天荒
そして、それから2時間後、新城らは荒れ始めた海に揺り起こされた。
「すげぇなっ、、」
振り回されるタイプのジェットコースターに乗せられたかのごとく、上下左右に体を持っていかれる感覚に飛び起きれば、同じく起き出した結城がしかめっ面で答える。
「天気は良くなるんじゃなかったのか?!」
「これじゃあ、期待もできそうにねぇな!」
叩きつけるような雨音までし出し、大声で話さなければろくに会話も出来なかった。
「とりあえず俺は船長のところに行ってくる! 残りは船内を見回ってくれ!」
結城の提案に伊藤達と手分けして異常箇所がないか確認していく。
船体には異常なく、空自の人達が寝泊まりしているエリアに来て、驚きに目を見開いた。
「! 佐久真さん!」
廊下で踞っていた男に寄り添うように座るのは佐久真だった。
「新城さん! すみません、隊員を起こして操舵室に行くようにしたんですが、彼が酷い船酔いのようで歩けなくなってしまい、、、」
何とか抱えて移動しようとしていた所に出くわしたようだった。
『うぅ、、、』と呻いてる隊員は顔色が青を通り越して白くなっていた。
「佐久真さんは大丈夫ですか?」
「官用機の荒い操縦に比べたら、そこまでキツくないです」
二人で苦笑し合うと、隊員を新城が運びその後ろを佐久真が付いて歩く形で進むことにした。
操舵室に付いてみれば、眼前に広がるのは、漆黒の荒れた海と光1つない空。
かろうじて視界の効く範囲に揺れ動く光は恐らく共に来ていた海自の船『しらせ』だろう。
互いにぶつからないように距離を取ってはいるが、このままでは最悪どちらも沈みかねない。
途切れ途切れではあるが何とか交信をし、この海域を離れ陸地を目指すことになった。
幸いにも50キロほど離れたところに島があるらしいので、そこを目指してそれぞれの船が動き出す。
「やっぱ、腐っても戦艦は強えな、、、」
「この波にも負けない進み具合だな。 ヘリをアッチに積んどいて良かったわ」
新城の感心に桂も頷く。
「ただ、出来ればあちらにある程度の人員は移っておいた方が良いだろう」
艦長は言葉を続けた。
「こちらの人員は最小限とし、波が少しでも穏やかになり次第、あちら側へ移動する。 人数等については向こうと調整が済み次第決定する! 各員は移動の準備を」
「「了解!」」
艦長の言葉を受け、新城らが慌ただしく動き始める。
まずは移動するためのボートに、移動間の安全確保のためのロープなど。
次に最悪の事態を想定しての食料などを一纏めに。
準備が終わった頃に、操舵室に集められ人員の通知がされた。
「まず、ヘリパイは向こうにいないと本領が発揮できないから移動。 そして、潜水士も皆、移動する者の安全を確保しつつ向こうへ。 そして各機関員も最低人員を残し、移動。 それから空自隊員に関してだが、、、」
そこで何故か言葉を濁す艦長に嫌な予感を感じて、新城が問う。
「全員移動、じゃないんですか?」
「上からの指示で通信器材保護のための人員を1名残せ、と」
苦い顔で告げる辺り、艦長も本意ではなく、上と掛け合った結果、そう決まったのだろう。
「そんな、、」
船酔いの酷い隊員が力なく呟く。
すると佐久真が艦長の前に出てきた。
「、、、私が残ります」
「なっ、佐久真さん!?」
新城の動揺した声にも応えず、更に言葉を続けた。
「他の隊員はまだ経験が浅く、いざというときの対処が出来ません。 国家機密も悪用されないように処置しなければなりませんが、単独で可能なのは私だけです。 何より、部下の命を危険にさらす真似は到底出来ませんので」
揺れる船内でも堂々と立って話す姿は、確かに自衛官で、部下を持つ者の態度であった。
「、、、分かった。 ただし、話をするべき者もいるだろうから、出発までの間にきちんと済ませておくように」
新城の気持ちを間近で見守っていた艦長からの言葉に、さすがに佐久真も頷く。
「では、乗り移る者は装具を身に付け、その時に備えろ。 以上!」
「何を考えてるんすか?!」
場所を移して新城に詰め寄られる佐久真は、それでも揺るぐことなく相手を見据えた。
「、、、部下を犠牲にするわけにはいかないですから」
「それでも! それでも全員で移る方法だって、探せばあったんじゃないんですか?!」
新城の言葉にも首を横に振る。
「恐らく上が最初に言ったのは、人命よりも器材の移動だったと思います。 そうとうお金かけてますからね、アレ。 それを艦長さんが一人の生贄でなんとか抑えてくれた、、、そうじゃなかったら、今頃、全員こちらに残ることになっていたと思いますよ」
「そんな、、!」
「大丈夫ですよ。 巡視船はいつも荒波を乗り越えているんでしょう? そうそう沈まないって言ってたじゃないですか」
新城を励まそうとしてか、いつも以上に明るく振る舞う彼女は痛々しくて見てられなかった。
彼女をキツく抱き締め、伝えたい思いを吐き出す。
「必ず、必ず助けに来ます。 それまでは何をしてでも絶対に生き延びてくださいねっ」
こんな状況下で"絶対"などあり得ないのに、それを伝えたくなったのは、やはり心の底から相手を求めて止まないからだろう。
気を抜けば震えてしまいそうになる体を叱咤し、佐久真を抱き締め続ければ、彼女もそっと、でも力強く抱き締め返してくれた。
「待ってます、新城さんを、、、」
「それから、生贄とか、言わないでください。 まるで死にたいみたいに聞こえるじゃないですか、、!」
「ごめんなさい、、、」
「貴方は俺の大切な人なんだ。 絶対に死なせたりなんかするもんか、、、!」
新城の決意に、佐久真が口を開く。
「新城さん、私は、、、っ?!」
話そうとした彼女の口を、自分の口で塞ぐ新城。
自分の体温より少し冷たい唇をしばし堪能してからそっと離し、驚きに目を見開く佐久真に、新城はいつもより少し弱々しく言った。
「今はまだダメです。 伝えるのは全てが終わってからでしょう? それに、人間、未練が残ってた方が生き残る確率がグンと上がるそうですよ」
「、、、分かりました。 必ず無事に帰ってから、伝えますね」




