九敬 楠葉②
女の子を助けると決めた俺だが、別にやる事は難しくもなんともない。
そして俺にとって手間よりメリットの方が上回る方法だ。
「なぁ、そこのおねーさん。そんなけち臭い連中とは縁を切って俺と組まないか?」
やる事は簡単だ。
ただの引き抜きである。
「なんだよ、テメェ。関係ないだろ。すっこんでろ。
つか、人の仲間を引き抜こうとするんじゃねぇ。マナー違反だろうがよ」
俺が下手な勧誘を口にすると、女の子を詰っていた男は嫌な顔をした。
そりゃあそうだろう。
この手の小細工は外部の干渉があれば簡単に破綻するからな。
「え? 勧誘? 引き抜き? なんで?」
そして俺から勧誘された女の子は、理由の分からない“美味しい話”に、明確な疑いの態度を見せた。
警戒心が全く無いなんてことは無いようだ。
ならなんで騙された?
俺が大根役者だから信用できないってだけだろうな、たぶん。
俺は役者に向いていないのだ。
「報酬は頭割りを約束するよ。ギルドに証文を出してもいい。
俺と組めば、一日で銀貨四枚は稼げるよ。頑張れば五枚、六枚と稼げるだろうね。
あ、これが俺の実績ね」
しかし女の子の警戒を無視して話を進める。
ちょうど手元に剥がしたばかりのメンバー募集用紙があるので、それを見せた。
女の子は俺を疑いながらも用紙を見ると、目を見開いて俺の顔と用紙を交互に見る。
「これ、本当?」
「ギルドで発行している用紙だからね。嘘は無いよ」
ちょっと話を聞く姿勢になった女の子を見て、上手くいったとほくそ笑む。
ここまでは掴みだが、この段階で成功は確定なのだ。
ここから先、どう転んでも俺に損は無い。
より良い条件を提示された仲間を見て、この詐欺師がどう出るか。ここで彼女を諦めればこいつが小銭を稼いでそれで終わりなんだけど。
できれば全力で俺に突っかかってくることを希望するけどね。
それが俺にとって、一番利益が大きい。
最高なのは彼女が俺のパーティに入ってくれることだけど、今はまだ難しいだろうね。
俺、悪評持ちだし。




