魔導紋
この度は当方初投稿作『バッドボーイ&ロンリーウイッチ』を閲覧して頂きまして誠にありがとうございます。
この作品の作者の能村倅吉と申します。どうぞ宜しくお願いします。
この話は前話からの続きとなります。この話から読んでも展開が分からない場合がありますので、良ければ前話・前々話以前からもお読み頂ければ幸いです。
さて、前話の法術の説明に引き続き、今回は魔導紋に関する説明回です。
物語の根幹に関わるモノとはいえまさかの長さですよね。気を付けます。
今回も読んで頂いた読者の皆様の心、精神、感情、センスといった部分の何らかの琴線に少しでも触れられれば幸甚と存じます。
拙い話ではありますが、それではどうぞお楽しみ下さいませ。
―――魔導力。この惑星を創造した神の化身である二人の神子と、その配下である八体の聖霊達が星の開墾と開拓を行い、その後ウォーアム各地に眠ることになった聖霊達が世界に放っている残気のことを言うらしい。
この、聖霊が放つ残気は開拓したての世界に生命を繁栄させるのに必要なモノで、それと同時に魔導師が法術を行使するのに必要不可欠な要素だとガキは言った。
また、この世界に満ちている聖霊由来の魔導力とは別に、法術を扱う者が身に宿す魔導紋というモノ由来の魔導力も存在するらしく、次はこの魔導紋についてガキは教えてくれるという。
生命の繁栄に繋がる聖霊達の残気。それとは別口の由来を持つもう一つの魔導力…紆余曲折を経てひとまず法術の基礎となる聖霊由来の魔導力について理解した俺はもう一つの魔導力の源…魔導紋についての説明に向けて意識を切り替えた。
俺が聞き入る姿勢に身を正すと、ガキの方も咳払いを一つして喋る体勢に入った。
「それじゃあ、魔導紋の話をする前に、前提としてアギトに先に伝えておくことがあるんだけど…いいかな?」
「ぁん?なんだよ」
「えっとね、法術って言うのはこのウォーアムに住んでいる人なら誰でもその力を発現させることが出来る素質を持ってるって言ったのは覚えてる?」
「あ?あー…そう言やぁ、拠点に向かってる途中にそんなこと教わってたっけな。この星の奴なら誰でも大なり小なり素質を持ってるとかどうとか…」
拠点に来るまでの道中で交わした話の内容を思い出す。あの時はこの世界についてざっくばらんに教えてもらっていて、初めて耳にする専門的な単語の応酬に途中で脳の処理が追い付かなくなった。
けれど、朧気になった記憶の片隅には確かに魔導紋とかいう聞き慣れない単語と、それについての簡単な説明が擦り切れながらも辛うじて残っている。
すると、俺のその言葉を受けたガキが何故だか嬉しそうに顔をパァッと輝かせた。あんな道すがらに交わした些細な会話の内容だったとしても、当のガキからすれば俺に覚えていてもらったことが嬉しいような…明るいそんな反応だった。
「そうそう、それそれ!でもね、やっぱり法術を行使する魔導師として重要なのは生まれ持った天性の才能と、先祖代々脈々と受け継がれて来た血筋なのね」
「へぇ、才能と血筋、ねぇ…大方あれだろ?優秀な魔導師夫婦からは優秀な子供が生まれるとか、そんなトコか?」
「おっ、鋭いねー。そう、法術っていうのは誰でも自由に扱うことは出来ないの。ウォーアムに生きている人達はあくまで法術を扱る素養や素質があるってだけで、法術を上手く扱えない人の方が圧倒的に多いんだー」
「上手く扱えないって…そりゃあアレか?小規模な法術とかは普通に使えるけど、それ以上大掛かりな法術を使うのは難しい…この認識で合ってるか?」
「そうだね。前に聞いたことがあるのは、ウォーアムにおける人口の七割ぐらいは法術を上手く扱えないって聞いたかな?そして、より大規模な法術を扱えるために重要になって来るのが、私がさっき言った才能と血筋の部分なの」
「ふーん…血統至上主義ってのはどこにでもあるんだな。くだらねぇ…」
「あっ、血統至上主義ってアギトのいたトコにもあるんだね。アギトのいた世界のその度合いは分からないけど、ウォーアムはそれがすごい顕著なの」
「…まあ、法術なんつーモンがあるんじゃなぁ…そりゃ、それが指標にもなるか。もしかして、魔導力が弱かったりする奴は蔑ろにされたりすんのか?」
「うーん、そうだねぇ…露骨に蔑ろにされるんじゃなくて、自然と見下されたり、陰でひそひそ噂されたりとかが多いかな…全員が全員そうってわけじゃないけど、稀に魔導力を一切持たない人が生まれた場合、あからさまに一族単位で侮蔑される嫌な風潮は昔からあるかな」
