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05.『ちょっとずつ』

読む自己で。

 翌日。

 わたしは友達との会話が終わったタイミングで花音ちゃんに近づいた。

 こちらを見てびくっと反応した彼女だったが、話しかけてくるということはしてこなかったため、こちらから切り出すことにする。


「花音ちゃん、友達に戻ろ?」


 こういうときに大切なのは回りくどさよりも勢いだ。

 いきなりぶつけて混乱させてしまうのだとしても、だ。


「え……」

「花音ちゃんにその気がないならしょうがないけどさ」

「だけどさ……私は光に嫌われたくないからってサナとの縁を切っちゃっ――」

「あ、そういうのいいから。はいかいいえかで答えてほしい」


 どうせなにかを言ったところで過去は変わらないのだから意味がない。

 おまけにいまのわたしは、彼女を責めたいわけではないのだから無駄な話だ。


「……友達でいたいに決まってるじゃん」

「うん、ありがと! でさ、渡辺さんと戻すつもりはない?」

「……復縁ってこと?」

「そ! 渡辺さんは花音ちゃんのこと好きだって言ってたからさ、できれば付き合い直してあげてほしいなって。わたしが原因で振られてしまったようなものだからさ」


 口こそ悪いけどそこまで酷い女の子というわけでもない。

 ふわふわで可愛らしい見た目をしているし、なにより花音ちゃんが選んだ子だ。

 もう1度付き合い直すのが1番理想だと言える。


「……それはできないよ」

「なんで?」

「……光はサナの悪口を言ったら。何回も注意したのに聞いてくれなかったから」

「そっか。まあ、わたしは友達に戻れただけで嬉しいからさ」


 わたしに任せて、なんて言い方をしてなくて本当に良かった。

 いる時間は減っていたけど、彼女はやっぱりわたしのために動いてくれていたんだなって、今更ながらに気づいた。


「花音ちゃん」

「ん?」

「わたし、あなたのためにも動きたい」

「も?」

「あ、村瀬さんのためにも動きたいなって思ってさ」


 できることと言えば宵姉の家に泊めてあげるくらいしかないけど。


「じゃあ宵ちゃんの家に泊まりたい」

「うん。明日はお休みだし、日曜日まで泊まるといいよ」

「って、宵ちゃんの家なのにいいの?」

「昨日だって村瀬さんと渡辺さんを泊めたからね」


 宵姉は案外押しに弱いので、積極的に頼んでおけば問題はない。

 それに、単純にわたしが花音ちゃんと一緒にいたいのだ。

 だけどそれは言わない、変に甘えるとまた彼女の足を引っ張ることになるから。


「ふぅん」

「……あれ? なんか冷たいよ声音が」

「とにかく今日から泊まるからね」

「うん」


 よし、わたしが友達に戻れれば渡辺さんとの接点も作りやすくなるわけだし、いいことばかりだ。


「や、やっほー、花音ちゃん」

「光……」

「今日、この子の家に泊まるの?」

「宵ちゃんの家に、だけどね」


 そういう細かいことはどうでもいいだろう。

 明らかにまた彼女に戻りたいって雰囲気を出しているのに、それでも変えるつもりはないのだろうか。


「……私も泊まっていいかな?」

「だめ、光はサナに悪口言うもん」

「……だけど私は如月さんに粘着するって決めたし」


 すごい言い方だ。

 受け入れたわたしが言うのもなんだが。


「ふぅん、私に振られたらすぐにサナへと移行するんだ」

「だ、だってもうしょうがないでしょ!」

「ま、そうだけどさ。今回はサナとふたりでいたいから」

「むぅ……如月さんは忘れないでよね」

「う、うん、それは大丈夫だよ」


 どうにかして花音ちゃんの態度をもう少し柔らかくしてあげたい。

 ただ今日のところはとりあえず、花音ちゃんと楽しませてもらうことにしよう。




「――で、今日はかのちゃんなの……?」

「そう! 花音ちゃんと仲直りしたから連れてきたんだ!」


 宵姉は雄黄色の髪をがしがしと掻いて、なぜかすやすや寝ている花音ちゃんを見た。わたしも見たら本当に気持ち良さそうに寝ていて少し羨ましく思う。


「良かったわね、仲直りができて」

「うん、渡辺さんのおかげなんだ」

「へえ、それじゃあ今度お礼を言っておこうかしら」

「わたしも言う~」


 だからこそなんとかしてあげたいんだ。

 宵姉だったらいい案とか出してくれそうだし、頼りにしている。


