熱烈な感情表現
日曜日、ソワソワしながら駅前をウロウロしているのは新城、その男だ。
金曜日の夕方にまた会おうと別れて、今日は約束の日、、、約束の時間を過ぎてもまだ来ぬ想い人を落ち着きなく待つこと数十分、慌てた様子で駅の階段を降りてきた佐久真を見つけ安堵する。
「すみませんっ、少し遅くなってしまいました!」
肩で息をしながら目の前にやって来た佐久真の息が整うのを待ちながら、買っておいたお茶を手渡せば、お礼を言いながら受け取った。
「大丈夫ですよ。 佐久真さんに何かあったのかと思いましたが、何もなくて良かったです」
新城の気遣う言葉に、熱くなる頬を冷まそうとお茶を飲む佐久真。
「それじゃあ、行きましょうか?」
お昼はまだという佐久真とランチを食べに行きつけの定食屋へ。
「まぁ! いつも1人か結城くんくらいしか連れてこないのに、今日はこんな可愛らしい子を連れて、、、珍しいじゃない! どうしたの?」
定食屋の女将さんの勢いに押されて佐久真がビックリしていると、さりげなく間に立ち防波堤になった新城は、苦笑しながら話をする。
「腹が減ったときはやっぱりここのしょうが焼き定食でしょ」
「おや! 来たばっかの頃は坊主頭をくりくりさせてたのに、上手いこと言うようになったじゃない! いつもの席、空いてるよ~」
新城に促されて着いたのは店の奥、厨房に一番近いテーブルだった。
「洒落たレストランとかの方が良かったかもですけど、ここの飯ウマイんで食べてほしかったんです」
新城馴染みの定食屋であることは入ってすぐに分かったが、そんな穴場を紹介してくれた気持ちが嬉しかった佐久真は笑顔で答えた。
「あまり気取った所は苦手なので、助かりました。 どれも美味しそうですけど、、、オススメは?」
「! オススメはやっぱりしょうが焼き定食です! でも、カレーも旨くて、、、」
そんな話をしていると、水を持った女将さんが注文を聞きに来た。
「旦那とずっとそろそろ結婚してもいい歳なのに、なかなか落ち着かない嗣治君を心配してたけど、一体どこでこんな可愛らしいお嬢さん捕まえてきたの?」
「ちょっと、女将さん!」
顔を赤くさせながら女将さんと話す新城は取り繕ったところもなく、自然体な姿が普段より何割増しかで魅力的にみせていた。
そんな二人に微笑みながらも、佐久真は女将さんに話し掛けた。
「可愛らしいと褒めていただけるのは嬉しいんですが、生憎とお嬢さんと言うには少し薹が立っていると思うんですが、、、」
「おや? でも、どう見ても25かそこらくらいだろ? まだまだ全然、、、」
女将さんの言葉に新城もうんうんと頷いていると、少し気まずそうにしながら、彼女は爆弾を投げてきた。
「私、今年で32です、、、」
「「えっ?!」」
見事に女将さんと新城の驚きがシンクロすると、余計に居たたまれなくなる佐久真だったが、その時に意外な所から助け船が出た。
「おい、いつまでもくっちゃべってねぇで、注文寄越せ、、、」
それまで厨房で料理を作っていた男の人がカウンター越しに話し掛けてきたのである。
「あ! すいません! 俺はしょうが焼き定食で、、、佐久真さんは何にします?」
「あっ、私は、、、カレーが食べたいです」
「あとカレー1つ!」
そう言うと、女将さんはカウンターに置かれた料理を運ぶためにまた忙しく働き始めた。
「、、、やっぱり、気になりますよね」
「えっ?」
「年齢、です、、、」
先程の話を気にしていた佐久真は俯きながら話す。
「あっ、さっきのは純粋に驚いただけで、全然気にしてませんから!」
「、、、そう、ですか」
「確かに落ち着きもあって、年下と考えるには少し無理がありましたよね!」
あまり信じてなさそうな彼女の反応に、さらに言葉を重ねるもなかなか顔を上げてくれない彼女の態度がもどかしくなり、思わず立ち上がって前のめりで叫んでいた。
「俺は、年上だろうとなんだろうと、どんなときでも真面目で冷静で、苦手なことでも何でも全力で取り組む佐久真さん自身に惹かれて好きになったんです! 今さら何を知ったところで、この気持ちは変わりませんからっ!」
一瞬にして静まり返る店内に、新城の倒した椅子の転がる音だけが響き渡る。
佐久真は驚きに目を見開きこちらを見上げる。
数秒間、見つめ合う。
次の瞬間に、店内がどっと湧いた。
「なんと!やっと嗣治が相手を見つけやがったぞっ!」
「とうとうこいつも所帯を持つってか?!」
「おう! いけいけ、もっと押せ~!」
店内にいた客達はどれも新城と知り合いらしく、こんな場所で一世一代の大告白劇を繰り広げた新城を口々に囃し立てた。
「、、、あ、の」
そんな周りの空気に呑まれ、上手く言葉が出てこなくなる佐久真は頬を染めながらもだんだん目が潤んでいく。
―ドンッ!
そんな時に机に置かれたのは、出来立てのしょうが焼き定食とカレーライスだった。
「嗣治君が、可愛らしいお嬢さんを大好きなのはよく分かったけど、、、腹が減っては彼女も考えも纏まらないでしょ? さ、たんとお上がりよ!」
他の客にも睨みをきかせて大人しくさせると、にっこり笑って佐久真の頭をわしゃわしゃっと撫でてから戻っていった。
「、、、」
「、、、すぐに答え出さなくて良いです。 でも、俺の気持ちはさっきの通りですから、俺との未来、考えてみてください」
そう言うと大きな声で『いただきます!』と叫んで食べ始めた。
そんな新城を見つめ、手元のカレーを食べるよう促された佐久真は、カレーを一口頬張った。
昔ながらのカレーが美味しく、口許が綻ぶ。
そして二人で微笑み合うと、おかずをあげ合ったりしながら美味しい食事を堪能した。




