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12(シオン視点)

 美しく聡明な公爵令嬢。


 人から見れば恵まれているタリアだが、婚約者と家族には恵まれなかった。


 父親は無理矢理結婚させられた妻には嫌悪感しかなく、その妻との間に生まれた双子(娘達)に対しても無関心だ。


 母親は自分に厳しかった姑に酷似した長女(タリア)を嫌悪し、自分に外見も中身も似た次女(エレクトラ)だけを溺愛した。


 脳内花畑のタリアの双子の妹エレクトラは、(タリア)の物だけでなく彼女と仲良くなった友人や使用人をも奪っていく。


 なぜ、エレクトラがそうするのか、おおよその見当はついている。認めたくないが、私とエレクトラのタリアへの想いの根底は同じだからだ。


 王命で婚約者にさせられた第二王子は見目はいいが馬鹿で無能で、自分よりも優れたタリアにコンプレックスを抱いているのか、彼女に対する態度は傍若無人で何度殺したくなった事か。なので、エレクトラがタリアから彼女の婚約者(馬鹿王子)を奪い取ってくれた時だけは心の底から感謝した。


 何にしろ、タリアの婚約者と家族は彼女にとって毒でしかない。


 タリアをアーテル公爵家という牢獄から解放したかった。


 愛し愛される、まともな家族を手に入れてほしかった。


 ただタリアをアーテル公爵家から解放し、平民にするだけなら簡単だった。


「女に何ができる」と自分よりもずっと有能な総領娘(タリア)に言い放ったアーテル公爵は、養子にした私に領地経営を丸投げしてくれたお陰で養子になって三年程でアーテル公爵家を掌握できたからだ。それだけでなく前世の知識を活用して、こっそり商売を始めたのでアーテル公爵家を上回る個人資産を稼ぎ出した。タリアと二人平民となっても生活に困らない。


 けれど、家族が最悪であってもアーテル公爵家に生まれたお陰で恵まれた生活ができている。それに付随する義務と責任は放棄できないと考えているタリアには、貴族籍を抜け平民になる選択肢は最初から存在しなかった。


 だが、そのタリアの覚悟は、馬鹿で愚かな婚約者と家族が粉砕してくれた。


 家族や婚約者に愛されなくても、「女に何ができる」と父親に馬鹿にされても、将来家を継ぐために、領民の生活を支えるために、タリアは勉学や社交に勤しんできたのだ。その彼女の頑張りを馬鹿共は否定したのだ。


 タリアが家族や婚約者に見切りをつけたのは当然だ。


 今年から文官の試験を貴族平民問わず女性にも実施すると公表した事も大きかったのだろう。アーテル公爵家に生まれた義務と責任は家ではなく国に貢献する事で果たそうと考えたのだ。


 タリアと二人きりになった時、言われた。


「わたくしがいたからアーテル公爵家にいてくれたのでしょう? 高等部を卒業したら家を出るわ。だから、あなたも自由になってほしい」


 自惚れでなくアーテル公爵家は、もはや私やタリアがいなければ回らない。


 社交界では有能だと称えられているタリアの父親(アーテル公爵)だが、実際は有能な部下の手柄を横取りしているだけで本人は公爵家の当主として可もなく不可もない男だ。


 タリアの代わりに家を継ぐ事になった馬鹿王子やお花畑なエレクトラでは領地経営は無理だ。


 それが分かっていても、これ以上、私をアーテル公爵家に縛りつけたくないと、タリアは、そう言ってくれたのだ。


 そう、タリアがいなければ、アーテル公爵家など、どうでもいい。


 けれど、家を出てもタリアの最大の心残りはアーテル公爵領の領民だ。


 縁を切った実家に心残す事なく自由に生きてもらうために、無能な当主達に変わって今まで通り領地経営する事に決めたのだ。


 領民のためなどではない。


 偏に、タリアの自由と幸せのためだ。






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