道中
この度は当方初投稿作『バッドボーイ&ロンリーウイッチ』を閲覧して頂きまして誠にありがとうございます。
この作品の作者の能村倅吉と申します。どうぞ宜しくお願いします。
この話は前話からの続きとなります。この話から読んでも展開が分からない場合がありますので、良ければ前話・前々話以前からもお読み頂ければ幸いです。
ようやく話が進展して、リスティーシァの拠点に赴く話です。
内容を詰め込み過ぎた気がしなくもない気がします。
今回も読んで頂いた読者の皆様の心、精神、感情、センスといった部分の何らかの琴線に少しでも触れられれば幸甚と存じます。
拙い話ではありますが、それではどうぞお楽しみ下さいませ。
荒野を出立してガキの拠点へと向かう道中、俺達は様々な話をした。
「アギトって良い名前だね」と言うガキのおべっかから始まり、このウォーアムは地球と同じく酸素があって呼吸をしていられること、様々な多民族が共存している惑星であることが明らかになった。
時間の進み方や暦の存在が地球と同じなのには驚いたが、遥か古い時代から人型の知的生命体が存在して、その目に見えない時間の流れの概念を理解して洗練すれば類似したようなモノが出来るのだろうと思った。
言語を理解していることに関しても俺は話を聞いてみた。異星人同士である俺達がこうして共通の言語を介して通じ合ってられるのは、ガキが召喚を行った際に俺をこの世界に順応するように手を加えたからとのことらしい。
しかし、本来のガキの想定であれば、召喚した時に俺に言語を順応させると共に、このウォーアムという星に関する一般的な知識や常識なんかも一緒に会得している状態で召喚されているはずだと言う。
そういう理屈であれば言葉が通じ合っているのは理解出来たが、生憎と召喚された俺の知識の中にはウォーアムに関係する知識や常識は皆無だった。
ガキの方としても、どうして俺がこういう状態になったのかが分からず仕舞いで、最終的には「まぁ、追々学んでいけば良いよね!」と、どこか楽観的な軽い言葉でこの話題を締め括った。
そして、歩き始めて二十分ぐらい経ったぐらいだろうか。砂塵が舞い踊る無機質な枯れ果てた黄土色の荒野は徐々にその景色を少なくし、ある境界を皮切りにして段々と俺達の周囲に草木の緑が目に入るようになって来た。
足を進める毎に痩せ乾いた大地は姿を無くしていき、その代わりに地面には枯草が増えて行き、疎らに生える枯れた立木がその姿を現した。
その枯れた草木を抜けてさらに歩けば、今までの陽射しが降り注ぐ寂れた荒野とは打って変わった景色が俺の視界に広がった。
幾つもの見たことも無い逆立った樹皮を持つ背の高い木々が乱立したかと思えば、一歩進む毎にその木々が密集して空からの陽射しを遮り、気付けば全体的に薄暗い鬱蒼とした森が俺達二人を囲んでいた。
周囲の変化に驚きながらもガキの後ろを付いて行けば道幅はどんどんと狭くなり、地面から脹脛辺りまで伸びる雑草と地面の泥濘も合わさり、まるで雪道に出来た歩き難い車の轍を歩いている気分になる。
そんな、まさしく文字通りの魔女の拠点があるのに相応しい怪しげな森の雰囲気に気圧されながらも、俺は獣道然とした道とも呼べない細い通路を歩くガキの後ろを付いて歩く。
そして、そんな最中でもガキは楽しそうに俺に向かって話をし続け、その中で俺はこの世界における魔法使いや魔法に関する色々なことを教えてもらった。
俺を含めた一般的な地球人がパッと思い浮かぶ魔法とは、どうやらこの世界では「法術」…正式には「魔導法術」と呼ばれる一種の奇跡のことを言うらしい。
略せば魔法になるじゃねぇかと言うも、ガキが執拗に「法術!」と繰り返すので、俺は郷に入っては郷に従えの精神で、かったるいながらもそれを受け入れた。
法術はウォーアムに住む者ならば誰でもその能力を発現させることの出来る素質を多少なりとも持っているとのことだが、高位の法術を行使するのには血筋や才能が必要だとガキは言った。
その話を聞き、異星人の俺にでも法術を扱えるようになるのかと訊ねると、ガキが無い胸を張って「任せといて!」と元気に答えたが、正直に言って不安しかない。
また、俺の思い浮かべている魔法使いという存在は、この世界では「魔導師」や「法術師」などと呼ばれる普遍的な存在で、このガキを含めた女性の法術使用者は「魔女」と呼ばれているらしい。
魔導師と法術師の何がどう違うのかがふと気になってそのことを訊くと、どうやらこの二つには明確な違いは無いらしく、名乗る術者によって違う程度とのことで、俺は短絡的に医師と医者の呼び方の違いのようなモノだろうという認識に留めた。
続けて話を聞くと、魔導師や魔女は「魔導力」と呼ばれる要素と、「魔導紋」なるモノを以て法術を行使する者の総称であるとガキは答えた。
ガキからすれば教える師匠としての立場と、このウォーアムについて何も知らない俺に善意からこうして事細かに教えてくれているんだろうが、俺はもうこの段階で腹一杯だった。
