冒険者、ダンジョン、モンスター
説明回です。
読み飛ばし可。
迷宮都市の冒険者というのは、迷宮型ダンジョンにいるモンスターを狩って、そこから得られるアイテムを回収する、特殊炭鉱夫の呼び名だ。
他の都市は知らないけど、少なくとも海月ではそういう事になっている。
剣を振るい、魔法を使い、モンスターを狩る彼らはそこそこの名誉とそれなりの金銭で戦い続ける。
十五歳でギルドに登録し、四十歳前後で引退するのが理想だが、冒険者でまともに引退できるのは二割程度。半数以上が途中で死んでしまい、残る三割程度も怪我などによる強制引退だ。
そして理想の引退を迎えた冒険者ですら、その後の人生(主に商売)で失敗し、貯めた金を失って路頭に迷う事もある。
冒険者とは、斯くも危険な仕事なのである。
真っ当な親であれば、冒険者になろうとする子供が居れば殴ってでも止めるものだ。
それこそ特殊炭鉱夫と呼ばれる所以である。
俺の場合は親から教育を受け、ある程度成功の見込みがあるからやらせてもらえるというだけだ。
前提条件が違えば、世間の評価とか関係ない。
この程度のリスクは許容範囲だ。
ダンジョンは、モンスターの出現する地域と思えば間違いない。
ダンジョンコアというのを破壊する事で消えて無くなるが、逆に言うと破壊するまでモンスターを生み出し続ける。
ダンジョンが発生すると空間が歪み、周囲とは関係のない「小さな世界」が作られる。
この小世界は放っておくとどんどん広がり続け、コアの近くではより強いモンスターを生み出すので、早めの破壊が求められる。
時間の経過はダンジョンを成長させ、より広い土地を飲み込んでいく。
ただ、出てくるモンスターを効率よく間引いていけばコアを破壊しなくてもダンジョンは縮小していくので、迷宮都市のように管理されたダンジョンというのはそこそこの数が存在する。
ダンジョンの半分ぐらいまで攻略を行い、モンスターを殺し続けていれば、自然とダンジョンは小さくなっていく。
凶悪なダンジョンであろうとそれは例外ではなく、すぐに攻略することが難しいと判断された場合は人海戦術でモンスターの間引きを行ない、ダンジョンの規模が小さくなってからコアを破壊しに行くというのが必勝戦術である。
ダンジョンの管理は国の許可制だ。
管理に失敗しているかどうかは国が定期的に調査していて、駄目なら騎士団がダンジョンを破壊する。
そんな危険性からダンジョンを見付けた者には報告の義務が課せられており、ダンジョンの隠匿は一族郎党死刑一択である。その昔、まだ幼い子供がダンジョンを見付け誰にも言わなかった事があったが……そういった場合でさえ例外は存在しなかった。
危険だから徹底的に管理して危険を排除し、危険を排除してしまったからこそ、ダンジョンを甘く考える愚か者が稀に出る。
ダンジョンを隠してしまった子供も、何も分かっていないから、そんな馬鹿な事をする。
たまには危機感を煽るぐらい、した方が良いと思うけどね。
ダンジョンにいる、モンスターというのは本来は実体を持たない幽霊もどきだ。
倒せば実体を失い、魔力の霧になって消える。
そうやってモンスターを倒した後にはほぼ確実に『魔石』と呼ばれるアイテムが残っている。これが冒険者の収入になる。
中にはそれ以外のアイテムが残る事もあるけど、それは稀だ。稀だけにレアアイテムと呼ばれ、たとえ一番弱い子鬼のレアアイテムでも子鬼の魔石百個分以上の価値があるものが手に入る。
まぁ、百個分と言っても強いモンスターの魔石とほぼ同じ額ではあるが、命の危険もなく強いモンスターを倒したのと同じ収入が得られるというのは、冒険者にとって夢のありすぎる話だと思う。
モンスターは倒さなければ外に出て行くので、ダンジョンはモンスターの発生が発覚して捜索されるのが普通だ。
ただ、モンスターはダンジョンの外縁部では弱いものが、コアに近い中心部では強いものが現れるという法則があるため、大体外に出てくるのは弱いモンスター、小鬼ばかりである。
だから「小鬼を見たらダンジョンを探せ」とも言われている。
それ以上のモンスターが出てくる事は稀、と言うほどでもない。
年に一回か二回は小鬼以外が出てくるものなのだ。そしてたいてい空を飛べるモンスターか、足の速いモンスターである。
出てくるモンスターの種類がパターン化しているので迎え撃つことに人は慣れており、飛竜でも出てこない限りは騒ぐほどの事でもなかった。
なお、モンスターは食事や睡眠を必要とするが、繁殖はしない。
モンスターはダンジョンによって作られる生き物でしかなく、ごく一部の例外を除き自然に増えるものではない。
ダンジョンと言う繁殖場で増え、冒険者により屠殺され、魔石を生み出す畜生。それが世間一般におけるモンスターのイメージである。俺の持つイメージも大して変わらない。
ただ、ダンジョンの奥まで行けば俺たちを容易に殺しうる危険な生き物で、そこまでして殺しに行かなきゃいけない生き物でもない。
言い方は悪いが、俺はそこそこの所で良い感じに稼げればそれでいい。英雄願望なんて持っていない。
だからモンスターの、その命で稼がせてもらうだけだな。