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海の上の物語  作者: 悠利
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訓練開始

週明けからは差し迫った訓練に向けて、それぞれ器材のメンテナンス等を重点的にた行い、それぞれ顔を合わせれば、状況の確認と最終調整に追われた。

そうこうしているうちに、実地訓練の日を迎えた。

生憎の曇天の下、器材等の搬入を済ませていく。


「いよいよですね、、、」


誰ともなく呟いた言葉は誰もが感じている事、、、まだまだ未熟な若い隊員も、経験豊富な上司達も、一様に緊張の面持ちで海を見つめていた。


「資材の搬入、終わりました!」


最終チェックを終わらせた者が指揮官に報告する。

後は人員が乗り込めば出発だ。

遠洋想定の1班は通信器材の限界などの測定もあり、実際に領海ギリギリまで出るため、一度出発すれば帰ってこれるのは明後日の金曜日だ。


「さぁ、行くか」


桂の声を合図に1班は、それぞれ永遠の別れではないが、陸地と別れを済ませると遭難船として使う巡視船『みずほ』へ乗り込む。

『しらせ』は後続へと続き、訓練が開始された。




「現場到着予定時刻は本日1900、それまでは各自訓練内容の見直しをしておくように。 後はしっかり休め、以上!」


解散後、新城は結城と装備の再確認をする。


「ボンベよし、チューブよし、、、」


「手袋よし、、、それで? 返事はもらったのか?」


互いに手を止めず、話をする。


「スーツよし、、、まだ」


「まだって、、、告白してからもう3日だぞ? さすがに長くないか?」


驚いたように言う結城に、新城はバツの悪そうな顔で見返す。


「でも、いくらでもら待つって言っちゃったし、、、今さら催促するわけにはいかねぇだろ」


日曜日に告白してから3日経つが、それまでなんの音沙汰もない。

確かにここ数日は皆忙しく動き回っていたので気にならなかったが、こうやって時間が出来ると、どうしてもソワソワしてしまう。


「まぁ、船の上じゃお互いにやることないだろうし、後で話してみれば?」


「ああ、そうする」




結局、佐久真と話が出来たのは夕食後であった。

食堂で見かけて声をかければ、後で甲板へと行くと言ってくれた。

夕方までは曇っていた空も今は月が見えていた。


「お疲れ様です、もうすぐ着きますね」


一足先に空を見上げていた新城に、佐久真が声を掛けながら横に並ぶ。

お互いに仕事着だが、流れる空気は休みの日とそれと一緒だった。


「少しだけ月が見えてますよ」


「ホントだ、、、さっきまであんなに曇ってたのに。 これだけ晴れてくれれば、さっきまでやってた接続試験もさっさと終わったのになぁ~」


ふて腐れたように見上げる横顔は幼く、可愛らしかった。


「大変でしたね」


「いえいえ、こちらこそボンベの使い方指導に遅れてしまってすみませんでした」


昼間、時間が余っていたので、不測事態にも柔軟に対応出来るようにと、それぞれの装備品などの使い方を互いに教えあっていたのだが、通信器材の調子が悪く、佐久真は手こずっていた。


「、、、すみません、ヤキモキしてますよね?」


唐突な謝罪に隣を見れば、いつぞやの困り顔がそこにあった。


「やっぱり、、、っ」


新城が言葉を発しようとしたところを佐久真がとっさに手を上げて制した。


「答えは出てるんです。 出てたんですけど、、、出来れば仕事とは関係のない所で伝えたくて、そんな事を考えてたら」


「ふっ、、、なんとなくそうじゃないかなって思ってました」


佐久真の真面目な性格を考えれば容易に想像がつく話だ。


「え?」


「佐久真さん、真面目だからいつも色々考えてくれてるんすよね? 適当に流す事も出来ずそれで苦しませてたらやだな~って思ったんで、こんな時ですけど話がしたかったんです」


朗らかに話す新城からは責める気持ちも何も感じとれず、佐久真は新城のその優しさに頭の下がる思いだった。


「ありがとう。 この訓練が終わったら、改めて話す時間をください」


「分かりました! よろしくお願いします」


月明かりの下、二人で微笑み合い束の間の時間を過ごし、雲と風が出てきた事から中へと戻ることにした。


まさか、この後にあんな出来事が待ち受けていると知っていたら、二人の運命はまた違ったのだろうか、、、




予定時刻に無事到着し、明日の朝、いよいよ洋上訓練が開始される。

遭難船からの要人及び日本国に多大な影響を及ぼす知的財産の救助である。

上層部からの期待も大きい為、いやが上にも緊張は高まる。

とりあえず明日の起床時間を伝えられ解散となりそれぞれ居室へ引き上げた。




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