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聖生石

この度は当方初投稿作『バッドボーイ&ロンリーウイッチ』を閲覧して頂きまして誠にありがとうございます。

この作品の作者の能村倅吉と申します。どうぞ宜しくお願いします。


この話は前話からの続きとなります。この話から読んでも展開が分からない場合がありますので、良ければ前話・前々話以前からもお読み頂ければ幸いです。


説明回第三弾…今回は主人公(アギト)に変化を齎すモノの話です。

牛や亀の歩みのような遅さですが、刻々と話を進められるように努めます。


今回も読んで頂いた読者の皆様の心、精神、感情、センスといった部分の何らかの琴線に少しでも触れられれば幸甚と存じます。


拙い話ではありますが、それではどうぞお楽しみ下さいませ。

ガキの口から怒涛の勢いで語られるこの世界の法術の在り方や仕組みを聞き終え、その情報処理で火照った頭を水を飲むことでクールダウンさせる。


一気に呷って空になったグラスをテーブルに置き、俺は再度ガキから受けた説明を落ち着いた頭の中で整理した。


すると、その説明を整理していく過程で、ウォーアム人の中でも法術を使える奴は少ないとのことを思い出し、俺にも法術が扱えるようになるのかが気になった。


ウォーアム人であれば大なり小なりの差異はあれど、誰でも魔導師としての素質を持っているって話だが…俺はウォーアム人とは違うただの一般的な地球人だ。


魔導師としての魔導紋(さいのう)を持たず、このウォーアムに血筋や縁も皆無な異邦人ならぬ異星人である俺が、果たして法術を使えるようになれるのか甚だ疑問でしかない。


もしここまで来て「ダメでしたー」なんて結果になった日にゃ、最悪ガキのことを引っ叩いて是が非でも無理矢理地球に帰る…そんな腹積もりで、俺は今後の自分の運命を左右する質問をガキに投げ掛けた。


「まあ、取り敢えずこの世界に存在してる法術についちゃあ大体は理解したがよ…それで、俺はどうすりゃいい?」


「ほぇ?」


「なに素っ頓狂な声出してんだよ。お前の説明じゃ、魔導師になるには魔導紋なり

血筋なりが必要なんだろ?生憎だけどよ、俺にはンなモン一つも持っちゃいねぇ…それでも俺が法術を使えるようになれるのか?」


「あっ、そういう話か。うん、それは大丈夫だよー!」


「…不安しか感じねぇんだが、何がどう大丈夫なんだ?」


「ふっふっふ…そこはカッコイイ師匠である私に任せといてよ!え~っとねぇ…」


不敵な笑みを浮かべて意気揚々と言い出したガキが、そのまま自分の羽織っている黒いローブのような外套の腰の両側にあるポケットをごそごそとまさぐり始めた。


けれども、そんな太々(ふてぶて)しい態度のガキの姿も、ポケットを探る時間が長くなるのに比例して徐々に霧散していった。


探していた箇所をローブの外ポケットから内ポケットに移し、遂にはローブの下に着込んでいる衣服にまで捜索範囲を広げるも、目当てのモノが見つからないのか、時折「あれぇ?」とか「おかしいなぁ?」などとボヤキつつ全身を叩くようにして()()を探している。


その、さっきまでの自信満々な表情から徐々に不安そうになっていくガキの姿を、俺はテーブルに頬杖を突き直して黙って見守った。


そうして、ガキがようやくお目当てのモノを見つけたのか、今にも泣き出しそうに身体をまさぐっていた顔をパッと一転させて明るく破顔させた。


「あっ、あったあったー!いやー、無くしたと思ってちょっと焦っちゃったよー」


「ん?見つかったのか…まぁ、それなら良かったな。ンで、なに探してたんだ?」


「ん?えへへ…はい、これあげるね!」


ガキが何かを隠すようにはにかみながらそう言うと、俺に向かって元気よく右手を差し出した。


何だと思い差し出された右手に視線を向けると、ガキのその小さな手の平の上には直径2、3センチ程度の小さなガラス玉のような半透明な物体が乗っていた。


どうやら貰えるらしいので、俺はその小さいガラス玉を指で抓んで取って眺める。綺麗に透き通ったそのガラス玉の中には乳白色のマーブル模様のような柄が入り、一見するとラムネの瓶に入っているビー玉のように見えた。