法術だの魔導師だの魔導力だの魔導紋だの…魔女の弟子となったからには押さえておくべき重要な要素なんだろうが、それにしたって駆け足で教え過ぎだと思った。覚えておくことが多すぎて、段々とかったるくなって来る。
今までの人生の中で聞いたことの無い単語と、その説明の応酬に辟易しながらも、俺はどうにかしてその単語と意味を理解して覚えようと、知恵熱で熱暴走しそうな頭をガリガリと無造作に掻いた。
「あっ!ねえねえアギト、見て見てー!あれが私の拠点だよー!」
すると、俺の前を先導しながら歩いていたガキの一際賑やかな声が周囲に響いた。わざわざ俺の側まで走って戻って、まるで欲しかったオモチャを見つけてはしゃぐ子供のように俺の学ランの裾を引っ張って前方に指を差す。
ガキと話込んでいる内にどうやら目的地である拠点が目に入る地点にまで来ていたらしく、俺は果たして魔女の拠点とはどんなもんぞや思いながら、はしゃぐガキを抑えつつ前方へと視線を向けた。
「…ぁあ?」
自分でも驚くぐらい怪訝に感じる声が出た。ガキが指す方…逆立った太い幹を持つ木々の細い隙間から覗けた先は明るく拓け、そこには確かにガキの言う拠点らしきとある建造物の影が見えた。
ただ、いま俺達が立っている場所からはその建物の全貌は明らかになってないが、少なくともこうして遠目で見る限り、その建物は…俺の目には半壊しているように見えてしょうがなかった。
「…あれが、お前の拠点か?」
「うん、そうだよー!こんな深い森の中に建ってるからか全然人目に付かないし、姿を隠すには最適なんだよね。それに部屋も広くて快適なんだよー!」
嬉しそうに喋り立てるガキを尻目に、俺はその言葉に不信感と猜疑心を抱きつつ、まずは自分の眼でその真実をハッキリ確かめようとガキと一緒に足を進めた。
一歩、また一歩と森の方からその建物へと歩み寄る毎にその姿や形が克明になり、立ち並んだ雑木を抜けた途端、俺の目に森の中に拓けた広大な土地の姿が見えて、その只中に建っている建造物の全貌が目に入った。
そこには、まるで小さな城塞か砦の成れの果てとも言うべき、外壁の崩れた廃墟が周囲の鬱蒼とした森の雰囲気と調和するように泰然と聳えていた。
暗い鈍重さを感じさせる灰色の煉瓦を積み重ねられて造られたその廃墟の外壁は、外周を取り囲む森から伸びた蔓や蔦に建物の半分以上が覆われており、一見すると洋書のおとぎ話に描かれた挿絵のような幻想とロマン溢れる趣を醸している。
廃墟自体の規模は俺達の見ている場所から正確に把握することは出来なかったが、横長に見える廃墟の高さは三階建てのビルに相当するほどに広く大きい。
廃墟の向かって左側部分には建物より少し高く造られた物見櫓のような塔が建ち、それと対照的に建物の右側部分は正面上部の中央付近から斜め右下にかけて見事に崩れ落ちていた。
俺の視線が捉える廃墟の正面から少し視線を右へとずらしたところには重厚そうな木製の門扉が備えられてはいたが、そのすぐ隣の崩落している部分が門扉の存在を完全に意味の無いモノにしていると感じてしょうがなかった。
「…もう一度聞くけどよ、お前はここに住んでんのか?」
「…?そだよ。もうっ、聞いてなかったの?」
「いや、そういうわけじゃねぇが…はぁ、かったりぃな…」
諦観交じりの溜め息を吐き、首横に手を添えて首をボキボキと鳴らす。そんな俺をガキは不思議そうな顔で見ていたが、俺は素知らぬ態度と顔を貫いた。
ガキ…魔女の拠点に案内されると知って、俺は内心どんな家なのかと色々と勝手に想像を膨らませていた。
恐怖の館のような洋館、怪しさ満点のボロ屋、森の中に入ってからは童話や絵本に出てくるお菓子製の家まで想像を飛躍させたが、まさか正解が廃墟だとは思わず、俺は変な肩透かしを喰らったとガキに気取られたくなかった。
「う~ん…何だか良く分からないけど、もしかして結構歩いて疲れちゃったかな?家に着いたら飲み物でも出すから、早く行こっ!」
そう言うと、ガキが俺の学ランの裾を引っ張りつつ廃墟へと向かって歩き出した。俺はガキの成すがまま半ば引き摺られる形でガキの拠点…どこか幻想的な雰囲気を宿した魔女の廃墟へと向かうこととなった。
ここまで読んで下さり、本当にありがとうございます。
向かってる→着く→入ったをもう少し簡単に書きたいモンですね。
拠点の外観のイメージは、アイルランドにあるリープ城を廃墟化させて半壊させた感じで書いてますが…伝わっているのでしょうかね。
ムダに話を希釈して文字を稼ぐな、アイルランドに謝罪しろ、伝わるように書けとお思いの読者の方もいるでしょうが、少しでも良いな、続きが気になるなと思って下さったのならば、また是非とも続きを読みに来て下さいませ。
また、誤字脱字、表記揺れ、設定の矛盾、感想等を頂けますと嬉しいです。
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今後とも『バッドボーイ&ロンリーウイッチ』をよろしくお願いします。
12/15改稿。