残った悪意②
「お? あ、えーと? ああ、枝村だ」
「三筋。アンタ、私の名前を忘れているわね」
「ここしばらくの間、顔を合わせていなかったんだからしょうがないだろ。そんなに仲が良いわけでもないし」
ギルドの人に聞いてみたけど、わざわざ貼り出してある求人募集の前で何かしている様子は無いらしい。
だったら、また酒場や宿屋と言った場所で悪評を流されている可能性を考え、情報収集に人を使おうと思っていた。
よくよく考えてみると、枝村とは和解したようなものでも、枝村の仲間にはケンカを売ったんだから、そっちから嫌がらせを受ける理由があるんだよ。
そう思って宿屋の方に行ってみると、枝村とばったり出くわした。
名前を思い出すのに時間がかかったが、まだ忘れていなかったことにほっとする。枝村が言っている事は気にしないでおこう。
「それで。どうしたのよ、一体。
三筋は普段、こっちに来ないでしょう?」
「また悪評を流されていないかの確認だよ。
外のダンジョンにも行ったっていうのに、いまだに仲間が増えないからな」
目の前の枝村は、俺の事を怪しい奴を見るような目で見ている。
この宿屋方面に俺が向かう理由って全く無いから、こっちの普段を知っているなら多少は怪しむか。九敬姉妹は別の宿だし。
俺が嫌味を含ませつつ枝村に答えると、枝村は嫌味にしっかりと気が付き、嫌そうな顔をした。
「この宿では聞かないわね。
アンタの噂話はもう出回った後だし、今更話題にするほど面白みなんて無いわよ。アンタの名前は聞かないわよ。
新しい噂を流されたとしても、二度目だから聞き流すんじゃない?」
俺が枝村に悪評を流されたのは半年近く前で、もうずいぶん古くなった話だ。
次の噂話が出てもおかしくないと思ったが、枝村はそんな話は知らないし、聞いていないと断言した。
俺は続報という形で噂を流されたと思ったけど、「またか」と思われる程度のものであれば、そこまで広まらないとも付け加えられる。
……そういうものかね?
一応、枝村が本当のことを言っているかは疑っておく。
こいつが俺に本当の事を語ると信じられるような付き合いは無いので、話半分に考えておくのが正解だ。個人の意見としては覚えておくけど。
人はやっぱり雇っておくよ。
けど、枝村の言葉が正として、俺は考え過ぎなのかな?
たまたま人が来ない時期がある、本格的な冬になれば出稼ぎ冒険者が来るかもしれない。
そんなふうに、鷹揚に構えておいた方が良いのかね?




