初デート
「、、、佐久真さんが遠い」
団結会という名の宴会が始まって早一時間、、、そう、先程まで笑って話していた笑顔が、今は見知らぬ野郎共の中にあった。
「何を急に、、、そもそも凍るような眼差しで見てくるくらい怒ってるんだから、近寄ってくる訳がないだろう?」
新城の隣でビールを呑みながら呆れた顔をしているのは、もちろん結城だ。
「さっき謝った」
「え?」
「そしたら、許してくれた」
「なんだよ、自分だけちゃっかり仲直りしてたのか」
少し拗ねたように言う結城に構うことなく自分の話を続ける新城。
「それなのに、、、それなのに、あんな遠くで知らない野郎達と楽しそうにしてるなんてっ!」
ビールを早々にチューハイに切り替えた新城はグラスを片手に管を巻いていた。
「えっ、、、?」
何故か隣で固まる同期を放置して、悲嘆に暮れる。
「まさか、お前、、、本気か?」
驚きを隠しもしない様子で聞いてくる結城に、ジトリと睨み返しながら言い返す。
「、、、悪いかよ」
「いや、悪くはないが、、、確かに可愛いし、性格も悪くなさそうだけど、相手は自衛官だぞ? 今までのようにはいかないぞ?」
「佐久真さんとなら、永遠の愛が誓える」
「飛躍しすぎだろ、それは」
呆れながらも、俺の想いを肯定してくれる同期に、心のなかで感謝しつつ、他の男に囲まれている姿に耐えきれず、立ち上ると彼女の元へと向かった。
「お疲れ様ですっ!」
グラスを片手に佐久真の横にデカイ図体を滑り込ませる新城に、驚きに目を見開き、それから笑顔になる佐久真。
「お疲れ様です。 だいぶ呑んでるようですね」
「すみません、邪魔しちゃって」
新城の反対隣からそう声をかけるのは結城。
予想外の乱入者に驚きながらもこれまた笑顔で対応、、、
「どんだけいい人なんだ、、、」
新城の呟きに被せるように結城が話し始めた。
「昼はすみませんでした」
「いえいえ、新城さんにも言いましたが、慣れてるので結城さんも気にしないでください」
「それならば、せめてもの罪滅ぼしに、明日明後日の休みでこの辺を案内させてください」
さらりとナンパ発言をする結城に、新城はただ口をパクパクさせるばかりであった。
「そんな、罪滅ぼしだなんて、、、」
「佐久真さんが優しく許してくれるから、後ろめたいんですよ。 このままだと、こちらも不完全燃焼みたいな形になりますし、、、まぁ、本当に嫌じゃなければなんで、断ってもらっても全然構いませんよ?」
結城の、相手の性格を見抜き、笑顔で知らぬ間に相手を誘導していく技は、そのスジのプロなんじゃないかと疑うレベルだ。
「えっと、あう、、、そこまで仰るなら、お願いします」
「だそうだ、新城。 お前も予定空けとけよ?」
今日も抜けるような青空の下、新城はガチガチに緊張していた。
昨夜、出掛ける約束を取り付けた結城はあろうことか、新城にまで話を振ってきた。
若干蚊帳の外にされ、ふて腐れていた新城は、まさか自分も行くことになるとは思ってもみず、その場で盛大に酒を吹き出したのは、致し方ない事だろう。
まるでデートのように、着る服に悩み、待ち合わせの一時間前に集合場所に来てしまったのは、隠しようもなく、彼女に淡い恋心が芽生えているからであろう。
「いくら佐久真さんと出掛けられるからって、、、緊張し過ぎて喉が渇くとか、、、どんだけだよ」
コンビニで買ったコーヒーを片手に苦笑しつつ、見るともなしに周囲に目をやれば、ちょうど到着したばかりの佐久真を見つけた。
フードの付いたTシャツにジーパンというラフな格好だが、ショートカットで細身の彼女にはよく似合っていた。
不安げにキョロキョロと周囲を見回し、新城らを探している姿は迷子の子犬のようで、愛らしさがあった。
