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24(エレクトラ視点)

 私は他人に恋愛感情や性的欲求を抱けない人間、アセクシャルだ。


 だから、曽我紫苑(あいつ)でなくても、誰が求婚してきても受け入れる気はなかった。体が弱く子を()せないからではない。


 お姉様(ウィスタリア)に「結婚は絶対に嫌だ」と言ったのも、前世で曽我紫苑(あいつ)が私にした事だけが原因ではないのだ。ただ大半の人間は、私のようなアセクシャルを理解も共感もできないようだから(まして、ウィスタリアはシオンに恋しているから尚更だろう)納得してもらうために前世で起こった事を話したのだ。


 恋愛感情や性的欲求は抱けなくても好意や親愛くらいは持てる。


 だから、今生の姉であるウィスタリアの事は人として好ましく思っている。


 それは、この体の本来の持ち主である今生の人格、エレクトラの影響もあるのだろう。


 驚いた事に、エレクトラは双子の姉であるウィスタリアを慕っているのだ。


 ウィスタリアの瞳に映りたい一心で彼女の物を奪い続けてきた。その気持ちは微塵もウィスタリアに伝わっていないけれど。


 というか、そもそもウィスタリアは双子の妹(エレクトラ)に関心がないのだ。物を奪われて悲しみや憤りを感じても、エレクトラがなぜそうするのか、その理由を推し量る事はしないのだから。それだけ妹に関心がないのだ。


「私」となる前のエレクトラは気づいていなかったし、ウィウタリア自身、無意識だったのだろうが、幼少期以外でウィスタリアがエレクトラを名前で呼んだ事はない。


 エレクトラに対する呼びかけは「あなた」だし、他人とエレクトラについて話す時は「妹は」と言っていた。「妹」だと認識していても「エレクトラ」という個人としては認識していなかったのだ。


 皮肉な事に、ウィスタリアが双子の妹を「エレクトラ」という個人として認識しだしたのは、人格が「私」になってからだ。


 物を奪おうと、婚約者を奪おうと、エレクトラがウィスタリアの関心を引く事はできない。


 ウィスタリアに自覚があるかどうかは分からないが、彼女の世界は「シオンとそれ以外」で構成されているからだ。


 エレクトラの心理は理解できないし、したくもない。


 同じ魂の持ち主であろうと私とエレクトラは真逆な性格というだけでなく、「私」がウィスタリアが同じ立場で生きてきたのでエレクトラよりもウィスタリアのほうに親近感があるからだ。


 前世の私、菱崎藤子にも双子の妹がいて、その妹から自分の物を奪われて生きてきたからだ。


 父親が家族に無関心なのも、母親が厳しかった姑そっくりな姉娘(わたし)を厭い、自分そっくりな妹娘だけに肩入れする所まで同じだった。


 いや、少なくとも父は娘である藤子(わたし)を愛していたようだ。シオンの前世の死因を聞いて、ようやくそれが分かった。


 いくら財閥の総帥という多大な権力を持ち、敷地内での殺人くらいもみ消せるとしても、(わたし)を強姦し結果的に死なせた曽我紫苑(あいつ)を自ら銃殺したのだ。


 命令する事に慣れきって汚れ仕事は部下にやらせていたあの父が。


 だが、今更だ。


 だって、今の私は菱崎藤子ではなくエレクトラ・アーテルなのだから。


 菱崎藤子でなくなった私が今更前世の父の愛情に気づいても無意味なのだ。


 だから、前世の事は、もうどうでもいい。


 重要なのは、今生を後悔なく生きる事だ。


 だから、前世(藤子)の記憶があっても前世の恨みや憎しみに囚われて生きていたくはない。


 そう思っていても、藤子(わたし)を強姦し結果死なせた曽我紫苑が「曽我紫苑」のままであれば、この新たな人生を復讐に捧げたかもしれない。


 けれど、幸い彼は曽我紫苑(前世)の記憶はあっても、人格は今生のシオン・アーテルだった。


「そんな彼に復讐するのは間違っている」という理性と「シオンが死ねば、お姉様が悲しむ」という今生の姉(ウィスタリア)への気遣いが復讐の歯止めにもなった。


 私自身がウィスタリアに好意を持っているし、消えてしまった今生の人格(エレクトラ)も歪んではいても姉への愛があった。


 今生の姉(ウィスタリア)がシオンに恋しているのも、私がシオンに復讐しない理由の一つなのだ。





 

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