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放蕩者の帰還  作者: いしはらとしひろ
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2章 シュウヘイとミチルとダイスケ~その2

 そうだとも、ギターが気になるせいじゃ…。


 なんとなくギターが気になる。

「おい、お前はまだ死ねるのか?」と自分に聞いてみる。

 なんか、今じゃないなぁ、と思う。その手段を考える元気がない。

「いいことありそうか?」

 多分ないと思う。

「生きていたいか?」

 どうだかな。

「金の工面とか、そういうところから始めるのもかったるいよな?」

 ああ、全然やる気ねえ。


 布団に入って眠ろうとしたが、全然眠くならない。そりゃそうだ。入院中もたくさん寝たし、昨日の夜からだって10時間以上寝ている。眠気の在庫だって切れる。

 天気はよさそうだ。このままじっとしていると、アタマの中がまた真っ暗になりそうだったので、とりあえず外へ出てみることにした。本屋にでも行ってみよう。

 12月にしては、かなり暖かい日だった。

 古くからある地元の商店街の本屋に入る。有線でジョン・レノンがかかっていた。クリスマスソングだ。そういえば、彼の命日、12月8日が近いんだな。今日は3日だっけ、4日だっけ?そうだ、やつは撃たれて死んだんだったな。今かかってる歌とは裏腹に、1980年のジョンにも、今のオレにもハッピーなクリスマスはやってきそうになかった。

 死のうとしたくせに、普通に歩けるのも、本屋で本を立ち読みしているのも不思議だった。とりあえず、散歩も立ち読みも普通にできる。できてる。でも、死のうとしたし、少なくとも生きる気力はどう考えてもない。

 本屋での立ち読みはいい。別世界をほんの少しつまみ食い。30分ほど、2~3冊を「つまみ食い」した後、今度はもう一軒の古本屋に入った。ブックオフなんかとは違う、昔ながらのおやじが経営している小さな古本屋だ。隅っこにエロ本コーナーがあって、店頭には1冊100円の文庫本がまとめておいてあるような昔ながらの。

 本を買う気なんてなかったのに、気付いたら一冊買っていた。100円棚にあった、永倉万治の「結婚しよう」だった。


 まだ体力も回復していないみたいだ。歩き疲れたので、家に帰って布団にくるまって、買ってきた本を読みだす。「結婚しよう」は、おもしろかった。のんびりしたレイドバック感が心地よかった。結婚なんてことを、今すぐしたいわけじゃないがそんなの関係ない。

 半分ほど、読み進んだところで、玄関の鍵がガチャガチャっとまわり、ミチルが入ってきた。もう暗くなり始めている。野菜だのなんだのが入ったスーパーの袋を下げている。

「来たわよ」

 オレは無言で迎える。

「生きてるわね」

「ああ」

「結婚したいの?」オレが読んでいる本を目ざとく見つけて、ニヤッとしながら言う。

「まさか。少なくともお前とはしない」

「こっちだって願い下げよ」

 まぁ、少なくともご機嫌はよさそうだ、昨日より。あれ?なんでオレは奴のご機嫌なんて考えてるんだ?

「あれ、なにこれ」

 部屋の隅に立てかけてある、ギターケースのそばに吸い寄せられるミチル。

「ギターでしょ。これ。どうしたのよ?」

「ダイスケが勝手に置いていきやがった」

「預かってるの?」

 違うんだ。勝手にやつが置いていきやがった。人が弾くとも言っていないのに。

「オレにくれるんだってさ。弾く気もないのに」


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