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海の上の物語  作者: 悠利
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意外な特技??

最初に少し躓いたものの、そのあとの机上検討は無事に終わり、今日からは海に慣れない航空自衛官を中心にした水泳訓練である。

最終目標は着衣水泳が可能なレベルまでで、各班ごとに潜水士が付いて指導することになった。

海自の隊員が慣れた風に泳ぐ横で、新城は溜め息をついていた。


「、、、すみません」


心底申し訳なさそうに声を絞り出すのは、先日、新城に対してカッコよく叱責した張本人である。


「いや、、、俺は大丈夫ですけど、その」


言い淀む新城をチラリと見上げる佐久真は、普段から垂れている目を更に下げ、シュンとしていて初めて見る顔だった。


「よく、この訓練に参加しようと思いましたね」


「まさか、ここまで泳ぎが必要になるとは思わず、、、上からも泳げなくても大丈夫だから行ってくれと言われたので」


気まずそうに視線をさ迷わせながら言い訳する佐久真は、もはや先日までのキビキビとした姿勢は伺うことが出来なかった。


「とりあえず、あっちの浅いところから始めましょう」


「っ、、、でも、他の見ないといけない人達もいるのに」


「そもそも、顔を水に浸けられないどころか胸より上に水が来ただけでパニックになる人が、他の人たちと同じ場所で練習するのは無理でしょう」


ぐうの音も出ない様子の佐久真に、新城は続ける。


「それに、こっちは結城と伊藤、早坂に桂さんまでいますから問題ないですよ」


そう言うと、トボトボと浅いプールへと移動していく佐久真に苦笑しながら、桂へと一声かけてから後を追った。


まず新城がプールへ入り、それから佐久真を促す。


「大丈夫です。 何かあれば助けますから、ゆっくり梯子を降りてきてください」


ゴクリと唾を飲み込んでから頷き、梯子へと足をかける彼女をすぐに支えられる距離から見守る。

体が水に沈む度に息をのむ彼女へ労る声をかけながら、入水することを促す。


「大丈夫、大丈夫。 ここは腰位までしかないから大丈夫ですよ」


「分かって、るっ?!」


返事をしようと新城を見ようとした彼女が梯子から足を滑らせて落ちてきた。


―ガボッ!


―ザパッ、!


突然水に突っ込みパニックになる彼女を慌てて抱き上げ、水から顔をあげさせる。

尚も訳も分からず暴れる彼女を胸の中に抱き込み、ゆっくり背中を擦りながら声をかける。


「大丈夫! 大丈夫、、、俺が側にいますよ。 ちゃんと守りますから、大丈夫」


『大丈夫』と繰り返す声に少しずつ落ち着きを取り戻し始めた佐久真は、かすれた声でお礼を言った。


「あ、りがと」


「ふっ、どういたしまして」


少し頬を赤らめている彼女が可愛く、気がつけば背中を撫でていた手で頭を撫でていた。


「、、、ここのプール、腰よりも上に水があるんですけど」


子供扱いのようなことをされ拗ねたのか、文句を言ってくる佐久真。


「あれ? そうでした? 俺は腰までしか無かったので気付きませんでした」


悪びれた風もなく自分の大きさを自慢する新城に、呆れた顔で小突く佐久真。


「私の身長をバカにしてます? これでも女性の平均値ですからねっ」


「はいはい」


その間も新城は彼女を抱き締めたまま離そうとせず、他のプールから死角になっているとはいえ、さすがにマズイと思った佐久真は身を捩って拘束から逃れた。


「いつまでも撫でてなくて良いですから」


「じゃあ、また抱き締めても良いですか?」


手の中にあった温もりがなくなり少しガッカリしつつも、軽口で答える新城だったが、、、佐久真は首まで朱に染めながら潤んだ瞳を目いっぱい見開いて見つめてきた。


「っ、、、」


思わずもう一度抱き締めようと手を伸ばしたが、休憩を告げる声に、慌ててプールを上がっていってしまった佐久真に、それは叶わなかった。


「、、、反則だろ、マジで」


新城は真っ赤になった顔と熱を持った下半身を水に沈め、その切ない呟きは水面に溶けて消えた。




なんとか二日間のみっちり訓練で、ほとんどの者は着衣水泳が出来るまでになった。

佐久真は残念ながら泳ぐことは出来なかったが、それでも顔を水に付けたり、胸より上に水が来ても震えながらも耐えることが出来るようになった。

そうして無事に勤務時間も終わり、それぞれ週末を楽しむべく解散となった。

週末を過ごしたい相手の予約を取るべく、庁舎内をウロウロしていると、新城の丸わかりな想いを知っている人達から冷やかされる。


「お! 今日こそ告白か~?」


「うるさいっす、先輩!」


「とうとうウチのお嬢にも春が来るか?!」


「任せてください!」


どうやら彼女の身内側にもバレバレらしく、概ね好意的な声を掛けられた。


「あぁ、彼女なら、先程海自の幹部に呼ばれて行きましたよ~。 多分、第1会議室だと思いますけど、、、」


いつも佐久真と共にいることの多い同じ班の空自隊員が行き先を教えてくれ、「頑張ってくださいね!」と応援までしてもらった。

人の捌けた会議室へ近付くと、半開きの扉から想い人の声が聞こえてきた。


「すみませんが、お応えすることはできません、、、」


なにやら深刻そうな声に、入口付近で足を止める。


「そうですか、、、やはり、"彼"ですか?」


「そ、れは、、、」


―バサバサッ


佐久真が何かを答えようとした時、手を付いていた壁から掲示物が剥がれ落ちてしまった。


「うわっ」


慌てて拾うも、時すでに遅し、、、中から出てきた二人に見つかり、覗いてたような感じで、なんとも居心地の悪い空気が流れる。


「新城さん、、、? 何を」


「あ、いや、、、あの」


「まぁ、、、私の話はもう終わりましたし、帰ってもらっていいですよ」


海自の男性の言葉に、佐久真は申し訳なさそうに頭を下げる。


「では、伊知川3佐、お先に失礼します。 お疲れ様でした」


「お疲れ様。 気をつけてね」


穏やかな笑顔に送り出され、二人で並んで廊下を歩く。

すでにほとんどの者が帰っており、すれ違う人もおらず静かだった。


「~っ、佐久真2曹!」


立ち止まり、突然大きな声で呼ばれて、佐久真は「にゃっ?!」となんとも可愛らしい声を上げて跳び跳ねた。


「な、なんですか?!」


「あっ、驚かしてすみません! でもあの、、、さっきは何を、してたんですか?」


新城の突っ込んだ質問に無言で視線をさ迷わせる佐久真。

その様子から、告白されていた事は明白で、、、先を越されたことに歯噛みしつつ、無言の佐久真を見つめれば、困ったように眉を下げる。


「相手の方のプライベートでもあるので、すみません」


「では、1つだけ答えてください。 俺にもチャンスがあるなら、土日は俺に付き合ってください」


佐久真は少し視線をさ迷わせた後、申し訳なさそうな顔をして答えた。


「土日は部隊の方に、百里に戻らないといけない仕事があって、、、」


一世一代の申し出を仕事を理由に断られ、ショックを隠せない新城に、慌てて代替案を提案してきた。


「でも、日曜日の午後には戻ってくる予定なので、半日程であれば大丈夫です!」


「じゃあ、それで良いです! お願いします!」


すがるように見つめれば、頬を赤らめながら頷いてくれた。

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