運命の出会い
事の起こりは、2週間前だった、、、
晴れ渡る青空の下、男は自分の職場である横須賀海上保安部へと、逸る気持ちを抑えながら自転車を走らせていた。
第三管区横須賀海上保安部所属 潜水士 1等海上保安士 新城 嗣治、、、これが男の肩書きである。
年齢は29歳、整った顔立ちもさることながら快活な性格で独身で彼女ナシなのは、ひとえにその仕事の特殊性であろうか、一時期、海猿などと一部のメディアで持て囃されもしたが、今では過去の栄光だ。
そんな彼の最近の楽しみは、今日から2週間程度の予定で海、空自衛隊と合同で行う大規模な救難訓練である。
詳しい話は今日集まってからするという事ではあるが、今までにない初の試みに上はピリピリ、下はワクワクしながらこの日を待っていた。
もちろん新城は階級的にもその活発な性格的にも、ワクワクしながら待っていたクチだ。
職場が見えてくると、いつもは見ないダークグリーンの物々しい車列を目にする。
それを横目に門をくぐり、制服に着替えてからみんなの集まる事務所に行けば、いつものメンツがすでに顔を揃えていた。
「おはようございます! 皆さん、早いっすね~」
新城の挨拶にそれぞれ返す。
その中でも潜水士としての訓練を共に乗り越えた同期が笑いながら応えてくれた。
「みんな、合同訓練をたのしみにしていたからね。 そういう新城だって、いつもは遅刻ギリギリなのに今日は1時間前に来るなんて、早いじゃないか」
穏和な性格の結城 千紘は、海上保安学校から潜水士になるための研修まで全てが同期ということで、阿吽の呼吸で動けるバディであり、無二の親友とも呼べる間柄である。
「いやぁ、いつもより早く目が覚めちゃって、、、」
「相変わらずだね」
遠足前の子供のような発言にも馬鹿にすることなく笑顔で接することが出来るのは流石だと、新城はいつも尊敬していた。
そんな風に雑談をしていればあっという間に集合の時間となった。
「よっしゃ! 気合いを入れて行きますか~!」
庁舎の前にはすでに迷彩服を着た人達が並んでいた。
その横に新城らが並び、訓練開始の挨拶が始まりを告げた。
『指揮所訓練参加者は第1会議室へ、実地訓練参加者は第2会議室へ、後方支援担当は、、、』
今後のミーティング等も兼ねた顔合わせをするため、新城と結城は、それぞれの場所へ動き始める人の波をすり抜けていると、目の前に波に呑まれてあっぷあっぷしている小柄な背中を見つけた。
人の波間に消えたり現れたりしながら、一生懸命人の少ない壁際を目指しているようだが、波に揉まれて遅々として進んではいない。
「大丈夫か?」
見かねた新城が腕を掴み胸元へと引き寄せると、そこに現れたのはまだ20代前半と思われる小柄で可愛らしい顔立ちの女性自衛官だった。
新城は190センチ近い長身だが、彼女は新城の腕の中にすっぽり収まり、それでも余りある程度、、、要はみぞおちくらいまでしか身長がなく、自衛官の内でも小さい方だろうことが見てとれた。
「あっ、の、、、ありがとう、ございます?」
助けられたことにイマイチ実感のない様子の彼女はキョトンとしながらお礼を言ってきた。
「どういたしまして。 君はどこに行くのかな? 良ければ送って行くよ」
また揉まれては可哀想と思い、まだ時間があることを確認すると、彼女へ提案した。
「えっと、、、第2会議室へ行く所なのですが」
「え? 第2?」
彼女の目的地を聞いて新城も結城もポカンとしてしまった。 何故なら、第2会議室は実地訓練参加者の集合場所、、、つまり、現場で荒波に揉まれる(予定の)野郎共が行くところであって、決して小柄な女性が行くところではないからだ。
「えっと、、、」
驚いている男二人に相手は困惑の表情を見せる。 その表情はますます幼さを強調させた。
そこで、何かに思い至った様子の結城が話を振る。
「何か書類とかを届けるのかな? それなら預かりますよ。私達は潜水士として実地訓練に参加予定なので」
結城の提案にも首を横に振る女性。
「あの、、、」
「あぁ、成る程! 確かに、そのナリで実地訓練は無いよな。 指揮所なら第1だし、後方支援なら庁舎裏の訓練場だから寄ってたら遅くなっちゃいますよ」
今度は新城が頷きながら結城の提案を押すと、俯き肩を震わせ始めてしまった。
デカイ男に囲まれて怯えてしまって泣き出す、、、という状況が容易に想像がつき『ヤバい』と思ったのは一瞬で、次の瞬間には真っ直ぐにこちらを射抜く強い眼差しにこれまでの全てが吹っ飛んだ。
「えっ、、、?」
「先程は人波から助けていただき、誠にありがとうございました。 しかしながら、大変失礼を承知の上で申し上げさせていただきますが、、、」
慇懃な前置きに大の男が固唾を飲んで見守る体勢になる。
「何を勘違いされての発言かは敢えて言及しませんが、私はこの"ナリ"でも実地訓練参加者です。 相手を見た目と思い込みで勝手に判断され、お話をされるのが海上保安官の礼儀なのでしょうか? それならば、私から言えることは1つだけ、、、そんなクソッタレとは二度と関わり合いになりたくないです!」
新城達がビクリと震えるほどの威圧感で睨み付け捨て台詞を吐くと、彼女は人のいなくなった廊下を靴音高らかに"第2会議室"へ向けて歩いて行ってしまった。
「もしかして、、、やっちまった?」
「だろうね、、、」
「、、、自衛隊って、怖いのな」
新城の呟きに苦笑しながら、会議室へ行くことを促す結城なのであった。




