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BL描写があります。
執務室を使うのは、主であるお父様と仕事を手伝わせているシオンだ。
次代のアーテル公爵は婿になる馬鹿王子がなるが、あの馬鹿がまともに執務できるはずがないので、嫡子であるわたくしにアーテル公爵としての教育を施すはずだった。
けれど、お父様が「女に何ができる」と言い放ち養子にしたシオンに本来ならわたくしがするはずの仕事を手伝わせているのだ。
多少胸が痛みはしたが、領民にとってはシオンでもわたくしでも自分達にとって良い「領主」なら、どちらでも構わないはずだと自分を納得させた。
実際シオンは、わたくしなどよりもずっと聡明だ。わたくしどころか、お父様以上に優れた「領主」になれるだろう。あの馬鹿王子が執務をするよりずっといい。
執務室の前を通りかかった時、扉の向こうから呻き声が聞こえた気がした。
お父様かシオンが体調を崩して苦しんで呻いているのかと思った。
何もないなら、お父様と相対した時、冷たい視線を向けられるだけなので、まずは様子を見ようとノックもせず、ほんの少し扉を開け中をそっと覗いた。
そこで見た光景をわたくしは生涯忘れられない。
窓から入る真昼の陽光に、シオンの限界まで広げられた真っ白な脚は真珠のような光沢を放ち、男の動きに合わせて揺れている。
執務机の上に、ほぼ全裸で苦し気に呻いているシオンを、お父様……いや、アーテル公爵が押し倒していた。
普段の使用人やわたくし達家族に対するような冷ややかな無表情が嘘のように、わたくしと同じ藤色の瞳を欲望にぎらつかせ、幼いシオンの体を貪っている。
……どこからどう見ても情交中、いや凌辱だ。
父は、わたくしと同じ黒髪に藤色の瞳。けれど、顔立ちは似ていない。それでも、社交界で貴婦人や令嬢達の注目を一身に集める均整の取れた長身の超絶美形だ。王女だった母も、そんな父を見初め無理矢理降嫁してきたのだ。
社交界で女性達の注目を集める美しく有能なアーテル公爵。
けれど、実際は、行き場のない美しい少年を弄ぶ最低最悪で下種なクズ野郎だった。
この時から、わたくしは、この男を「お父様」と呼ぶのをやめた。
こんな男を父と呼びたくない。
この男と同じ血がわたくしの体の中に流れていると思うだけで、おぞましい。
与えられる行為……いや、暴力に苦し気に呻くものの、シオンの瞳は、いつも以上に虚無だった。
まるで底のない暗闇を覗いたような。
人間が最後に逝きつく冥府の闇のような。
暗く、昏い、シオンの瞳。
見てしまった行為以上に、シオンの瞳に、ぞっとした。
シオンが気味悪く恐ろしかったのではない。
シオンが壊れてしまったのかと思ったのだ。
目が合った。
その瞬間、確かに、シオンの瞳に光が戻ったように見えた。
こんな光景を見られたのなら普通なら悲鳴を上げるだろう。そこまでいかなくても、どんな冷静な人間でも多少は驚きを表すはずだ。
けれど、シオンは、どちらもしなかった。
シオンは、ただ微笑んだのだ。
「大丈夫だから」と、わたくしを安心させるように。
初めて見たシオンの微笑。
今されている行為からは想像できない、儚く美しい微笑だった。
どれだけ踏みにじられても、彼の魂までは#穢__けが__#せない。
それを証明するような微笑だった。
この時、わたくしは、恋を自覚した。
出会った時は、ただシオンの虚無を抱えた瞳が気になっただけだった。
けれど、今は、尊厳を踏みにじられても、気高さ、美しさを損なわない、その魂に恋をしたのだ。
皮肉にも、シオンが父に体を弄ばれている場面を見て、わたくしは恋に堕ちたのだ。




