法術
この度は当方初投稿作『バッドボーイ&ロンリーウイッチ』を閲覧して頂きまして誠にありがとうございます。
この作品の作者の能村倅吉と申します。どうぞ宜しくお願いします。
この話は前話からの続きとなります。この話から読んでも展開が分からない場合がありますので、良ければ前話・前々話以前からもお読み頂ければ幸いです。
この話の世界観の一端を担う『法術』に関する回なので、ちょっと長めです。
地の文も多く、少々見難いかも知れませんがよろしくお願いします。
今回も読んで頂いた読者の皆様の心、精神、感情、センスといった部分の何らかの琴線に少しでも触れられれば幸甚と存じます。
拙い話ではありますが、それではどうぞお楽しみ下さいませ。
ガキと差し向かう形でテーブルに着いて、取り敢えず会話の取っ掛かりが欲しいと思った俺は、早速正面に座っているガキに向かって口を開いた。
「んで?弟子になることは了承したけどよ、俺はこれからどうなるんだ?」
「うん、それについてだけど…まずはこっちから幾つか改めて再確認したいことがあるんだけど、いいかな?」
「再確認?何のだよ」
「うん、アギトのいた世界についてなんだけど、確か…チキューって言ったっけ?そこには私みたいな魔女や魔導師、法術とかってモノが存在しないんだよね?」
少しだけ真剣さを帯びた口調でガキが訊ねる。その質問内容に、俺はガキと初めて出会った荒野でのやり取りを思い出した。
「ああ。一応魔女とか魔法使い、法術じゃねぇが魔法ってモンは言葉だけあるが、別に現実に存在してるわけじゃねぇんだ。そういったモンは、全部架空の話の中に登場するだけの代物だな」
「う~ん、そっかー。えっと、法術も存在しないってなると、それじゃあやっぱり法術を使うのに必要な魔導力や魔導紋も存在しないってことだね。う~ん…」
癖なのだろうか、ガキが顎の先に人差し指を添えながら考え込む。俺はそのガキの仕草を見ながら、この世界に存在する魔法…話に出た法術ついて知りたくなった。
確かこの廃墟に来る道中に色々と教えてもらったが、それはあくまで単語の意味の表面を撫で切りしたようなザックリとした説明だった。
俺が想像している魔法はこの世界では法術と呼ばれていること、そして魔法使いは魔導師や法術師…女性であれば魔女と呼ばれているってことは、先の道中で聞いてなんとか把握している。
しかし、ガキの口から度々出る魔導力や魔導紋と呼ばれる専門的な用語については未だに完璧に頭には入っていないのが現状で、法術そのものに関係する詳細を俺はまったく知らないままでいる。
ウォーアムにおける魔法…そもそも法術というモノが俺からすれば未知の代物だ。これからその未知の技術を教わって修得するにあたり、俺は少しでも詳しい情報が欲しいと思い、考えあぐねいているガキの思考に割って入るように口を挟んだ。
「なあ、そもそもの話よ…お前がさっきから言ってる、その”法術”ってのは何だ?俺が想像してる”魔法”ってモンに似たモンだってのは何となく理解してんだけど…一体どういうモンなんだ?」
「えっ?ああ、そう言えばまだ詳しく教えてなかったっけ。そうだねぇ…う~ん…じゃあ、まずは法術の基礎の基礎、法術の成り立ちから教えよっかな。説明するとちょっと長くなるんだけど、構わない?」
「おう」
俺が返事をすると、ガキが「りょーかーい!」と、甲高く間延びした声を上げた。こっちは割と真剣だっていうのに、その気楽そうな高い声を上げたガキにの態度に俺のこめかみが少しだけピクつく。
すると、ガキは持って来てテーブルの上に置かれた水の入ったグラスの内の一つを手に取って口へと運び、グラスを傾けて少し飲んで喉を潤すと小さく咳払いをして口を開いた。
「コホン…じゃあまず法術そのものについてなんだけど、法術はここに来る途中で軽く話した通り、法術の正式名称は魔導法術って呼ばれるモノなの」
「ああ、確かそんなこと言ってたな。確か、一種の奇跡だったか?」
「そう、奇跡。法術に関係している全ての始まりは、この惑星を創造した聖霊神…ウォーアムに住む人達から神様って呼ばれる存在から始まってるの」
「神様、だぁ…?」
それまで子供のように元気で溌溂としたガキの声色に真面目さが含まれ、俺は口を挟むことが憚られるような妙な緊張感を覚えた。
法術についての詳しい話や説明を聞きたかったはずなんだが、その口火がまさかの神様とかいう余りにもデカすぎるスケールから始まったことに、俺は驚きと呆気を隠せなかった。
説明の規模が壮大過ぎだろと思いつつ、俺は取り敢えずこのままガキに任せたままその話の続きを聞くことにした。
