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予想はしていたとはいえ、常に冷静沈着なシオンが慌てた様子でエントランスホールにやって来て「エレクトラ」を凝視した時は胸がざわついた。
胸がざわついたのは、愛する男性が自分以外の女性を凝視した事への嫉妬からではない。
シオンが「彼女」と会った時、彼がどうなるのかという心配と不安からだ。
少しでもシオンの「彼女」を見る目に恋情が混じっていたのなら嫉妬したかもしれない。
けれど、シオンの目には、そんなもの欠片もなかった。
――衝撃。
それ以外の何物でもない。
「彼女」が目の前に現れた事に多大なショックを受けている。
それだけで充分だった。
やはりシオンと「彼女」は前世で因縁があったのだと理解するのは。
「シオン!」
シオンの均整の取れた長身がふらりと床に倒れそうになったので、わたくしは慌てて支えた。
といっても、成人男性であるシオンの体は重く完全に支えきれなかったが、彼の頭が床に直撃するのを防げたのは幸いだった。
使用人達に気絶しているシオンを彼の私室に運ばせるように指示を出すと、先程のわたくしのように強張った顔のまま立ち尽くしているエレクトラを振り返った。
「エレクトラ、わたくしかあなたの部屋で話しましょうか」
エントランスホールで立ち話もどうかと思うし、何より、前世云々の話を聞かれて妙な噂を振り撒かれてはたまらないので提案した。
「……そうね、お姉様。あなたに聞きたい事もあるし」
エレクトラは強張った顔のままで了承した。