「佐久真さん!」
新城が片手を上げながら近付けば、ホッとした様子でこちらに駆けてくる。
思わず抱き締めたくなる新城だったが、なんとか堪えて笑顔で迎えた。
「早いですね、時間の15分前ですよ」
「遅刻するのが苦手で、、、それに職業柄、5分前行動が身に染みてるんです」
少し恥ずかしそうに答える佐久真に、目を細める新城。
「素晴らしいですね、良いことですよ」
褒められた事がくすぐったいのか、少し頬を赤らめながら見上げる姿にまた胸が高鳴る新城だった。
それから少しして、到着した結城はもう一人連れてきていた。
「遅くなってすみません。 待たせちゃいましたか?」
「いえ、新城さんと楽しくお話していたので、問題ないですよ」
笑顔で佐久真が返せば、新城も楽しかったと言われ、ますますデレッとした顔になる。
「なら良かった! あぁ、そうだ。 紹介しますね、、、妻の弥生です」
「はじめまして」
佐久真より少し身長は高いが、それでも165センチくらいのスラリとした美人と有名な、結城の奥さんの挨拶ににこやかに対応する佐久真。
「さすがに女性一人だと気付かない所もあるかと思ったので連れてきたんですが、、、今日1日一緒でも構わないですか?」
「ぜひ! キレイなお姉さんは好きですから」
親指を立てて力強く頷く佐久真を見て、可愛い見た目とのギャップにみんなが笑ったのは言うまでもない。
楽しい時間はあっという間とはよく言ったもので、気がつけば日暮れを迎えていた。
お腹に赤ちゃんのいる結城の奥さんに無理させない為に、夕方で解散することになり、朝の集合場所まで戻ってきた一行はそれぞれに別れの挨拶を交わしていた。
「今日は本当に楽しかったです。 ありがとうございました!」
「こちらこそ、普段は千紘と二人だからまるでダブルデートしているみたいで新鮮だったわ。 良ければ、また遊びましょうね!」
そんな会話をしながら連絡先を交換し合っている二人を眺めながら、新城は佐久真にデレデレした顔を向けていた。
「まるで、デートみたい、、、」
「、、、気持ち悪いぞ、新城」
結城に引きつった苦笑いで見られても何のその。
「少しは釣り合えるなら、嬉しいじゃないか!」
「そ、そうか、、、良かったな」
存分に別れを惜しんだ女性陣が分かれ、結城夫妻は仲良く手を繋いで去っていった。
残された新城は、、、夕食に誘うかどうか大いに悩んでいた。
「あの、、、今日はありがとうございました」
「うえっ?!」
佐久真から声を掛けられ、ビクリと肩を震わせる新城。
そんな男をキョトンとした顔で見上げる。
「どうかしましたか?」
「い、いえ、、、少しでもこの街を気に入ってもらえたなら良かったです!」
「ええ、とても素敵な思い出になりました」
はにかむような笑顔を見せられ、新城は堪らなく抱き締めたくなり、思わず手を伸ばす、、、が、寸での所で佐久真がペコリと頭を下げてかわされた。
「では、そろそろ失礼しますね」
「えっ?」
「そろそろ帰らないと、門限に遅れてしまうので」
そう言いながら少し残念そうにしているように見えるのが、気のせいではないような気がして、そうであって欲しいと願いつつ、声を掛ける。
「では、明日も良ければ出掛けませんか?」
「え、、、?」
「明日も日曜日で休みですから、佐久真さんさえ良ければ、、、結城達がいないから今度は二人になっちゃいますけど、どこかへ出掛けませんか?!」
最後の方は緊張から早口になってしまったが、なんとか言い切ると、ゆっくり彼女の顔を見る。
「はい、よろしくお願いします」
彼女の照れながらの返事に、思わずガッツポーズをし、驚かせたのは仕方ないだろう。




