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戦場へは誰がために  作者: レムウェル
3/16

戦場へは誰がために-弐之2-


(……なんだ? この違和感は……)


 陣頭に立って軍を指揮していたフィアナは、自軍と敵軍のバランスが徐々に崩れ始めていることに気付き、怪訝に思って辺りを見渡した。


 しかし、自らが先頭に立って軍を指揮している事が災いし軍の全体を見渡すことは叶わず、正確には状況を把握する事が出来ない。


(右舷からの圧力が強すぎる……まだ小競り合い程度の気勢しか上がっていないのに……まさか……)


 状況が把握できないながらも何かを感じ取ったフィアナは、直ぐ様それを確認する為、傍らに控えている副官に命令を下す。


「ベイセル! 右舷の軍の様子がおかしい! 直ぐに偵察隊を出せ!!」


「……」


 しかし副官は、その命令に反応することなく、じっとフィアナの背中を無表情に見詰めている。


「ベイセル!」


「……」


「ベイ!……セル?」


 反応が無いことを怪訝に思い、副官に向き返ったフィアナは、そのベイセルの様子に息を呑む。


「……貴女は大層有能であらせられますが……」


 そこでボソボソと口を開き始めたベイセルの様子に、フィアナは状況をようやく理解する。


(……まさか……本当に裏切りなのか?)


「……我が主は、その有能さが些か危険との判断を下されたようです」


「……」


 フィアナは、注意深く辺りに眼を走らせながら、体ごとベイセルの方へと向き直って彼に問いを投げかけた。


「……『我が主』……とは?」


 しかしベイセルは、その問いには答えず、自らの話を淡々と続ける。


「私と致しましては、何とか我が主に思いとどまって頂きたかったのですが、それは叶わぬ願いとなってしまったようです」


「……」


 何を言っても無駄と悟り、フィアナは表情を消して押し黙る。残念ながら裏切りが有ったことは間違いなさそうだ……そうフィアナは判断を下した。


「貴女が我が主の軍門に下り、駒として生きると言うのであれば、軍の指揮官としてのみ生き延びるという方法も有ったのでしょうが……」


「……勝手な事を……」


「ふっ……貴女様であればきっとそう申されますかと思いまして、我が主には私から言っておきました……『誇り高き戦乙女は決して何者にも靡きは致しません』……と。」


「……」


「せめてもの償いです。貴女の命はこの私がもらい受けて差し上げます」


「どういう理屈だ。私に剣を向けると言うのであれば、私はそれを払うのみ」


「無駄な足掻きなど貴女には相応しくない。この場の兵士は全て私の手の内の者……貴女に為す術などないのです。ここは大人しく、この刃の餌食となり、我が主の行く道の礎とおなりなさい。それが貴女の運命なのですから……」


 自分の言葉に酔っているかのように、恍惚とした表情で剣を抜き放ち切っ先を向けてくるベイセルを、フィアナは無表情にチラリと見やり、スラリと腰の愛剣を引き抜いて口を開いた。


「自らの行いによってもたらされる未来を『運命』としか表現出来ないような奴に、とやかく言われたくはない……」


 フィアナの冷めた様子に、ベイセルは蹴落とされたかのように一歩後退する。


「む、無駄なことはなさいますな! この状況で貴女に出来ることは、我が刃に掛かって、歴史上もっとも勇敢に戦った女将校として名を遺すのみ! さっきも言ったとおり、大人しく……」


 『自らの死を受け入れなさい』そう続けようとしたベイセルの台詞を、フィアナは愛馬を回して背を向ける事で遮った。


「ど、どこに行かれる戦乙女よ!」


 ベイセルが上げた呼び掛けを無視して、愛馬を進め始めるフィアナ。


「ハッ!」


 一瞬で囲みの一番薄い場所を見つけ出し、フィアナは一気に愛馬を走らせる。


「に、逃がすな!」


 ベイセルが慌てて下した命令に従い、一番近くにいた兵士が、持っていた槍をフィアナに向かって突きだした。


 しかしフィアナはそれを軽く上体を捻ることでやり過ごし、同時に、いつの間に取り出していたのか、手投げ用のナイフをその兵士に向かって投げ放つ。


―ザシュ―


「あ……」


 ナイフは寸分違わず眉間に突き刺さり、その兵士は唖然とした表情のまま、その場にドサリと崩れ落ちた。


 フィアナはそれを見届ける事もせず、力を失った兵士から、突き出された長槍を奪い取ると、すぐさま次の相手へと馬を走らせる。


 その一連の手並みに、その場を感嘆と畏怖が籠もったどよめきが包み込みんだ。


 こうして戦いの火蓋が切って落とされたのだった。


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