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海の上の物語  作者: 悠利
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惚気、のち、絶望

「、、、気持ち悪い」


月曜日の朝、普段よりだいぶ早くに出勤した新城は、開口一番、結城にそんな言葉をぶつけられていた。


「なんだよ、藪から棒に、、、こんな爽やかな朝は無いじゃないか!」


「、、、だから、そのデレッとした顔が気持ち悪いって言ってるんだよ。 とても出勤してきた人間の顔じゃないし、何かあった?」


「よくぞ聞いてくれた!」


新城はそう言うと、結城の首根っこを掴んで休憩室に引っ張ってきた。


「、、、なるほどね。 日曜日も会う約束をして、二人っきりで出掛けたと。 それで?」


目の前の自販機で買った缶コーヒーに口を付けながら続きを促す結城。


「楽しかった、、、!」


新城は緩みきった顔を隠すことなく、昨日の出来事を思い出しながら幸せに浸っていた。


「、、、ん? 昼飯食べて、鎌倉観光して、海岸沿いを歩いて、、、それで?」


「それでって?」


新城から肝心な事が聞けず不審に思って、ダレきった男を見やれば、ポカンとした顔と鉢合わせた。


「新城?」


「あん?」


「昨日、気になってた、というより恋しちゃった佐久真さんと、二人っきりで出掛けたんだよな?」


新城が何を今さらという顔で頷く。


「そして、世間一般でいうデートをしてきた訳だ」


「で、デート、、、っちゃあ、デートかな」


いくら見た目が良いとはいえ男の赤らめた顔など見たくないが、確認のためにめそ反らさず見つめ合う。


「で、どこまでいったんだ?」


「? だから、鎌倉まで、、、」


「違うだろ?! いつもナンパしては(されては)その日のうちにお持ち帰りして、一夜限りのお付き合いも数知れないお前が、珍しく(自分から好きになった子を)目の前にして何もなしか?!」


「お前なぁ、、、」


―バサッ!


結城のあんまりな言い草に、呆れながら文句を言おうとしたその時、休憩室の入り口から物を落とす音が聞こえた。

不審に思って視線をくれれば、そこには佐久真が無表情で立っていた。


「あっ、佐久真さん!」


新城が呼ぶ声に肩をビクリと震わせると、慌てて落とした紙束をかき集め、呼び止める暇も与えずに早足で去ってしまった。


「え、、、」


「まさか、聞かれたか?」


佐久真の態度にショックを受けていると、結城が横でボソッと呟く。

思わず振り返れば、引きつった苦笑いを張り付けた顔でこちらを見ている同期。


「~っ、ふっざけんなぁ!」


佐久真に大いなる誤解(?)をされ、幸せオーラ全開だった新城は結城の胸ぐらを掴みながら、朝から男泣きをする羽目となってしまった。




「では、このような状況下では優先順位を人命から器材に代えても、十分時間的余地があると?」


訓練海域の海図に船や人の模型を並べながら来週の実地訓練での想定可能な状況を検討していく。


「もしも風速等が変わりないのであれば、ヘリの出動も可能なので、十分だと思いますよ」


ヘリパイの桂と話す佐久真は、先週までと何ら変わりないように見える。

むしろ、謝罪前に戻ったかのような態度に、新城はメンタルをゴリゴリ削られていっていた。

そんな中でも机上の想定は進んでいくわけで、、、憐れみの眼差しで見る結城を睨み返していると、突然話を振られた。


「潜水士としての意見はどうでしょうか? 新城1士」


「あっ、えっと、、、あの」


「なんだ、話を聞いてなかったのか? 新城」


桂の険しい声に項垂れる新城。


「、、、ぶっ続けで話しても集中が途切れますし、とりあえず少し休憩にしますか」


佐久真の提案に10分ほど休憩となった。

部屋を出ていく佐久真の背中を慌てて追いかけた新城は、出入口辺りで捕まえることができた。


「あのっ、佐久真さん!」


新城に呼び止められ、ゆっくりと振り返った彼女は眼鏡の下に険しい眼差しを隠そうともしていなかった。

出入口を少し避けた所まで来ると、眼鏡を外しながら彼女が切り出した。


「、、、新城1士」


「は、はい!」


「まず、現在は職務中ですので、敬称を付けるならば "さん"ではなく、"2曹"です」


「あ、、、」


「それから、プライベートで何があり、どうするかは貴方の自由ですので私には一切関係ありませんが、、、今は来週に向けての考えうる限りの想定を検討しなければなりません。 何故ならばこれは遊びではなく、歴とした訓練で、そこには隊員や保安官達の命が懸かっているからです」


佐久真の厳しくも的確な指摘に、新城は返す言葉もなく黙って聞いていた。


「訓練でだって、命を落とす危険があることは貴方も分かるでしょう? もう少し公私を分けて仕事が出来る方かと思ってましたが、、、残念です」


それだけ言うと、「失礼します」と頭を下げてから去っていった。

新城はただただその背中を見送る事しか出来なかった。


呆然とした様子で帰ってきた新城に、桂から言い渡されたのは、「訓練の邪魔だから走ってこい。 結城、お前もバディだから行ってこい」というものであった。

結局、午前中の残り2時間で15キロほど無心で走った新城は午後からの訓練には参加し、午後はスムーズに終了した。

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