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シオンは今は取り潰されたアーテル公爵家の親戚筋のプラティヌム子爵家の一人息子だった。
光の加減で白にも銀にも見える淡い金髪、名前と同じ紫苑色の瞳。
幼くても整い過ぎた造作は無表情なのも相まって人間というよりは神様が特別に手をかけて創った人形のようだった。
初めて会った時は、本当に人形が歩いていると思ったくらいだ。
父であるアーテル公爵によって引き合わされた彼。
自分の養子に、お前達の義兄になるのだと言ったお父様の言葉など耳に入ってこなかった。
彼という存在に全てが惹きつけられたのだ。
圧倒的な美しさよりも、見ているようで何も見ていない、虚無を抱えたその瞳が気になった。
シオンに近づきたかった。
シオンと仲良くなりたかった。
けれど、そうすると必ず妹に奪われる。
妹は物だけではなく、わたくしのお気に入りの侍女や友人など、わたくしに近づく人間すら奪っていく。
そして、今回は、なぜかお父様まで、わたくしがシオンに近づくのを牽制している。
いや、わたくしだけではない。一応シオンの家族になった妹やお母様だけでなく使用人すら必要以上に彼に近づくのを嫌がるのだ。
最初はどうしてか分からなかった。
けれど、ある日、分かってしまった。
なぜ、お父様が親戚とはいえ取り潰された家の息子をわざわざ引き取ったのか。
お父様は、アーテル公爵は、生粋の貴族の男だ。同情や優しさで孤児を引き取る人間などではない。
ずっと疑問に思っていたが、その疑問は、偶然見てしまったある光景で解消した。




