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恋し子のために閻魔王宮に至る人の話

作者: 作者不詳/宮本隆邦訳

今は昔、天竺に一人の修行僧がおりました。


(悟りを開いた最高位、阿羅漢となる)


そう思い修行してきましたが、60歳にいたっても、阿羅漢になることができませんでした。このことを歎き悲しんでいましたが、とうてい力およびませんでした。



そこで、その人は家に帰って、


(私は『阿羅漢となる』と思い、長年、修行してきたが、もうムリだ。還俗(げんぞく)して家で過ごそう)


そう思い、俗人に戻りました。その後、妻を儲けました。その妻がすぐに懐妊して端正な男の子を産みました。父はこの子をこの上なく愛しました。



その子が7歳になったとき、思いがけず死にました。父はこれを悲しんで、外に葬らずにいました。近所の人がこれを聞いて、


「おまえさん、それは大変おろかな事だよ。死んだ子をあわれんでまだ葬らないなんて、ほんっとうにおろかな事だよ。もう死んでるんだよ。早く葬りなさい」


そう言い、奪い取って葬りました。



その後、父は悲しみに堪えられず、我が子をまた見たいと願い、


(閻魔王の所にお伺いして、我が子を見ることを頼もう)


そう思いましたが、閻魔王のいらっしゃる所を知らず、他人に尋ねました。その人いわく、


「これよりそちらに幾許(いくばく)か行くと、閻魔王宮があります。大河があります。その河上に七宝の宮殿があります。その中に閻魔王がいらっしゃいます」


父はこれを聞いて、教わった通りに行きました。それは遥か遠い道のりでしたが、本当に大河がありました。その河の中に七宝の宮殿がありました。これを見て、喜びつつおずおず近づいていくと、やんごとないお方がいて、尋ねられました。


「お主は何者だ」


「私はかくかくしかじかの者です。我が子、7歳で亡くなりました。これを恋い悲しむ心堪えがたく、また見たいと王に申し請うために参りました。願わくは、王、慈悲の心で私に子をお見せください」


この人、王にこのことを申すと、王は、


「すぐさま見るがよかろう。その子は後ろの園におる。行って見るがよかろう」


父は喜びの心深くして、教えに随って、そこに行って見ると、我が子がおりました。同様の童子共の中に遊び戯れておりました。



父はこれを見て、子を呼んで、泣きながら言います。


「私はいつもおまえを深く恋い悲しんで、王に申し請うて、見ることができたんだ。おまえは恋しくないのか」


涙にかき暮れて言いますが、子は少しも歎く気色なく、父とも思いいたらず遊びに行きました。父はこれを不満に思い、泣くこと限りありませんでした。しかしながら、子は何も思わず何も言うことはありませんでした。父は歎き悲しみましたが、甲斐なく帰りました。



(しょう)を隔つ」といいますが、あの世とこの世に分かれてしまえば、本の心は無くなるのでしょう。父はいまだ世を替えずにいますから、このような恋い悲しむ心があるのでしょう、と語り伝えていますが。

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