「それで、この子はどうして寝てるの?」

「わかんない、来たらすぐに『おやすみ~』って」

「で、泊まっていくの?」

「うん、日曜日までね」


 とはいえ、せっかく楽しもうと思ったのに寝られては困るのだ。

 なのでわたしは心を鬼にし彼女の耳に向かって、


「花音ちゃんは可愛いよ」


 と呟いてみたのだが、反応はなく。

 依然としてむにゃむにゃと気持ち良さそうに寝ているだけ。


「任せなさい」

「うん」


 結果的に言えば姉こそ鬼だった。

 遠慮なく柔らかそうなほっぺたをつまんで上へと引っ張ったら、彼女は痛みか驚いたのか飛び起きた。


「宵ちゃんひどいよ! いたた……」

「だってサナがゆっくりと話したいと言うんだもの」

「え、サナが? あ、そっか、今日まで話せてなかったもんね」


 教室で距離があるわけじゃないし、中学生のときと似たような生活をしていたから実感が湧かなかったのかもしれないけど、大して必要じゃない存在だと思われていたら寂しい。


「サナ、ちょっとお買い物に行ってくるわね。このままだとまたカップ麺になってしまうから」

「うん、気をつけてね」


 わたしのお弁当と自分のお弁当はきっちり作ってくれるのに、案外、夜ごはんを作ることは面倒くさがるタイプなので面白い。

 あ、わたしが作らないのは面倒くさいとかそういうのではなく、あんまり冷蔵庫に食材が入っていないというだけだから勘違いしないでほしい。


「サナ、信じれもらえないかもしれないけど……サナといられなくて嫌だったからさ、こうして一緒にいられて嬉しいよ」

「わたしも嬉しいけどさ、花音ちゃんは寝てたじゃん」

「いろいろ緊張してたんだよ……でも、やっとふたりきりになれたね」


 確かにふたりきりになれたのは久しぶりだ。

 学校で会うと必ずと言っていいほど渡辺さんが来ていたわけだし、宵姉が邪魔というわけでは断じてないけど彼女とふたりきりになれて嬉しいと思う。


「サナ……ごめんね」

「……うん」

「なにかしてほしいことってない?」

「それはわたしが聞いたんだけど」


 これまで散々花音ちゃんには支えられてきた。

 いまさら望むようなことなんて――いや、待てよ?


「渡辺さんと仲良くしてほしい」


 これは渡辺さんのため、そしてわたしのためでもあるんだ。

 無理やり口にしているわけではないのだし彼女だって拒まないはず。


「……どうして光のことばかり気にしてるの?」

「わたしのせいで振られちゃったからだよ。だって渡辺さんは花音ちゃんを取られたくなくて行動していただけだもん。わたしが花音ちゃんの恋人だったとしても同じことをやると思うからさ」


 自分は可愛くないけど、可愛い子が近づいてきたら怖くなる。

 自分よりも魅力的な子が近づいてきたら、取られないように動くだろう。

 だから責められない。

 というか、そこまで花音ちゃんを愛せて素晴らしいとしか思わない。


「……悪いけどサナのお願いでも無理だよ」

「だ、だったらせめて友達ではいてあげて!」

「それは大丈夫、光はいい子ではあるからね」


 そう、それだから憎めないのだ。


「光とは普通に仲良くするつもりだからべつの願いでよろしく~」

「うーん……花音ちゃんにしてほしいことか」


 一緒にいてほしいとか? それとも抱きしめてほしいとか?

 なんかどれも違う気がするんだよなって、考えてしまう。

 特にないわけじゃなくて、わたしに受け取る資格がないと言うのが正しい。

 

「いいよ、花音ちゃんには十分してもらってきたからさ」

「……ばか」

「今回だって簡単に友達に戻ってくれたじゃん。いつもありがとね!」


 わたしが代わりに紺色の髪を撫でておいた。

 目を閉じてふるふる体を震わせているところが少し可愛い。


「だめだよ……」

「どうして?」

「なんかすごい恥ずかしい……」

「そんなことないよ。渡辺さんが彼女さんになる前は花音ちゃんがよくしてくれたことじゃん」


 ちょっとずつ返していくんだ。

 そしてまた彼女が新しい女の子を見つけたり、渡辺さんと復縁したいと言ったときには、わたしなりに動いていければいいと考えている。


「ただいま」

「おかえりー!」

昨日の投稿時間間違えてる……。

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