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わがまま令嬢の末路  作者: 遺灰
序章
1/19

第一話 結末

息抜きに書き始めた小説なので続きは出来てません。

 

「最期に言い残すことはあるか」


 私を見下ろしながら冷たく言い放つのは、私の婚約者であった人。

 私は今までずっとこの人の為に生きてきた。


 第二王子である彼の側に立つことを許される為に、勉強もダンスも、本来なら令嬢に必要のない護身術だって、必死になって努力してきた。

 小さい頃から我がままなんてもってのほか、寝る間も惜しんで本に噛り付き、いついかなる時も彼に必要とされても良いように、彼と共に歩めるように。


 まあ、その結果として辿り着いたのは断頭台だった訳だが。


 早い話、学園にいきなりやって来た美少女に私は婚約者を取られた。焦って何とか二人の仲を引き裂こうと奮闘していたら、戻れないとこまで堕ちてしまったと言う訳だ。

 恋は盲目、なんて。本当によく言ったものだわ。


 処刑台を見つめる観衆の目が、飛んでくる野次が、私の今までを嘲笑する。

 努力も、我慢も、何もかも。全ては無駄な事だったのだと、嫌でも理解した。


 私の人生ってなんだったのでしょう。


 いったいなんの意味があったのかしら。


 幼い頃から親に厳しく躾けられ、失敗をすれば鞭で打たれる。褒められたことなど一度だってない。それでも両親に認められたくて、褒められたくて、愛されたくて、滲む涙を強引に袖で拭った回数は両手でも足りない。


 そんな両親も牢獄に入れられた私に会いに来てくれることはなかった。


 私を囲んでいたお友達も、結局は利害関係の一致でいただけの薄い繋がりばかり。私が断罪されたあの場で、助けようと動く者は誰一人として居なかった。本当に友人と呼べる人なんて私には一人もいなかったのだ。


 そう、あの牢獄で彼と出会うまでは。


 牢獄で出会った優しいあの子。

 今まで伸ばしていた髪を切られ、ボロ服を着せられた惨めな私に、唯一蔑んだ目を向けなかったあの子。

 あの寂しい檻の中で話し相手になってくれたあの子。


 私のたった一人のお友達。


 私の首を切る処刑人の子。


 だから最期の言葉は貴方に送りたい。


 自暴自棄になっていた私が恐怖を誤魔化す為に話しかけた事がきっかけで、私は彼と友人になった。それまでの私だったら自分より下の階級、ましてや処刑人を相手にするなんて、誰も想像できなかったんじゃないかしら。


