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06.『調子が狂う!』

読む自己で。

 粘着――監視対象は花音ちゃんと関係を戻せたことですっかりにこにこ状態。

 ……恐らく私のことなんて忘れて、親友と一緒にいられるだけでいいなんて考えているのだろう、そう考えたら少しだけ苦しくなった。

 ――とにかく、一体全体なにをどう間違えたらあそこまで頭お花畑の人間ができあがるのかが気になったのだ。だから振られても特に悲しむことなく私はいられている。……彼女、如月さんがいてくれなかったらどうなっていたかはわからない。


「あれ、渡辺さんどうしたの?」

「しー! うるさいよ村瀬さん」


 この子は嫌いだ。

 だって自分より可愛いし胸が大きいから。

 しかも自分と違って性格もいい、他人の悪口を言ったりしない優しい女の子だ。

 彼女の側にいると自分のだめさ加減が露呈するから嫌になるんだよね。


「さっちゃんに用があるの?」

「……まあね」

「さっちゃーん!」

「あ、あなた――」

「あれ、渡辺さんと村瀬さん!」


 絶対、胸の内で私を馬鹿にしているに違いない!

 そうじゃなければこんなにひどいことできるわけがないんだ。


「また光?」


 おまけに花音ちゃんからは信用ないし……。


「花音ちゃんやめて、渡辺さんは悪い子じゃないよ」


 ……こっちはまた頭お花畑だし。

 あれだけひどいことを言ったのに、どうして如月さんは味方をしてくれるんだろう。私に興味があるわけじゃないだろうし、わからないことばかりだ。

 だって直接「友達ですらいてほしくない!」とぶつけた相手なんだよ? 普通だったら花音ちゃんに近づけないように行動するというのに。

 お人好しなのか、ただの馬鹿なのか、チェックしなければそわそわして落ち着かない日々を送ることになる。だから興味があるとかそういうのじゃない。私はただ自分が平穏な毎日を過ごせるようにと動いているだけだ。


「如月さん、今日はあなたの家に泊まりに行くから」

「それならぼくも行きたい!」

「じゃあ私も――」

「花音ちゃんはだめ! だって昨日は私だって我慢したんだから!」

「光嫌い!」

「いいもーん、いまの私には如月さんと村瀬さんがいるもーん」


 うーん、中学生時代から付き合っていたのになんで悲しくならないんだろう。

 如月さんパワー? それとも、考えたくもないけど彼女のことをあまり好きじゃなかったとか? それか村瀬さんの胸の大きさへの嫉妬とか?


「それならみんなで帰ろうか」

「帰ろー!」

「サナ、明日は泊まりに行くからね」


 というか、私たち宵月先生の家に泊まりすぎ。

 段々と先生の雰囲気が怖くなってきているし、ここら辺でクールタイムを設けておかないと後に面倒くさいことになりそうだ。




「さっちゃんといると楽しいよね~」


 いまは花音ちゃんに拘束され如月さんがいないので、部屋にはふたりきりになっていて、先生の家だというのに一切遠慮なく床に寝転がった村瀬さんが呑気に言った。

 

「そう? べつにそう思わないけど」

「だけど嫌いじゃないでしょ? 嫌いだったらこうして家になんて来ないだろうなって思うけど」

「……ま、嫌いじゃないけど、好きでもない」


 あの子といるとわからなくて、もやもやして、頭が痛くなって。

 だけど悪口をぶつけたいとはもう思っていなくて、黙るしかできなくて。

 だから私としては陰から監視しているほうが気楽でいい。


「さっちゃんまだかな?」

「そうだね、花音ちゃんは結構相手を束縛するところがあるし、今日はもう帰ってこないかもね」

「え~、そんなの嫌だよ~」

「なんで? あなたもしかして如月さんのことが好きなの?」

「好きだけど、だからこそ来てくれないと寂しいよ」


 この子の好きは特別な意味じゃない。

 なぜわかるのかは、自分が花音ちゃんに好きだと言ったときめちゃくちゃ恥ずかしかったからだ。なのに彼女から恥ずかしがっているような雰囲気は伝わってこない。わかってない、同性だろうが関係なく好きになれる人に彼女も如月さんも出会えていない――の割には、振られて悲しくないのはなんでなのか。


「はぁ……やっと解放された~……」

「おかえりー!」

「ただいま! 渡辺さんも待たせてごめんね?」

「べつに」


 にこにこしちゃって……なにがそんな楽しいんだか。

 私はここに来ても楽しいとは思わない。

 村瀬さんや如月さんがいるんだな、宵月先生の家なんだなくらいにしか感じない――なんて考えているのに、そのはずなのにどうして……。


「花音ちゃんはどうだったの?」

「うん、なんかずっと『私も行きたい!』って言ってきたんだけど、渡辺さんがだめって言ってたから許可はしなかったよ」


 そこでどうして私のことを優先するんだ。

 高校で知り合った性格の良くない人間の頼みを、小学生の頃から関係が続いている子の頼みを断ってまで引き受ける意味がわからない。

 家の主は宵月先生で、その妹が彼女だ。彼女が花音ちゃんを連れて来ることは普通にできる、それも簡単に。だって花音ちゃんが望んでいるんだから。


「さっちゃん、宵月先生が帰ってくるまでどうしよっか」

「うーん、ごろごろするしかないかな~」

「それなら膝枕してあげるよ?」

「ほんと? それならしてもらおうかな」


 このふたりも監視していた限りでは知り合ったばかりのはずなのに、なんでいきなりここまで親密になれるのだろうか。

 如月さんが優しい、村瀬さんが優しい、ふたりが他者に対して柔らかい態度だからできることなのかもしれない。


「ぷにぷにしてて気持ちいい」

「えぇ、それはちょっと失礼じゃない?」


 だけど、自分にはできないことをしているふたりにむかついた。

 どうやったら他者にそんな柔らかく接することができるんだ。

 彼女たちにできて自分にできない原因はなんだ?

