第五話
コンコン
私はお父様の書斎の扉をノックした。
「お父様。シルヴィアですわ。お話ししたい事があるのですが…」
「ああ、シルヴィアか。入っていいぞ。」
「失礼します。」
そして私はお父様の書斎に入った。
「どうしたシルヴィア。帰りが早いじゃないか。今日は卒業パーティだろ。」
「色々ありまして…。実は…」
私はパーティ会場であった出来事を話した。
ルイスとアイリーンが密会して愛し合ってた事。
学園で前々からルイスが浮気してると噂があった事。
2人は噂を否定したのに、嘘をついてた話。
その話を話し終わったぐらいの時、お父様はため息をついた。
「はぁ。なんて事だ…」
「はい、私も疑いました。それでこれからの事を…」
「なんだね。」
「お父様に申し訳ないですが、婚約破棄できないでしょうか… 」
「…」
「政略婚約ですが、正直信頼出来ない人と一生添い遂げる自信がありません。」
「…。そうだな。いいだろう。」
「お父様！？」
「信頼出来ない人と事業、そして家庭を作るなんて無理だ。それに続くものは崩壊と不幸だ。お前の好きにすればいい。」
「お父様…」
「でも話し合いは必要。明日にでもあちらの両親に屋敷に来てもらうとするか。ダルトン侯爵夫妻にも来てもらうとしよう。」
「そ、そうですね。」
まさかお父様が賛成してくれると思わなかった。政略結婚が当たり前の世界で、たかが浮気で婚約破棄をするなんて馬鹿馬鹿しいって思われても不思議ではない。しかしお父様は私の意見を尊重してくれた。
(お父様…ありがとう。)
私は心からそう思った。
「シルヴィア。」
「は、はい！」
「よく今まで我慢出来たな。泣いてもいいんだぞ。」
「うぅ…」
お父様にはバレてたみたい。頑張って隠してきたつもりなのに。
お父様は私がお父様達の関係に憧れてたの知っていた。そして私が頑張ってルイスと歩み寄ろうとしてたのも知っていた。
お父様の言葉で一気に涙が込み上がってきた。
「あら、私も混ぜてくれないかしら。」
この声を聞いて私は振り向いた。
「お、お母様！？」
後ろにはお母様、そしてサラが居た。サラがお母様を呼んだみたいだ。
「話は聞いたわ。シルヴィア、泣いていいのよ。辛い時は泣くべきよ。そうじゃないと心が壊れちゃうわ。」
「お母様…」
私はお母様の胸の中で泣いた。
「おいおい、次は私が仲間外れかい。」
「ふふ、あなたも来なさいな。」
そうしてお父様は丸ごとお母様と私を抱きしめた。
「お、おかぁ様、お父さまぁ、ありがとうございます。うぅ…」
「いいのよ。親として娘が可愛いのは当たり前だわ。ねぇ、あなた。」
「そうだな。家の事は心配しなくていい。こんな事で家は潰れないよ。」
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何時間泣いただろうか…
長く感じたが意外と短かったのかもしれない。
お父様とお母様は私が泣いてる間も離れないで抱きしめてくれた。
もう一生分の涙を出してしまったのかもしれない。
泣き終わった後、私はふっと思った。
そう私はもう学園を卒業した。
いわば大人になったのだ。
このままずっと両親のお世話になるわけにはいかない。
「お父様、お願いがあります。」
「なんだシルヴィア。」
「私に…」
