三筋 十夜
「冒険者の一番の仕事は任務を達成する事じゃない。生き残る事だ」
「死んだらそれで終わりなのよ。だから死なないように準備しなきゃ駄目よ」
俺は冒険者だった両親からこの言葉を幼い頃からずっと言われて育ってきた。
そんな両親は数少ない「成功した冒険者」であり、俺にとってその言葉は何にも勝る真実だった。
だから誓う。
俺は絶対に、“殺されない冒険者”になると。
迷宮都市、『海月』。
俺、『三筋 十夜』は冒険者の子としてここで産まれた。
子供の頃から親の冒険譚を聞くのが好きで、大きくなったら俺も冒険者になるんだと思っていた。
そんな俺だから両親は冒険者としての心得なんかをみっちりと仕込み、俺を送り出してくれた。
俺の両親は冒険者として活躍し、親父が体力的に厳しい四十歳になった事で引退した。
冒険者としてかなりの額を稼いだから、残りの人生は働かずにスローライフをするという。
一度だけ親父に「もう仕事はしないの?」と聞いたら、「稼ぐアテはもう無いし、今から商売をしてこけたら大惨事だ。それに、冒険者上がりで商売の素人が新しい事を初めて成功するとも思えないからな」と言っていた。
あと、「もしお前が冒険者を辞めた後に商売をするなら、最低でも五年前から準備をしておけよ」と忠告された。
さすが親父、と思った。
両親の応援を受けて順風満帆な冒険者人生が始まるかというと、そうでもない。
俺の近くには冒険者になりたいという奴がとても少なく、同年代で言えば皆無だった。
仲間だけは見付ける事ができず、冒険者になってから探す事になった。
意思疎通ができて、連携できて、同じ目的意識を持った仲間というのは冒険者をやる上で絶対に必要だと、両親からは口を酸っぱくして言われた。「二十歳までに仲間が見付けられないなら、冒険者としての才能がないから諦めるように」とまで言われた。
俺自身、親から聞いていた話から察するに、一人で冒険者をしてもたいした稼ぎになら無い事は分かっている。一人でできる事に限りがある事は想像できる。
仲間は必要だと分かっているけど、近くに冒険者になりたい奴が居ないんだからしょうがない。
無理をして仲間を作ったところで、どうしようもないのが引っかかる可能性もあるから、慎重に仲間を探したいと思う。
冒険者としての下積みをしつつ、ゆっくり探せばいい。
そんな風に考えていた。
だからまぁ、現状は俺にとってかなり悪い状況だ。
「ふん。多少腕は立つみたいだけど、アンタみたいな臆病者が冒険者を名乗るなんてふざけてるとしか言いようがないわ。冒険できない冒険者なんて要らないのよ。
あたし達まで同類とみられたくないわ。ねぇ、さっさと冒険者を辞めてくれない?」
俺の冒険者生活は、いきなり周囲に悪評をバラ撒かれるところから始まった。