 周りがよく見た目のことを褒めてくれるが、内面で負けていたら所詮は敗北者。

 ――私は膝枕をされてる彼女の上に覆いかぶさった。

 え、ちょ、と慌てる彼女の額を突いて、ずっと睨み続ける。


「だめだよ渡辺さん」

「この子がむかつくんだからしょうがないじゃん」

「むかつくって……さっちゃんがなにかした?」

「してないけどっ、……でもむかつくんだもん」


 不器用そうなくせして自分より楽しそうに、自然に生きられているこの子が。


「……さっちゃん、渡辺さんにしてあげたら?」

「え、わたしが? べつにいいけど」


 彼女が体を起こして座り直した瞬間にどかっと太ももの上に頭を預けた。

 固いような柔らかいような、なんとも曖昧な感触が後頭部に伝わってくる。


「渡辺さんごめんね」

「は?」

「……花音ちゃんに頼んだんだけど恋人に戻るのは無理だって。ならせめて友達としていてあげてって頼んだら大丈夫だって言ってくれたけど」

「……べつにいいし」


 自分でも不思議なほど、彼女だった以前までの状態に戻りたいって思ってない。

 それに他人に頼まれて戻ったところで同じような流れになるのが関の山だろう。

 花音ちゃんがはっきりとした態度でいてくれて助かった。

 いまの私はこの子の監視をしなければならないわけだし、暇じゃないのだ。


「わたしのせいだから……良い結果をもたらせてあげたかったんだけど」

「あなたのせいじゃないし……他人の悪口を言った私が悪かっただけだよ」


 この子に謝られる度に、この子に気を遣われる度にもやっとする。

 それだけではなく、自分の惨めさや性格の悪さが露呈するからやめてほしい。


「わたしは花音ちゃんのことをそこまで好きになれてすごいなって思ってたけど」

「もういいから!」


 終わったことをいつまでも言ってたってしょうがない。

 彼女は私じゃないし、どうして何回も口にするんだ。


「振られた私を馬鹿にしてるってこと?」

「ち、違うよっ。だって……渡辺さんと花音ちゃんは仲良かったからさ」

「もういいの、余計なことを気にする必要はないの」

「そっか……」


 いっそのことざまあみろって馬鹿にしてきたほうが気が楽だ。

 だというのにこの子の中にはあくまで心配とかそういう感情しかない。

 出さない、偽り続けているというわけではないだろし――それがまあむかつくんだけどね。


「ひかちゃん」

「は? なに馴れ馴れしく呼んでるの?」

「これから3人で仲良くしよ!」

「……あなたには興味ない、私にはこの子を監視する任務があるの」

「も~、さっちゃんのこと好きすぎだなあ~」

「あ?」


 私はただこの子がアホなことをしないかをチェックしようとしているだけ。

 ……また馬鹿みたいに真っ直ぐに反応して、他人から悪口を言われないように。


「ただいま――また連れてきて……」

「お、お邪魔してます」


 先生の家にこうしているというのも緊張することだ。

 私は思わず正座をし、背筋を伸ばす。

 宵月先生は「べつに大丈夫よ」と口にし、笑っていた。

 その笑顔は横のこの子に似ている気がして、さらにもやもや度が増す。


「渡辺さん、ありがとう」

「へ?」

「あなたのおかげで花音ちゃんと関係を戻せたって陽が喜んでいたから」


 私のせいで関係が消滅していたって考えにはならないのかよ、頭お花畑さんが。


「陽のことよろしくね」

「わ、私がですか?」

「ええ」


 先生に頼まれなくても監視は続けるつもりだけど、この人も流石、如月さんの姉だなって感じの人だった。普通は関わるなとか、あのときの如月さんみたいに言うべきだろうに……。


「灯莉さん、ちょっとコンビニに行きましょう」

「行きます!」


 ……これもその作戦か?

 ふたりが出ていき如月さんとだけになる。

 私はまたどかっと彼女の太ももに頭を預けて、お馬鹿そうな顔を下から見た。


「はは、好きになってくれた?」

「そんなんじゃないし」


 血迷ったことを言いよってからに。

 この子はあくまで監視対象、好意とかは一切ない。


「……光ちゃん」

「……なに?」

「ありがとね、光ちゃんのおかげで花音ちゃんと友達に戻れたから」


 はぁ……こういうこと言うからむかつくってわからないのかなあ。


「陽の太もも柔らかくない」

「えぇ……」

「……ありがと」

「え?」

「ありがとって言ってんの!」

「お、大きいよ声が……」

「ちゃんと聞き取れば問題ないことでしょうが!」


 ああもう調子が狂う!

 こういう点は花音ちゃんのほうが気が楽だったな……。

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