「聖霊神はこのウォーアムの母であり創造神なの。その聖霊神がウォーアムという星を創造した後、世界を構築するのに自らの化身である二人の生命体を作ったの。時の流れを司る子と、万物の有無を司る子の二人ね。この作られた二人は聖霊神の代行者ってことで、ウォーアムに住む人々から神子って呼ばれてるの」
「化身の神子?それも神様みてぇなモンか?」
「うぅ…難しいトコだなぁ…確かに同一視されることもあるけど、あくまで神子は聖霊神の代行者だし、聖霊神と違って肉体を持ってるから、取り敢えず私としては別物だって考えて欲しいかな」
「なるほどな…話の腰折って悪いな、続けてくれ」
「あはは、別に謝らなくても大丈夫だよ。それでね、その神子の下にはそれぞれの配下である四体の聖霊が存在してるの。神子の二人は配下の聖霊達を率いて世界を造って、人を含めた様々な生命を星の中に誕生させて繫栄させていったんだよ」
立て板に水が流れるようにスラスラと喋るガキの話は異邦人の俺にも分かり易く、簡単な身振りや手振りを交えながら教えてくれるので、バカな俺でもその関係性をスッと理解することが出来た。
まず、神様とか呼ばれている聖霊神がいて、その下に件の神様が生み出した神子と呼ばれる世界創造の実働隊である神の代行者が二人と、その二人の下にそれぞれの配下である聖霊が四体存在するらしい。
そして、その二人の神子と聖霊を含めたこの十人(?)が協力し、このウォーアムの惑星を造り上げたという話だ。
そのガキの話すウォーアムという星の創世の顛末を聞き、俺の脳内では日本神話に登場するイザナギとイザナミの国生みの話がぼんやりと連想された。
「…似たような話は星を超えてもあるモンなんだな」
「あれっ?アギトがいた世界にも、神様や聖霊って存在してるの?魔導師や法術は存在してないのに?」
「ん?あー…なんつーか、いる…っぽいってだけだ。俺個人は目に見えねぇ存在は信じてねぇってだけで、そういう存在を信じて奉って祈ってる奴もいるんだよ」
唐突なガキからの質問に俺は歯切れを悪くして答えた。別に俺は心の底から神仏やスピリチュアル的なモノを信じてるわけじゃないし、かと言って人様のその信仰を否定したり拒絶する気も無い。
月一で投函されるクソ親父からの生活費の余りを近所にある神社や寺院の賽銭箱に投げ込んでいるのは別に信心からってわけでなく、あくまであのクソ親父に対する俺の反骨精神に起因している行いだ。
それに、見たことも無い神様や聖霊といった概念的な存在と、実際にこの惑星へと召喚されて、それを行った魔女を自分の目で確認した実体的な存在を比較するのはまた別の話だ。
そのことを言葉の最後に付け足すと、俺はガキに話の続きを話すように促した。
「…横道に逸れちまったな。んで?その後はどうなったんだ?」
「うん。神子と聖霊達が世界を造って生命を繁栄させた後、二人の神子の内片方は役目を終えると世界から姿を消して、もう片方はそのままこの世界に留まったの。自分自身で創り上げた世界と生命の行く末を見守るためにね」
「へぇ、律儀な奴もいたモンだな」
「あはは、そうだね。うん、前口上が長くなっちゃったけど、ここからこの世界に法術が存在する話に繋がるの。アギトはこの世界の人じゃないから、なるべく混乱しないように一つ一つ教えながら話すね」
ここまでこのウォーアムという星の創世記の顛末を簡単に語っていたガキの口調に角ばった真剣さが宿り、まるで手厚く勉強を教える教師のような雰囲気を纏った。
いよいよ法術に関する話の核心が聞けると思った俺は、それまでだらっとしながらガキの話を聞いていた姿勢を無意識に正した。
頬杖をついていた手を崩し、それまで猫背の体勢で座っていた姿勢を幾分伸ばす。そして、俺はガキの話を続けて聞き入ることにした。
「それじゃあ、法術の話をする前に、まずは法術の大元になってる聖霊と魔導力の関係について説明するから、分からないところがあったら言ってね」
「おう、頼んだ」
「うん。じゃあ最初は聖霊についてね。二人の神子の配下である聖霊達は、元々は聖霊神によって作られた、人よりも遥か高次元にいる生命体なの。聖霊達は世界を創った後は散り散りになって、今もウォーアムの各地に眠ってるの」
「高次元の生命体?それもさっき言ってた神子と一緒な感じのモンなのか?」
分からないことがあったら言えとのことだったので、人間よりも遥か高次元にいる存在なのに眠ることがあるのかと思い、俺は早速ガキへと質問を投げ掛けた。
すると、ガキは答えに窮したように眉根を下げて困った顔を浮かべた。
「うぅ~ん…これも人によって判断が異なるんだけど、半分半分って感じかなぁ…聖霊って言うのは物体であり概念、現存しながらも非有でもある存在だからねぇ。取り敢えず、今は何となく在るモノだって認識しといてくれたら嬉しいな」