「まんまビー玉…みてぇだけど、ンだよこれ?」


「びーだま?う~ん、それも多分アギトの世界の何かなんだろうけど…これはね、ウォーアムの法術界で珍重されてる秘石で、聖生石っていうモノなの」


「せーせーせき?またよく分かんねぇモンが出てきやがったな…これが俺が法術を使えるようになるのと何か関係あんのか?」


「勿論!関係大アリだよー!この聖生石はね、世界に満ちてる聖霊由来の魔導力が具現化して凝縮された、魔導力そのものと言っても過言じゃない高密度の魔導力の結晶体なんだよー!」


「魔導力の結晶体?これが俺にどう関係すンだ?」


「うん。聖生石っていうのは、本来魔導力や魔導紋の強化に使われるんだけどね、魔導紋を持たない人に魔導紋を宿す効果も持ってるの。つまりね!これさえあればアギトにも魔導紋が宿るんだよ!やったねー!」


ガキが喜ばしさを表すように大袈裟に万歳をして見せる。そのガキのバカに明るいテンションとは裏腹に、俺は疑いの眼差しで目の前のガキと聖生石なるガラス玉を交互に見比べた。


この聖生石とかいうガラス玉の出どころもさることながら、これさえあれば俺にも魔導紋が宿るとか…ウォーアム人であり、法術を扱う魔女であるガキが言うのなら恐らく真実なんだろうが、どうにも胡散臭すぎる気がする。


猜疑心が滾々と湧き出て来る。この感覚はあれだ…パチンコ雑誌の裏面に載ってる美女を侍らせながら札束の風呂に入ってる男が写っている金運上昇のお守りとか、超幸運を呼び込むパワーが封じられている宝石があしらわれたブレスレットとかのどうにも胡散臭い精神系(スピリチュアル)商品の紹介ページを見た時の感覚に似ている気がする。


「このガラス玉がなぁ…本当なのかよ、その話」


「ほ、本当だよ!万が一魔導力や魔導紋を持たない人が召喚されてもいいように、ちゃんと前々から準備しておいた本物の聖生石だよ!一般市場に出回るのは欠片が精々だけど、これぐらい大きい完全な結晶体は滅多にお目にかかれないんだよー!もし市場に出回ったら、それこそ目が飛び出る高値が付く一品なんだからね!」


「…まぁ、そこまで言うなら信じるけどよ。ンで、これをどうすりゃいいんだ?」


まだこの聖生石に対する疑念は晴れないが、ここまで話を聞いて今更ゴチャゴチャ言っても仕方がないと観念し、俺はガキの言葉を信じて、この聖生石で俺の身体に魔導紋を宿す方法を訊ねた。


すると、俺に信じてもらえたのが嬉しいのか、ガキが一際晴れやかな笑顔を作って嬉しそうに口を開いた。


「うん、ノンデ!」


「………………………あ?」


ガキの言っている言葉の意味が分からず、情報処理のために脳が数秒間停止する。俺の聞き間違いだろうか。ニコニコとした嬉しそうな笑みを浮かべるガキの口から「ノンデ」とか言う言葉が俺の鼓膜を撫でた気がした。


ノンデ…このウォーアムの言葉で「身に着ける」とかいう意味なのかと思ったが、今の今までガキとは問題無く会話の応酬が出来ていたから多分それは違うだろう。ということは、つまり…。