 自分で自分がおかしく思えて、つい、笑みが溢れてしまった。


 彼は優しかった。今まで会った誰よりも。

 少しでも私の心が軽くなるように私の話を聞いたり、花を摘んで来たり、私が寝るまで側に居たりしてくれた。

 まるで純粋無垢な小さな子供みたいだった。


 処刑人として優しすぎるあの子。

 今日だって私が牢獄から出される時、私以上に震えていた。

 それは恐怖か怒りか、それとも言葉にできない別の感情から来るものなのか。私には分からなかったけど。

 私が止めなきゃ、今にも衛兵に殴りかかりそうな瞳をしていた。


 そんなことして逃げたって、どうせ直ぐに捕まってしまうわ。


 だから、私は受け入れた。

 自分の死を、彼との別れを。


 死ぬのは"悪人"の私だけでいいの。


 だからね、最期くらいは祈らさせてほしい。

 どうか、貴方が幸せな人生を送れるように。


「…貴方との時間が、私の人生で唯一の安らぎだったわ。話し相手になってくれて、ありがとう」


 私の後ろに立つ彼にだけ伝われば良かったから、だいぶ小さな声になってしまった。

 きっと周りの群衆には私が小さく口を動かしたようにしか見えなかっただろう。もしかしたらそれにすら気付かれなかったかもしれない。


 でも彼には聞こえたみたい。

 何かを堪えるように踏ん張ったのか、ギシリと木の軋む音が後ろから聞こえてきたから。


 離れたところから私を見下ろす元婚約者は、私の様子に気づかなかったのか、つまらなそうにフンッと鼻を鳴らすと声高々に私の最期をその場に知らせた。


「罪人の首を刎ねよッ!!」


 ああ、終わるんだ。呆気なかったな。

 でも、こんなに穏やかに逝けるなら悪くないかも。


「…ごめん」


 後ろから彼が謝る声が聞こえた。

 涙声で、苦しそうで、絞り出す様な声だった。

 顔を布で隠していても、感情がよく分かる子だった。図体はデカイ癖に涙脆くて、臆病で、そしてやっぱり優しくて。


 ああ、どうか謝らないで。

 貴方は何も悪くないじゃない。

 どうか、また、笑ってほしい。


 もし、来世があるなら、今度こそ、

 貴方と一緒に遊びたいわ。


 観衆の騒めきが最高潮に達する。きっと彼が斧を持ち上げたのだろう。

 私は誰に言われるまでもなく目を閉じた。


 彼が斧を振り下ろす音。

 ロープが切られる音。

 ギロチンの刃が落ちる音。



 そしてーーー・・・



 ***




「…あら?」


 目が覚めたら私は見慣れた場所に居た。

 ぼうっとする頭で周りをゆっくり見渡せば、ここが私の部屋だということが分かる。ここ数年は学園で過ごしていたからか、酷く懐かしい感じがする。


 ふかふかのベッドから身体を起こせば、すぐに違和感を感じた。

 足が床につかない。そんな高さのベッドに交換されたなんて聞いてないのだけれど。ベッドサイドに腰を掛けたまま、私は呆然と空を眺めた。


「いったいなにが起きているの…?」


 嫌な予感とあり得ない期待を胸によたよたと頼りない足取りで姿見の前に歩いていけば、そこに居たのは見慣れた私ではなく、小さな女の子だった。


 というより小さい頃の私だった。


 あまりの衝撃に今まであったことが一気に頭の中を駆け巡る。家族、婚約者、学園生活、そしてーーー


「っ!」


 吐き気がする。

 呼吸が乱れて、心臓が嫌な音を立てて騒ぎ、冷や汗が頬を伝う。

 私は、確かにあの時、首を切られた。


 首に刃が食い込む感触も、騒ぎ立てる群衆も、あの人の冷たい目線も、あの子の声も、全部覚えている。夢であったなどとは到底思えない。

 でも、なにがどうしてこんなことになっているのか、皆目見当もつかなかった。


 しかし、これはチャンスなのではないか?


 きっとそうだ。

 今まで散々好きに使われて最期はゴミの様に捨てられた。そんな人生を二度も迎えてたまるか。これはきっと人生をやり直すチャンスなんだ。


「…ふ、ふふ、あはは!」


 可笑しくて狂ってしまいそう。でもそれ以上にこれからが楽しみで笑ってしまう。

 どうせ大まかな人生は変えられない。この家の令嬢として生まれた以上、このままもう一度あの人の婚約者になるのだって、学園に行くのだって決まっている。


 なら、それなら、


 今度は死ぬほど我がままに、図々しく、迷惑をかけて生きてやる。


 復讐などする気はない。

 私の時間をこれ以上どうでもいい人間の為に浪費する気など、あるわけがない。

 私はただ、あの時できなかったことを、諦めたことを今度は諦めたくないだけ。


 周りへの迷惑?家族への迷惑?

 知らないわ。


 周りが私にくれた物はなに?

 野次と嘲笑と、そして石。

 家族が私にくれた物はなに?

 鞭と空虚と、そして絶望。


 だったら今度は私の番だ。

 私が自由に生きる番だ。

 私が好きに生きる番だ。


 高鳴る胸を抑える様にギュッと服を掴んでみても、この興奮を抑えることなんて出来るわけがない。

 欲しいものなんて何一つ得られなかった。どころか奪われてばかりだった。

 けれど、今度は必ず手に入れてみせる。


 今度こそ、あの子と遊ぼう。

 地下の仄暗い牢獄の中じゃない、青空の下で、今度は絶対に泣かせない。一緒に笑い合うんだ。


 鏡に映った子供の私は、決意の籠もった真っ直ぐな瞳をしていた。



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