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十八になったわたくしは正式にアーテル公爵となり、祖父である前国王の喪が明けた一年後、シオンと結婚した。
わたくしと妹の元婚約者だった馬鹿王子は、妹の事で王宮の外れにある西塔に幽閉された後、前国王の崩御と同時期に亡くなった。環境になじめず体が弱り亡くなった事になっているが実際は毒殺されたのだろう。責務よりも肉親の情で動いていた前国王と違い現国王と王太子は肉親の情よりも責務を優先する方々だ。馬鹿な王子を生かしておいては害にしかならないのだから。
わたくしとエレクトラの結婚に関しては、もう二度と王家に口出しさせないようにした。
二代に渡って王家の不良物件を押し付けられた上、エレクトラは首を絞められさえしたのだ(「彼女」となる前の妹の言動のせいだとしてもだ)。
王家がわたくし達双子に強く出られるはずがないし、ごり押ししても他の家から非難されるだけだ。
いざとなれば、アーテル公爵位を返上するつもりだった。
現国王であれば、前アーテル公爵(父)やわたくしよりも優秀な人間をアーテル公爵に据えるだろうし、「彼女」になった妹であれば、アーテル公爵家という庇護がなくても生きていけると思ったからだ。
アーテル公爵家に生まれた責務を果たすつもりだった。そのために、ずっと嫌われ、わたくし自身好きになれない馬鹿王子と婚約さえしたのだ。
けれど、いざ本当に欲しいもの、シオンが手に入るかもしれない事態になると、責務にこだわるのが馬鹿らしくなったのだ。
わたくしは、結局、あの両親の娘なのだ。
責務よりも、本当に欲しいものを手に入れる事を優先するのだから。
エレクトラは、わたくしが受けるはずだった文官試験を受け合格した。後に、コロル王国初の女性宰相になるのだが、それはまだまだ未来の話だ。
シオンと結婚して一年後、両親が亡くなった。
シオンは、わたくしを気遣って両親の死因を耳に入れないようにしてくれていたが、人の口に戸は立てられない。
噂から推測すると田舎の領地に押し込められた両親の死因は、どうやら荒れた生活のせいだ。
荒れた生活、もっとはっきり言えば両親の死因は荒淫だ。
前アーテル公爵を愛する前アーテル公爵夫人(母)が夫に媚薬を盛り、食事や排泄や入浴以外は、彼と「そういう事」に耽っていたというのだ。
男色家であり、まして妻を嫌っていた前アーテル公爵には耐えられない生活だっただろう。
おっとりのほほんとした前アーテル公爵夫人が自ら媚薬を求めたとは考えられないから、彼女に媚薬を渡し死ぬように仕向けたのは……シオンではないかと推測、いや確信している。
これが彼が言っていた尊厳を踏みにじる方法だろうか。
シオンがそうしたとしても、彼を恨む気はない。
だって、わたくしは血の繋がった家族よりもシオンが大切だし、彼にはそうする権利があるからだ。ずっと前アーテル公爵に尊厳を踏みにじられてきたのだから。
次話が最終話です。