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戦場へは誰がために  作者: レムウェル
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戦場へは誰がために-弐之1-



「私は『世界平和』など大それた事は望まない。私が望むのは、目の前にある小さな幸福の集まりを守る事……力無き者を、権力者達から守る事だ。私は民の……取り分け子供達の笑顔と未来のために、この剣を捧げることを神に誓ったのだ」





 カイは遠くの空を眺めながら、あの日のフィアナの姿と言葉を思い浮かべて口元を緩めていた。


 自分と全く同じ事を考えていながら、自分とは全く異なる行動に打って出た女騎士……自分はただ流されるまま、目に映る者だけに手を差し伸べ、国の方針に対するせめてもの抵抗にと、あぶれ者達を自分の隊に配属させて功績を立てさせ自分の地位を高めただけで満足してしまっていた。


 しかし彼女は、口では『世界平和などおこがましい』と言いつつも、その行動はまさしく『平和』への道を辿ったものだ。


(今の帝国の統治下で、民のための平和なんて望めるわけもない……)


 宮廷は、猜疑と謀略で満ち溢れており、誰もが自らの権力を強める事のみに心を砕いている。


 誰一人として民のことなど考えていないのだ。


 この状況を打開する方法はただ二つ。


 一つは、今の皇帝が崩御するのを待つこと……皇帝が崩御すれば、次の皇帝は、また違った帝国を作り上げるかもしれない。


 そしてもう一つが……帝国を打倒すること……打倒した後に新しい国を作ることだ。


 普通に考えれば、戦争を起こして死者を増やすことなど言語道断の事に思えるだろう……しかし、もう民にはあまり時間が残されていないのだ。もう既に次の冬を越せるだけの体力は今の民には残されてはいない。


(その現実を目の当たりにしても、俺は結局何も出来なかった……でもあいつは……)


 あの日あの時あの場所で聞いたあの言葉……あれを聞いたその瞬間から、カイは一つの誓いを胸に秘めた。


(あいつが……フィアナが民のために剣を振るうと言うならば、俺はあいつの盾になろう……)


 今はまだ、彼女の信頼を勝ち得てはおらず、今回の作戦でも後方待機を命じられている。だがいずれ、必ず自分の力が必要になる時が来るだろう……そうカイは考えている。


(まぁ、俺の力なんかは微々たる物だろうけどな)


 いつもその顔に強気な笑みを浮かべるフィアナを思い起こし苦笑するカイ。


 その時だった。


(……? なんだ?)


 

 視線の先……本隊であるフィアナの部隊の右側に配置されている部隊の、敵に一番近い部分の兵の動きが明らかにおかしい。


(……これは……)


「旦那……ありゃなんかおかしくねーですかい?」


 隣で控えていた、副隊長であるイェルハルドが、カイと同様にその異変に気付く。


「ああ、俺も気付いた。アスケル殿!」


 カイは、直ぐ様監査官として本隊から派遣されている将校を呼び寄せる。


「何ですかな? カイ殿」


「アスケル殿……あれは本隊の指示ですか?」


 そう言って、カイは異変のあった部隊の方を右手で指し示す。


「何がですかな? ……あれは!!」


 視線の先では、右舷の部隊がゆっくりと二股に分かれてゆき、それに対する敵の部隊が、騎馬隊を集結させて突撃断行の陣を敷き始めている。


「バカな! あれでは本隊中心部に直接攻撃されてきまう!!」


「イェルハルド! 左舷のアルヴェーン将軍、殿(しんがり)のオーベリ将軍に状況を知らせて陣型を保たせつつ撤退するように伝令を出せ!」


「へぃ!」


「アスケル殿! 監査隊から人を割いて、一緒に向かわせて下さい! 俺の部隊の人間では話を信用してもらえない!」


「り、了解した! マグヌス!」


 アスケルはカイの言葉に、慌てて側の副官に命令を下す。


 カイは、傍らに控えている副官を振り返ると矢継ぎ早に指示を出した。


「トゥール! 俺の部隊はお前に任せる! 戦闘が始まったら、戦場を迂回しつつ急襲して敵の横っ腹に一撃をくれてやれ!! アスケル殿は少々危険ですが、俺と一緒に真っ直ぐ本隊に向かっていただきたい! そのままアルバートン将軍の救援に向かいます!!」


「心得た!」


「兵は連れていかないんですか?」


「ダメだ! 俺たちはまだこの軍の信頼を勝ち得ていない! 大勢で近寄ったらかえって混乱を招く!」


「その為のアスケル殿と言うわけですな」


「そう言うことでしたら監査隊から人を割きますぞ?」


「有り難い。では5人程連れてきて下さい。本隊に向かいつつ、伝令を飛ばして軍勢を立て直します。アルバートン将軍の下までたどり着くには少人数の方が都合がいい! 時間がない……急いで準備を!」


「「ハッ!!」」


 トゥールとアスケルは、カイに一礼すると、その場を離れてそれぞれ行動を開始する。


 カイはそれを見届けると、視線を本隊の方へと戻し、歯軋りをしてその時を待つのだった。


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