で周囲を見回しながら次なる適した木を探している。
「うーん、なかなか見つからないねー。あっ!でも時間はたっくさんあるからさ、アギトが座れるぐらい大きくて頑丈な椅子が作れるように頑張って探そうね!」
「…楽しそうだな、お前は」
「えっ、そう見える?」
「ああ」
「そ、そうかなぁ?えへへ…うん!実はね、私いますっごく楽しいんだー!」
半分嫌味で言ったのにも拘らず、ガキは俺の言葉を真正面から受け取ってパァッと明るく破顔させながら答えた。
今日遇ったばっかりの現地とは別の違う星から召喚された男と一緒に連れ立って、こんな薄暗い森の中で椅子の材料になる木を探すことの何がそんなに楽しいのか…感覚や感性が地球とは違っているのか、俺にはサッパリ分からなかった。
だが、そんな俺の思いもガキのどこまでも楽しそうな笑顔と明るい雰囲気のせいでどうにも率直に口に出す気にはなれず、ガキはそのまま口を噤んでいる俺の真横で嬉し気な口調で言葉を続けた。
「だってね、私と唯一仲良くしてくれる魔女の子以外で、こんなに長く一人の人とたくさん喋ることなんてほぼ無かったんだよねー」
「あー…まぁ、お前の境遇を考えりゃそうだろうな」
「でしょ?…ホント言うとね、私だって色んな人達と楽しく喋ってみたかったし、一緒に色んなことを体験して、それを共有してみんなで楽しく盛り上がったりして笑い合ったりしてみたかったんだよねー」
「………」
「だからね、今こうやってアギトと一緒に一つのことを成し遂げようとしてるのが私にはすっごく新鮮で、一緒にいてくれるだけでもとっても楽しいんだよー♪」
「成し遂げるとかまた大袈裟だな…たかだが椅子作りの材料探しだろうが」
「あはは…まぁ、確かに成し遂げるは大袈裟だったかなー。だけどさ、アギトってそうやって面倒臭がりながらも、ちゃんと私の話を聞いてくれるでしょ?」
「ぁん?まあ、そりゃあ…分からねぇことだらけだしな…」
「でしょでしょ!私の話を聞いてくれる人がいる…だから、私はこうしてアギトが一緒にいてくれて嬉しいし、こうやって一緒にお喋り出来ることが楽しいんだー!ありがとうねアギト!」
「…そうかよ」
それまでガキの方に向けていた視線を前へと向け、ぶっきらぼうに一言だけ返す。
そのガキの言葉が嘘や偽りといったモノではないことは、これまでに交わして来たガキとの一連の遣り取りの中で理解しているつもりだ。
「一緒にいてくれて嬉しい」「一緒に喋れて楽しい」…その上「ありがとう」か…そんな思わず歯の浮くような台詞を他人から言われたのは、俺の17年の人生の中で数えられる程度しかないことだった。
あのクソ親父のせいでいつも周囲からは疎んじられ、喧嘩を吹っ掛けられるだけの荒んだ人生の中でそんな前向きな言葉を久し振りに言われて、俺はどういう態度を取れば良いのか咄嗟に分からなかった。
だから、俺がガキの言葉を聞いて視線を外したのは別に照れとかではなく、ただ…久しく聞いたことがなかったその言葉にどう反応して良いか少し混乱したからだ。
「チッ…おら、くっちゃべってないでさっさと探すぞ」
どうにも居た堪れない妙な気まずさから、俺は足早に茂みを掻き分けながら歩みを進めた。そんな俺の姿を見て、ガキは慌てたように「ああっ、待ってよー」と声を上げて俺の後ろを付いて来た。
(チッ…嬉しいだの楽しいだのと…そんな歯が浮くようなこっぱずかしい台詞を面と向かって言ってんじゃねぇよ…かったりぃな…)
俺はそんなガキの声を無視しつつ、胸中に込み上げてくる得体の知れない”感情”を感じながら、さらに暗く蒼然とした木々が密集する森の奥へと向かって行った。
ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます。
本文中に出て来たイグスという木は樹皮の逆立った杉っぽい木を想定してます。
別世界なり異世界なり異星なりの植生や独自の生態を考えるのは難しいですね。
頭の固い自分には現実に在るモノを下敷きにして考えるしか出来ませんです…。
杉の木とか安直だな、もっと設定を深掘りして考えろ、独自性ゼロ乙でーすなど、思うところが読者の方々にも多くあるんでしょうが、少しでも良いな、面白いなと思って下さったならまた是非とも続きを読みに来て下さいませ。
また、誤字脱字、表記揺れ、設定の矛盾、感想等を頂けますと嬉しいです。
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今後とも『バッドボーイ&ロンリーウイッチ』をよろしくお願いします。
1/11改稿。