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アイスと遠い夏の夢。

作者: 鳴海ゆら

「アイス食べる?」

無邪気な笑顔で溶けかけのアイスクリームを差し出すその女の子は、

最近になってまた、僕を苦しめ始めた。


僕はあの幼い頃から何も変わっていない。


公園で遊ぶのが好きだった僕は、

長い滑り台で遊ぶのが特に好きだった。

最初は兄と。

遊んでいるうちに友達ができて、ある時、仲良くなった女の子にアイスをもらったのだ。

その時のアイスは、今まで食べた中で一番美味しかった。


最近まで、その女の子のことは忘れていたのに、ここ数日、夢に出てくるようになった。

それから毎日、ふと気を緩めると女の子の声がする気がして、あたりを見回すことが増えた。

第三者から見れば完全に挙動不審な不審者でしかない。


そんな日が続いていた。

今日はスーパーで食材を買い、一人暮らしのアパートに戻ると、鍵が開いていた。

合鍵を渡すような間柄の人間はいない。

空き巣かもしれないと、買ってきた2Lペットボトルのミネラルウオーターを握りしめる。


玄関をおそるおそる開けて部屋に入ると、そこには女の子がいた。

「こんにちは!アイス、食べよ?」

夕日で西日が差し込む部屋の中に、アイスを持った女の子がいて。

ゆっくりと部屋に入ると女の子は立ち上がって満面の笑みを浮かべた。

そして僕は気付いてしまった。夕日に透ける彼女の身体に。

アイスをもらったその日、僕は幼心ながらに、その子のことが好きなんだと思った。


初恋を思い出し、彼女が屈託のない笑みを浮かべて立つ様子を見て、

気付けば涙があふれていた。


夕日が陰り、気付くとそこに女の子はいなかった。

机の上にはカップのアイスがあり、手紙も添えてあった。

幼稚園児のような筆跡で。

「ありがとう。またね。」

と書いてあったのを目にした瞬間、止まりかけていた涙がまたあふれだした。


彼女は、アイスをくれたあの日の帰り道。

交通事故で亡くなったのだ。

当時その事実がどういう意味かも分からなかったが、

時が経つにつれて、僕はその現実を受け入れることから逃げるようになった。


しかし今日になって、彼女は僕の前に現れメッセージを残した。

僕は彼女の残した手紙を手に取ると、ここ数日の出来事を思い返した。


声が聞こえて立ち止まったから、バイクにぶつからずに済んだ。

肩を触れられたような気がして振り返ったら、数歩先のところで鉄骨が落下した。


彼女は遠くからでも僕を助けてくれていたことに気が付いた。

僕は、ここ数日の不摂生を思い出し、彼女に心配と迷惑をかけたことを心の中で詫びた。

そして手紙を見て、前に進もうと思った。


明日はお墓にアイスを持っていこう。

そう思って僕は帰ってきたばかりの家を飛び出し、アイスを買いに走り出した。

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