ダンジョン拡大⑤
「『樋上 蜜月』です」
娼婦の仕事は夜の仕事。
昨晩も仕事をしていた彼女は、朝から昼までゆっくり寝ていたのだが、樋上さんはその間に置いて行かれたらしい。
気が付いたら誰もおらず、遠くにはモンスターの姿も見える。
彼女はまったく戦えず、一人で行動するのは怖いからずっとこの場に隠れていたが、人の話し声が聞こえたので、出てきたと言う。
なお、ここがダンジョンであるとは気が付いていなかった。
それを教えたら、とても驚かれた。
まぁ、俺だって同じ状況なら気が付けなかっただろうけど。
問題は、彼女を連れて行くかどうかではなくなりつつあった。
もうすでに辺りは暗くなりつつあるので、状況は本格的に拙くなる。
夜間の森は、人が生きていくには不向きなのだ。
このままでは俺たちの脱出も危うい。
付け加えると、どこでも灯りがある海月のダンジョンと違い、三号ダンジョンは灯りが無い。
空は木々が蓋をしていると辺りが闇に覆われ、視界が利かず、方向感覚が失われてしまう。
そうなったらもう、お終いだ。
残り一時間か二時間で脱出できる距離だと思うけど、それでも森で迷子になれば死ぬ。
夜の森は素人が甘く見ていい場所じゃない。
悠長に彼女の話を聞いてしまったので、完全に時間切れとなっていた。
拾いモノである彼女を見捨てるという選択肢は俺たちには無かったので、ここで野営をして、明け方に移動をしようと思う。
ダンジョンの入り口近くは骨鬼ではなく小鬼の領域なので、そこまで行く分には難しくないだろう。
寝ている最中、小鬼がいつ現れるか分からないので、野営地に残っていた焚き火の近くにあるテントで寝ておくことにした。
焚き火は目立つけど、少しでも視界が利く方が良い。
で、俺と樋上さんが寝ずの番をして、その後に楠葉さんと交替すると言う話になった。
樋上さんは昼まで寝ていたので、すぐに寝れないというのも関係している。
眠れないので、しばらくは俺と一緒に起きている。
俺よりも楠葉さんと組ませたかったけど、楠葉さんと俺とでは俺の方に余裕が有り、楠葉さんはもう眠そうだったので、こういう組み合わせになった。
砂時計四回分、俺は彼女と寝ずの番だ。
薪木が少し湿気ていたのか、パチパチとはぜる音がしていた。
そんな静かな夜に、樋上さんが口を開く。