ガキが俺の憶測の言葉を肯定する。そして、その台詞の最後には苦笑を織り交ぜて「まぁ、魔導力を持ってない人の方が珍しいんだけどね」と付け加えた。
その言葉を聞いて、俺は内心で驚いていた。俺は魔導師の素質を持つウォーアムの住人ならば、誰でも好き勝手に魔導力を使って法術を使えると思っていた。
法術を使用して日常生活に使うインフラを賄ったり、空を飛んで移動したりして、それこそメルヘンチックでファンタジックな暮らしを送っているものだとばっかり想像していたが、現実は俺が想像していたモノとは全然真逆だった。
魔導師には天性の才能と血筋が重要な要素であり、魔導力の弱い魔導師や魔導力を持たない奴は蔑まれるという結構シビアで現実感のある内容をガキから聞かされ、俺はこの世界に存在する法術と呼ばれる奇跡の一端の実情に辟易した。
「…とまぁ、ここまでが魔導紋の説明に関する大前提の話だね。分からなかったり忘れちゃったりしたら私にいつでも聞いてくれて良いからねー!」
そう言うと、ガキはまた自分の前に置いた水の入ったグラスを持って唇を付けた。眼前のガキが三度水を飲んで喉を潤している姿を確認すると、俺は出来の悪い頭をフル回転させ、これまで教えてもらったことを改めて整理することにした。
まず、聖霊神と呼ばれる神様がこのウォーアムという惑星を創って、その部下的な立場である二人の神子と、さらにその下に属する聖霊という高次元の生命体がこの惑星に世界と生命を造り上げた…これが、この星に法術が生まれた始まりらしい。
世界を造り終えた二人の神子の内の一方は世界から姿を消して、もう一方は世界に留まったらしいが、俺がいま知りたいのはこの世界における法術の在り方なので、その二人については今は一旦置いておく。
そして、聖霊達は事後に各地で眠りに就いて、自らがこの世界に生み出した生命を繁栄させるために自身由来の奇跡の力…法術を使うための要である魔導力を世界に放っているということだ。
ガキの話では自然界に存在している聖霊由来の魔導力とは別に、魔導師自身が宿す魔導紋という未だ知り得ぬモノから精製される魔導力があるという話で、それには才能と血筋が関係すると言う。
法術はウォーアムの者であれば誰でも簡単に扱える代物ではないことを鑑みるに、俺はその魔導紋とかいうモンが一般人と魔導師の間に一線を画していると何となく察することが出来た。
そこで、俺はグラスを置いて一息入れるガキを見ながら、ふと自分の頭に浮かんだ考えを口に出して訊ねてみた。
「なあ、その…魔導紋?とかいうやつなんだけどよ、やっぱりそれを持ってる奴と持ってない奴とじゃ何か違うのか?」
「おっ、積極的だねー!いいよいいよ!すっごく弟子っぽいよー!」
「茶化すな。んで、どうなんだ?」
「あはは、ごめんごめん…うん、そうだね。私達が呼んでる魔導紋っていうのは、魔導師や魔女が体内に宿してる疑似的な回路みたいなモノで、この世界に満ちてる聖霊由来の魔導力とはまた別枠で、法術を使うのに必要な魔導力を個人で精製して賄うことが出来るの」
「魔導力を個人で精製…?魔導紋ってのはそんなことが出来るのか」
「うん。普通の一般的なウォーアム人は簡素な魔導紋しか持ってないのに対して、魔導師としての素質が高い人は生まれた時から立派な魔導紋を体内に宿してるの。魔導紋が大きくて複雑であればあるほど、それが強い魔導師の証明になるの」
「なるほどな…それが魔導師と一般人の違いか」
「うん、そういうことだね。分かり易く言うと、魔導紋の大きさとその紋の構造はそのまま魔導師としての素養・素質の高さに反映される…つまり、生まれた時点で大きく複雑な魔導紋を持っていれば多くの魔導力を持ってるってことになるわけ」
「へぇ…つまり、それがお前の言った生まれ持った才能の部分に当たるわけか」
「その通り!そして、さっきアギトが言った通り、優秀な魔導師夫婦からは優秀な子供が生まれる…これが血筋の部分に該当するの。優秀な血筋に生を受けた子供はその才能も生まれながらにして高いんだよー!」
突発的に俺が思いついた質問に楽し気に答えるガキの反応を見るに、どうやら俺の考えていたことは正しかったらしい。
法術を扱える者とそれ以外の一般人を隔てる基準が、その身体に宿す魔導紋の質と所有する魔導力の量に表れるというなら、俺はそのガキの説明に頷けた。
