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九敬 楠葉③

 俺のお誘いに、女の子はずいぶん迷っているようだった。

 基本日帰り、それでも銀貨四枚以上が保証されているというのはそれだけ魅力的な条件なのだろう。

 今の扱いは銀貨一枚はあるだろうけど、三枚は確実に無さそうだ。


「借金があるって言っていたけど、槍と盾の借金だよね。初心者用だし、合わせて銀貨十枚かな。三日もあれば完済できるよ」

「え? 十枚?」

「へ?」

「嘘、私、それ、二十枚って……」


 生活費で銀貨一枚。

 狩り場を子鬼に戻したとしても三日で銀貨十三枚は難しい数字じゃ無いからそれを説明しようとしたけど、その前の段階で女の子は驚いている。

 まずはそこからか。


 驚く女の子から、手にした槍を拝借。

 木の柄に青銅の穂先。

 木の先端を割って穂先を埋め込み、二本の針で固定した後に紐できつく縛っただけの簡単な構造。

 盾の方は硬い木の板に取っ手を付けた一番安い奴。

 これで銀貨二十枚となれば、そりゃあ詐欺だろう。


「ごめん、そこの人。ちょっとこの槍を見て。

 これ、相場で銀貨七枚ぐらいだよね。俺の見立て、間違ってる?」

「いや、そんなもんだろう。俺もこんなのは買わなくなったが、それぐらいだったはずだ」


 念のために他の冒険者を捕まえて話を聞いてみるけど、間違っていない。盾の銀貨三枚はこの間確認したからそっちはいいや。そんなにすぐは変わらないだろうし。



「嘘吐き! 返してよ! 私のお金、返してよ!!」

「うるせぇ!! ありゃぁお前の教育も込みの値段だ!」


 俺ともう一人の冒険者が槍の値段を七枚と言い切ったことで、女の子の腹は決まったようだ。

 パーティリーダーだった男をきつく睨み、絶縁状を叩きつけた。


 男は俺たちに詐欺をバラされたことで逆ギレして大声を出す。

 これまでの落ち着いた態度は剥がれ落ち、他の連中も苦い顔をしている。やっぱりこいつらも共犯みたいだな。

 あとはこの槍と盾を買った店だけど、そこはどうかな?


 二人はしばらく言い合いをしていたけど、結局は女の子の借金はそのまま、パーティから離脱するだけで話が終わる。

 銀貨二十枚と言っても、一度は納得して払ったんだからそれは有効なのだ。騙される方が悪い、そう言われると言い返すのは難しい。証文もあるので踏み倒すことはできない。

 悔しそうにしているけど、俺もそこまで万能じゃないのでお手上げである。





 これは俺の推測だが、この子を借金漬けにして奴隷落ちさせる計画だったんじゃないかな。

 美人という訳じゃないけど、騙しやすそうな子であればそれで良かったんだろうから。


 なんと言うか、雑としか言いようのない計画だけど、それでもここまで上手くいっていた。

 周囲に居る何人もが口裏を合わせれば、嘘であっても発覚することが難しい。自分が間違っているんじゃないかと思わされるからだ。

 少数で小さくまとまった場所に居るとこういう事もありうる。


 俺も気を付けないといけないよな。

 これは詐欺とか、そういう小さい話じゃない。今は一人でダンジョンに行っているし、何か見落としがあっても誰もフォローしてくれない。一人の限界なんてたかが知れてる。

 親父達が、仲間が居なけりゃ冒険者を諦めろと言う訳である。





 これでもう大丈夫かな。

 そう思ったけど、よく考えたら、まだ勧誘の話が残っていた。


 ……悪評を広めている連中と揉め事の真っ最中だし、こっちは自信が無いなぁ。


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