「そうなのか…まぁ、じゃあそう思っとくわ。んで?そいつらが今もウォーアムに眠ってるってのは分かったが、それと魔導力がどう繋がるんだ?」
「うん。聖霊達はウォーアムの各地に眠った後、それぞれが有していた力の残気をこの世界に放ってるの。自らが生み出した生命が繁栄しやすくなるようにね。その残気こそが法術を使うのに必要な要素…私達が魔導力って呼んでいるモノなの」
ガキの説明は聞き取りやすく、一回一回ちゃんと理由も挟んで教えてくれるので、座学がとんと苦手な俺でも法術の大元の在り方をすんなりと理解出来た。
要は、この世界を創った聖霊が法術の源である魔導力を生み出してるって話だが、俺はガキの説明の中で気になったことがあったのでそれを聞いてみることにした。
「まぁ、法術の大元になる魔導力ついては大体分かったがよ、話に出て来た生命が繁栄しやすくなるようにってどういうこったよ?魔導力ってモンは人の生き死にに係わるようなモンなのか?」
「ううん、それは少し違うよ。えっとね、自然界に満ちてる聖霊由来の魔導力は、このウォーアムでは生命力と一緒の意味を持ってるの」
「生命力…だから、それって生き死にってことじゃねぇのか?」
「う~ん、どう説明したら分かり易いのかな…ここで言う生命力っていうのはね、魔導力を使って治癒の法術を行使して怪我を治したりとか、身体の基礎的な性能を底上げしたりすることを指すの。こう言えば少しは分かり易いかな?」
「あ~…それなら寿命とは違うな。要は人間のフィジカル周りに関わることか」
「えっと…その、ふぃじかる?っていうのは分からないけど、アギトの中で誤解が解けたんだったら何よりだよ。それにね、ウォーアムの世界には魔導力を糧にして生きてる罪深い存在もいるの」
「…糧にして生きてるって、そんな剣呑なのがいんのかよ…」
「そうだよー。まあ、そんな危険な存在なんて滅多に現れないけどね。とにかく、魔導力と生命力はお互いに還元されるモノ…これが私の言う生命の繁栄ってことに繋がるの」
多少の思慮はあったものの、ガキは俺の質問に概ね言葉を痞えることなく、むしろスラスラと饒舌に例まで出して教えてくれた。
俺がそのガキの丁寧で分かり易い説明に納得していると、ガキはどこか自慢気な爛々とした笑顔を崩さず、続けてその小さな口を開いた。
「そして、魔導力には自然界に在る聖霊由来の魔導力以外にももう一つあってね、魔導師や法術師が宿す魔導紋由来の魔導力の二つがあるの。法術を行使するには、この二つの魔導力が必要なんだよー」
「魔導紋?あー…そう言えば結構言ってたな、そんな言葉」
「あっ、覚えててくれたんだ。うん、法術についての大まかな説明は終わったし、今度はこの魔導紋について教えるねー。これもアギトに覚えておいて欲しい法術の大事な要素だから、アギトも適当にお水を飲んで休憩しながら聞いてねー」
そう言うとガキは再びグラスを傾けて水を口に含み、喉をコクリと小さく鳴らして嚥下した。その姿を見て俺も木箱の上へと落ち着けていた腰の位置を改めて直し、テーブルの上に残ったもう一方のグラスを手に取った。
この世界に召喚されて初めて口にする異星の飲み物に多少の抵抗はあったものの、ガキが飲んで無事そうなことを確認すると恐る恐るグラスの縁へと唇を触れさせ、その透明な液体を口の中に少しだけ含んだ。
口腔内を潤すその透明な液体は本当にただの水だった。俺は慣れ親しんだ水の味に安堵して一気に半分まで飲んでグラスをテーブルに置くと、俺のそのタイミングを見計らったかのようにガキが再び話を始めた。
ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます。
もっと端的に説明しろor書けと言われている気がします。
なるべく丁寧に分かり易く書いた結果がコレでして…物を書くのは難しいですね。
本文の後半の展開通り、このあともう一回説明回が続きます。まさかですよね。
分かり難いぞヴォケ、結局法術って何なの?、もう一回説明回とかふざけるなと、読者の方々においては様々な思いが去来していることと存じますが、ちょっとでも良いな、興味出て来たなと思って下さったらまた是非続きを読みに来て下さい。
また、誤字脱字、表記揺れ、設定の矛盾、感想等を頂けますと嬉しいです。
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今後とも『バッドボーイ&ロンリーウイッチ』をよろしくお願いします。
12/16改稿。