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思わずエレクトラと一緒に久しぶりに実家に帰ったものの、どうしたらいいのか皆目見当がつかなかった。
エレクトラとシオンを会わせないというのはできない。同じ邸で暮らしているのだから。
「あのさあ、お姉様」
馬車から降りて一緒に玄関に向かいながらエレクトラが、のんびりと話しかけてきた。前世を語った時とは違い緊張感がまるでない。
「馬車の中で険しい顔で一言も話さなかったけど、何を思って今日に限って私と一緒に実家に戻ってきたの? 実家が嫌で寮に入ったんでしょう?」
正確にはシオンが寮に入れてくれたのだが。そんな事はどうでもいい。
「妹が『私』になったからじゃないでしょ?」
妹と違って人の心の機微にも聡い彼女は、それが理由ではないと分かっている。
「……気になる事があるの」
ここまで来たのだ。どういう結果になるにせよ、まずシオンとエレクトラを会わせてみるしかない。
ようやく、そういう結論に達した。
わたくしの危惧など杞憂に終わるかもしれないのだ。
杞憂に終わらなければ、その時は――。
(……「シオン」を取り戻すわ)
シオンにとって今生の人生はつらいものだろう。
前世の人格になったほうがシオンにとっては幸福なのかもしれない。
それでも、嫌だった。
それがシオンの幸福なのだとしても、絶対に認められない。
シオンから愛される事など望んでない。
土台無理な話だ。
あの男の娘に生まれたのは、わたくしのせいではないと言ってくれても、だからといって愛されるはずがない。
シオンを地獄から救い出せないのなら、わたくしもあの男と同じだ。
何より、あの男と同じ色の髪と瞳を持つわたくしをシオンが愛せるはずがないのだから。
わたくしを愛さなくてもいい。
ただ「シオン」として生きていてほしい。どれだけつらい人生であっても。
あまりにも自分勝手な思いで、わたくしはシオンが「シオン」のままでいる事を望んでいる。
しばらくシオン視点になります。