「ノンデ、のんで…って、飲むのか?これを…?」


「うん、そうだよ。あっ、お水いる?」


「…いや、いらねぇ…チッ、かったりぃな…」


心配するポイントが若干ズレているガキに呆れながらも、俺は指で抓んだ聖生石を口の中に放り込んだ。聖生石は俺が想像していた通り無味無臭で、それこそ本物のガラスに似たキンとした硬い感触が舌先に伝わった。


俺は口を閉じたまま窄めた舌の上に唾液を溜め、覚悟を決めて聖生石を唾液と共に一気に喉へと押しやった。聖生石が喉を通過する苦しい圧迫感に苛まれながらも、最後にはゴクリと喉を鳴らして気合で嚥下する。


「んっ、ぐ…んおぁ、不味(マジ)ぃ…」


「おぉ~、お水も無しでよく飲み込めたね」


「はっ、こんなモン気合いだ気合。んで、これでいいのか?」


「うん。これであとは時間が経てばアギトにも魔導紋が宿るはずだよ。少なくとも飲んですぐに効果が出るわけじゃないから、それまでにそれを何とかしよっか!」


大型の飴玉サイズの聖生石を飲み込んで少し息の上がった俺の足元を指差しつつ、ガキが次の提案をして来た。その細い指の先を疲れた眼で追ってみると、そこには俺がガキと話し合うためにこの部屋の隅から持って来て座っている木箱があった。


「ぁあ?それって…この木箱か?これをどうすンだ?」


「もうっ、忘れちゃったの?アギトが言ったんだよ?立場は対等にって。だって、師匠である私がこうして椅子に座れてて、弟子のアギトがそんな木箱に座ってちゃどうしても対等って言えないでしょ?」


「…別に、俺からすりゃそこまで気にしねぇんだが、お前が言うならそうするか。んじゃ、どっか別の部屋から窃盗()って…」


「あっ…それなんだけど、いま私が座ってるような椅子って、これ以外は拠点(ここ)には無いんだー。ベッドとかの大型の家具なら少しは残ってるんだけどね」


「ぁん?そんなことがあるのかよ?椅子一つだぜ?」


「うん…この拠点って、昔この辺りで起きた大きな戦争の折に建てられた砦なの。そして、戦争が終わって撤収する際に、大部分の家具を持って行ったんだろうね。私がここに来た時に残ってたのは、持ち運ぶのが面倒そうな大型の家具ぐらいで、小型の家具は椅子を含めて食器一つ…お皿一枚すらも残ってなかったんだよ」


「…マジかよ」


「あはは、こんなことで嘘を言っても仕方ないよー。だからさ、今から師弟関係の記念すべき第一歩目として、一緒にアギトが座るための椅子を作ろー!」


法術にまつわる説明をし終え、ようやく望んだ師弟ごっこ(しゅぎょう)らしいことが出来るのがよっぽど嬉しいのか、ガキがやたらと高いテンションでそう告げた。


俺は弟子としての修行の第一歩目がまさかの大工作業だと言われ、面倒臭さからかさっき飲み込んだ聖生石のせいか分からないが、胃がもたれるような気怠い感覚に襲われながら「かったりぃ」と溢すのが精一杯だった。

ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます。


三話連続の説明回でした。前話前書きの気を付けるとは何だったのでしょうね…。

ひとまずこの物語の根幹を担うモノの簡単な説明回が一旦の区切りを迎えまして、次の話からやっと場面が転回します。まあ、まだこんな冗長さで続くのですが…。


酷いグダりを見た、ようやく終わったか、この長さで盛り上がると思ってんのかと思っていらっしゃる方々も多いと思いますが、ちょっとでも良いな、興味深いなと思って下さったらまた是非とも続きを読みに来て下さい。


また、誤字脱字、表記揺れ、設定の矛盾、感想等を頂けますと嬉しいです。

それと、ページ下部のいいねボタンや☆マークを押して頂けると私のテンションやモチベーション等が上がって創作の励みとなりますので、良ければきまぐれにでも押してやって下さい。


今後とも『バッドボーイ&ロンリーウイッチ』をよろしくお願いします。

12/26改稿。

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