俺が内心でその説明に納得していると、ガキの語った言葉に妙な違和感を覚えた。何だと思いガキの語った説明を頭の中で反芻させると、魔導力という言葉が主語を別々にして二つあることに気付いた。
聖霊が世界に放っている残気と呼ばれる魔導力と、魔導紋から精製される魔導力…法術に縁の無い生粋の地球人である俺にはその二つの違いが全然分からず、思わずその疑問が口から零れ出てガキに尋ねる形になった。
「んー…さっきっから聖霊由来の魔導力と魔導紋由来の魔導力とか言ってっけど、その二つは何か違うのか?どっちも同じ魔導力じゃねーのか?」
「おっ、いい着眼点だねー。そう、確かにどっちも魔導力っていう一点においてはその性質自体に差はないよ。でもね、基本的には聖霊由来の魔導力の方が法術を使うのに求められるその量が優れてるの」
「ぁん?量が優れてる?」
「そう。聖霊由来の魔導力は純粋で強力なモノなんだけど、一個人の手に負えない途方もないモノなの。でも、だからと言って個人が持ってる魔導紋から精製される魔導力だけじゃ上手く法術を発現させられないんだ。個人が持つ魔導紋だけだと…う~ん、中規模な法術を発動させるのが精々じゃないかな?」
「ほう…つまり法術ってのはそのどっちか一つの魔導力だけじゃ成立しねぇのか。でもよ、それでどうやって法術を使うんだ?」
「そこで魔導紋が役に立つの。魔導紋は聖霊からの魔導力を使って法術を扱う際、その強力な魔導力を制限するための濾過機のような役割も果たしてるの。そして、魔導紋から精製される魔導力も併せて使うことで法術を発現させられるんだー」
意気揚々と話すガキの言葉を受けて、俺はその一連の内容を自分なりに理解すべく足りない思考を回した。だが、ただでさえバカな俺がその魔導紋に関する仕組みをなかなか上手く理解することは出来なかった。
そこで、俺は魔導師や法術をひとまず俺に馴染み深いバイクに見立て、自分の中で噛み砕いて理解出来るように努めてみることにした。
魔導師が法術を行使するのに必要となる魔導力…これは俺がバイクを走らせるのに必要となるガソリンってことになるだろう。
なので、その理論でいけば魔導力=ガソリンということになり、このウォーアムに満ちている聖霊からの魔導力は強力な性能を持ったガソリンということになるが、その品質から一個人の手には負えない途方もなく膨大な代物であるらしい。
そして、その魔導力は魔導師が身体に宿す魔導紋を通すこと幾分緩和され、自分が宿す魔導紋からの魔導力と併せることで法術が使えるようになる…ってトコか?
果たしてこれで正しく理解が出来ているのかは甚だ疑問だが、ガキの話した内容を俺の中で噛み砕いて飲み込むにはこの考え方が一番だった。
「………」
「ん?あ、あれれ?どうかした?何か分かんないところとかあったかな?」
「ぁん?あー…いや、大丈夫だ。一応は理解したつもりだ」
「そう?あっ!でも、もしアギトが忘れちゃったりしても、私がその都度ちゃんと教えてあげるから心配しないでね!結構長々と喋っちゃったけど、取り敢えず今は魔導紋は法術を使うのに絶対必要なモノって覚えておけばいいよー」
そう言ってガキが一旦言葉を締め括ってグラスを手に取り、その中に僅かに残った水を一気に飲み干した。
そのガキの姿を見て俺もつられてグラスを持ち、未知の奇跡である法術の在り方とその仕組みを理解するのに躍起になって熱っぽくなった頭の中を鎮静化させるべくグラスの中に残った温い水を一気に呷った。
ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます。
物語の中における世界観や設定を事細かに練り過ぎると、私の表現力・執筆力ではこんなにも冗長になるのだと痛感しております。
この長ったらしい文体に飽きずにお付き合い下されば嬉しい限りです。
練り過ぎて意味不明、改稿しといてこのザマか、読み続けるかはこっちが決めるとお思いの読者の皆様ばっかりだとは思いますが、ちょっとでも良いな、面白いなと思って下さったならば是非また続きを読みに来て下さい。
また、誤字脱字、表記揺れ、設定の矛盾、感想等を頂けますと嬉しいです。
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今後とも『バッドボーイ&ロンリーウイッチ』をよろしくお願いします。
12/25改稿。