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臆病者⑤

 嫌な顔を見付けた。

 最後に見たのはあのギルドで醜態を晒していたところなのでこの顔を見るのは十日ぶりだけど、見ただけで顔がゆがむ。

 顔を見せるだけで人を嫌な気分にさせるとか、実に嫌な女だよ。



「あら。アンタ、あの時の“臆病者”じゃない」

「誰が臆病者だ。嘘吐きで衛兵に捕まった、犯罪者モドキ」

「誰が嘘吐きの犯罪者モドキよ!!」

「自覚無しかよ。救えねぇ」


 相手が初手から突っかかってきたので、俺もそのまま言葉を返す。


 なるほどね。

 こいつ、人の事を臆病者呼ばわりしているわけか。

 で、その悪評のせいで俺のところに人が来にくくなっていると。



 無駄な事をしているな。

 一月二月、確かに人は来ないだろうな。ああ、ちょっとは足止めされるだろう。


 だけど、それがどうした?

 俺はそこまで生き急いでいないし、その程度の足止めなど痛くも痒くもない。

 どのみち、実績さえ積んでいけば仲間は集まるはずだ。悲観する理由にはならない。



 それよりも、嘘がバレればこいつ自身の評判が最悪になる。

 それこそ、冒険者を続けられなくなるほどに。


 考えていないんだろうな。

 自分がやっている事が、破滅への下り坂でしかないって事に。

 俺を貶めることでしか体面を保てないんだろう。


 体面だけ取り繕ったところで何の意味も無いけど。



「ま、おまえらに用事の類は無いし。死なない程度に頑張れよー」

「は! いまだ一人ぼっちで仲間一人いないアンタに――って、待ちなさいよ!!」


 こんなのの相手をしている暇は無い。時間は有限なのだ。

 俺はうるさく騒ぐ女を無視すると、ダンジョンの奥に向かって進んでいった。





 そうやって進んだ先で小鬼や鬼角犬の相手を数度した後で、どうでもいい事を思い出した。


「そういや、あの女の名前を知らないけど。

 うん、どうでもいいか。関わり合いになる気もないし」


 本気で関わる気が無いなら、相手の名前を調べて周囲の協力を得つつ、避けていくべきだ。

 しかし、アレにそこまでの労力を割く価値など無い。心の底からどうでもいい。


 興味のない人間の名前を覚えるより話し相手になってくれるギルド職員の名前を憶えておきたい。

 人間、自分の顔と名前が一致しない人とは仲良くなれないものだ。良好な関係を作りたければ、まず名前を覚えるのは常識である。

 ギルドからもっと便宜を図ってもらえるように印象を良くしておきたい。



 アレはどうでもいい。

 俺にとってあの女とそれに付随する騒動は、その程度でしかなかった。

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