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海の上の物語  作者: 悠利
3/16

気まずい顔合わせ

新城と結城が少し遅れて到着すると、中央に円を描くように置かれた長机の一角に先程の女性が座っていた。

新城らに気付いた班長が小声で呼ぶので、二人は班長の後ろの椅子へと腰掛けた。


「こちらが、潜水士の新城嗣治1等海上保安士と、結城千紘1等海上保安士になります」


隊長に名前を呼ばれて慌てて立ち上り、部屋にいる人達に会釈をする。 その時にチラリと彼女を見ると、氷点下の視線をくれていた。


「では、海保側の自己紹介は以上になります。 自衛隊(そちら)側のをお願いいたします」


隊長に促されて挨拶をしていく中、彼女の番になった。


「百里基地所属の佐久真(さくま)(とわ)2等空曹です。 このような"ナリ"ですが、今回は現場の通信関係を統括させていただきます。 よろしくお願いいたします」


他の人達は小柄な佐久真の冗談に笑っていたが、新城と結城は引きつった笑いしか出来なかった、、、




無事に顔合わせも終わり、訓練日程と班割も発表された。

班は2つ分けられ、1班は遠洋想定、2班は近海想定となった。

訓練内容自体は同じだが、やはり場所が変われば装備も想定も多少変わってくるため、今のうちに各班で行動し、絆を深めておくように、との隊長からの言葉だったのだが、、、

1班は遠洋想定ということもあり、どの分野もそれぞれのエキスパート達が選ばれた。

船は海自の『はやて』を使い、船に関しては『はやて』の乗組員が担当するので、実質の班員としては、海保から潜水士として新城、結城のバディと伊藤、早坂のバディが選出。

洋上を飛ぶヘリコプターも海保の装備を使うことになり、ヘリパイとして、そして1班をまとめる班長として、上司の桂が選ばれた。

空自からは最新鋭の通信機器が導入され、やはりこちらもその分野のエキスパートということで、佐久真を始め3名の隊員が選ばれていた。


「班ごとに座ったか~?」


進行を務める海自の人の声に、皆が頷いて返す。

新城の回りには、結城、伊藤、早坂、桂、『はやて』の代表者、佐久真と他3名が丸くなる形で座っていた。


「じゃあ、次に日程だが、、、」


簡単に纏めると、、、

最初の三日間は資料を見ての考えうる状況への対処検討。

4、5日目が海に慣れていない人もいるので、慣れるための水泳訓練。

休みを2日挟んで翌週、8、9日目は装備の使い方などの演練。

そして10~12日目が実地訓練という運びとなった。


「とりあえず、今日はこれで終了だ。 夜は団結会が予定されているが、それまでは自由行動とする。 以上、解散!」


ガヤガヤとする中で、新城は先程の事を詫びようと佐久真を探すが、彼女は幹部連中と話し込んでいて、とても声を掛けれなかった。


「また、団結会の時にでも話せばいいよ」


そう言って肩をを叩く結城に、新城は頷いて会議室を後にした。




次に彼女を見掛けたのは、もう夕方近くに、指揮所として使用予定の第1会議室から出てくるところだった。

手には大量のファイルを持ち、疲れた様子で歩いていた。


「持ちますよ」


まだ先程の失言を謝れていない気まずさはあったものの、ほっておくことも出来ずに声を掛ければ、驚いた顔で見上げてきた。


「貴方は、、、」


「新城1等海上保安士です。 先程は失礼な事を言ってしまい、すみませんでした!」


話し掛けた勢いのままファイルを少々強引に受け取り、頭を下げた。

そんな新城に、かけていた眼鏡を外しながらため息をつき、佐久真は新城を見上げながらこう言った。


「、、、よくある事なので、あまり気にしてないですよ。 それに、こちらこそ『クソッタレ』などと暴言を吐いてしまいましたし、、、すみませんでした」


逆に謝罪され慌てふためく新城を見て、笑顔になる佐久真。

その笑顔に、頬が熱を帯びる新城だった。


「えっと、佐久真、、、2等空曹は、まだ業務中ですか?」


荷物を運びながら、慣れない自衛隊の階級呼びに戸惑いつつも話を振る。


「佐久真"2曹"で大丈夫ですよ。 この書類を第2会議室へ運べばそれで終わりです」


「そうですか」


不思議と、いつも女性を相手にしているようなスムーズな会話が出来ずに、言葉に詰まってしまう自分に焦りを隠せない新城だったが、それでも彼女と何か話したくて、必死に話題を考える。


「海保は階級はどう呼ぶのが正しいんですか?」


思わぬ佐久真からの質問に慌てながらも答える。


「通常、俺のように1等海上保安士の場合は『イッシ』もしくは『イッポシ』と呼びます」


「なるほど、、、自衛隊と似てるんですね」


話を続けてくれる事が嬉しくて、彼女の笑顔がもっと見たくて、柄にもなく緊張しながら話を続けた。

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