11(シオン視点)
「お前の家族になる」と養父となったアーテル公爵に引き合わされたのがタリアとの出会いだ。
アーテル公爵の長女、私の義妹(私のほうが二ヶ月年上なだけだが)となる美しい少女。
私がタリアを認識したのは、その美しさ故ではない。
私は美しさに価値を見出せない。
むしろ、呪いのようなものだとすら思っている。
父もアーテル公爵も見かけこそ美しいが、その性根は醜悪だし……この見かけ故に私は尊厳を踏みにじられてきたのだから。
タリアを認識したのは、私とアーテル公爵の情交を覗かれた時だ。……タリアにとっては最大のトラウマになった出来事だろうから、それは本当に申し訳ないが。
タリアの瞳にショックや嫌悪感しか(それが当然なのだが)なかったのなら、タリアの存在がここまで私の心の奥深くに刻まれる事はなかっただろう。
自分の父親が行っている醜悪な行為は、幼い上、守られ傅かれてきた貴族の娘には耐えられなかっただろうに、ショックや嫌悪以上に、あの藤色の瞳は私を気遣う感情があったのだ。
その瞳を美しいと思った。
初めて、美しいと思えるものに出会った。
アーテル公爵もタリアと同じ藤色の瞳だが、あの男の瞳を美しいと思った事などなかった。むしろ、おぞましさしか感じない。嗜虐や欲望でぎらつく瞳を美しいと思えるはずがない。
あの日からタリアのためだけに生きると決めた。
今までは死ぬ勇気がないから惰性で生きていたに過ぎない。
タリアのために、タリアの幸せのために、そう決意して初めて「生きる」実感が湧いた。
タリアのお陰で私は愛玩人形から人間になれたのだ。