仲間探し③
昨日の疲れが残っているからダンジョンで戦うのは止めておくとして、ギルドの方に顔を出す事にした。
昨日の今日だけど、メンバー募集に対する応募が有るかどうかを確認するためだ。
運が良ければ一人ぐらい、などと都合の良い事を考えてしまう。
「今のところ、応募は無いな」
受付のおっさんに確認して貰ったが、俺の募集には誰も来てくれなかったようだ。
まぁ、初日で人が集まるなんて都合のいい話は無いって事だな。
俺はちょっと落胆したけど、仕方がないと思い、気分転換に新しいメンバー募集の紙を見て回る事にした。
「お。同じ初心者か? まだ実績が少なめだな」
そうすると、冒険者実績の少ない人がメンバー募集の紙を出している事に気が付いた。
募集を出した人の稼いだ額が実績として書かれているけど、この人はまだ銀貨二十枚だった。俺の二十一枚とほぼ変わらない。
ただ、活動目標がすでに鬼角犬、額に角の生えた大型犬のモンスターを対象にすると書いている。
鬼角犬は子鬼より先にいるモンスターで、今のところ、俺は手を出す気のないモンスターだ。こいつは奥に行くほど強くなるモンスターの法則により、子鬼よりも強いやつのはずだ。強気だな。
俺は少し考えたが、この募集は気にしない事にした。
初心者であれば、装備の整っている人が強気の奴のところで組んで、まだ装備の足りない人なら俺の所に応募するだろうからだ。
いくらなんでも、子鬼で戦う事に慣れる前の人が鬼角犬に挑むとは思えない。明らかに、無謀だ。
装備が整っている人であれば相応の訓練を積んでいるだろうし、いきなり挑む事もあるだろう。事前に情報を仕入れ、準備さえしてあれば、そこまで無謀でも無い。
俺はもう少し子鬼で慣らしておきたいけどな。一対多数の戦いとか、訓練ほど動けないし。
今の俺は「お行儀の良い訓練用剣術」って気がするので、実戦の剣術を身につけておきたい。
残るメンバー募集用紙にも目を通し、めぼしい物が無かったと思いながら、俺はきびすを返した。
そこで明らかに装備の整っていない、新人と思わしき三人組が俺のようにメンバー募集用紙を見ているのに気が付いた。
「んー。鬼角犬って、子鬼よりも強いんだよな」
「大丈夫じゃ無いか? 俺たちなら子鬼なんてもう相手にもならないし」
「そうそう。子鬼じゃ幾ら倒しても儲からないじゃないか。さっさと先に進もうぜ」
「それもそうだな」
……。
彼らの会話が聞こえてきたが、子鬼で足止めされるより、先に進みたいという考え方をしているようだった。
一人はやや乗り気では無いが、それでも周りに言われれば手のひらを返す程度のものだった。なんとかなるだろうと、軽く考えている。
彼らの装備は、まだ駆け出しのものだった。
三人とも槍を持っているが、作りの粗い、手作り感のある代物。鎧も身につけておらず、盾も無い。
多少時間をかけてでも、子鬼で稼いでまともな武器を買う方が先決だと思ったけど。
まぁ、いい。
ああいった人とは意見が合わないだろうし、敢えてこの場で声をかける必要は無い。
俺はしばらく子鬼で頑張るのだから、このままで良いと、この時はそんな風に思っていた。
慣れたら俺も鬼角犬に切り替えれば良いだけだからな。
その程度にしか考えなかったのだ。




