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海の上の物語  作者: 悠利
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エピローグ

これまでに幾度か待ち合わせした駅前で、ソワソワと落ち着きなく、まるで檻の中で餌を待つ猛獣のごとく、目をギラギラさせながら人を待っているのは、無論、新城。


「お待たせしました」


そんな猛獣、、、もとい新城に声をかけたのは、あの海から無事に生還し、1週間ほど入院していた、佐久真である。

そのあとも手続きやらなんやらで、事件以降、実に2週間振りに顔を合わせる二人は、少し痩せたりはあったが変わらない姿を互いに確かめ合い、目的地へ向けて歩き始めた。


「、、、あの、佐久真さん?」


「はい?」


黙々と歩き続ける小さな背中を追い掛けていた新城だったが、さすがにしびれを切らして声をかける。


「どこへ、、、?」


「内緒です」


満面の笑顔でこう言われては、新城は何も言えなくなる。

程なくして着いたのは、、、


「えっ、、、ここは」


そこは以前に佐久真を連れてきて、盛大に想いを叫んだ定食屋だった。

佐久真は立ち止まる新城に構うことなく中に入り、新城のいつもの席につく。

珍しく人の掃けた店内に、新城も戸惑いながら席につけば、佐久真はメニュー表を差し出してきた。


「えっと、、、」


「?」


笑顔で差し出されたメニューに、目を滑らせるもとても選ぶ気にはなれず、メニューの端からチラチラと佐久真を見てしまう。

そんな新城の様子に苦笑した佐久真は、おもむろに姿勢を正すと話し始めた。


「ここで、新城さんに想いを伝えられてから、訓練にさんかしたり、、、死にかけたり、色々ありましたね」


未だ漂流トラウマから湯船に入れなかったり、暗闇にパニックになったりと苦い思い出したくない事を、懐かしそうに語る佐久真に困惑しつつもメニューを机に置き彼女を見返せば、彼女は笑顔で続けてくれた。


「正直言って、嬉しさ半分、困った半分でした」


嬉しく思ってくれたのは純粋に喜べるが、、、


「困ったというのは、、、?」


「私は航空自衛隊に所属している自衛官です」


当たり前の事実に頷く。


「と、いうことは、私は戦争がおきたら、大切な人を置いて死にに逝かなければならないんです」


その言葉にハッと息を飲む。


「私も災害派遣とか行きますけど、災害の現場や近海の警備など、新城さんの方が日常的な危険は付きまとうと思うんです。 そうした時に、私は自分が戦場に突っ込んで行くのは躊躇わないけど、好きな人が、、新城さんが救助などに行って危険な目に合うのを耐えられるのか、自信が持てなくて、、、」


互いに命を掛ける仕事だという認識はあったが、いざ彼女が出ていくと考えると、血の気が引いた。

そんな新城の顔を見て、佐久真は彼も理解したと苦笑すると、


「だから、ずっとお断りしようと思ってました」


彼女の衝撃の言葉に今度は顔色を青くする。

そんな新城を見つめながら、佐久真は続けた。


「でも、、、そんな折りに自分が漂流してみて、助けられる側になって、海上保安官の仕事がいかに大変で大切な任務なのかと実感して、、、入院している間はずっとそれだけを考えてました。 そして、改めて答えを出しました」


そこまで言いきると、佐久真は大きく深呼吸して立ち上がった。

佐久真の言葉を一言も聞き漏らすまいと、普段は見下ろす彼女を見上げ、固唾を飲んで見守った。


「私は、年下だろうとなんだろうと、何事にもひたむきに打ち込み、明るく、周りの空気も良い方向へと変えられる新城さんに惹かれて好きになりました! 新城さんの方が若いし、こんなオバサンじゃすぐに嫌になっちゃうかも知れませんが、この気持ちは変わりませんし、後悔したくないので、、、どうしようもなくなるまで、私と一緒にいてもらえませんかっ?」


店内に響き渡った声に、今は誰も茶化す者もおらず、、、首まで赤く染めた新城が、心底幸せそうな笑顔で頷きながら慌てて立ち上り、佐久真の手を握り締めながら応えた。


「嫌になんか、絶対、一生なんないし、死ぬまで俺と楽しい人生を過ごしましょう!」


新城の言葉に、佐久真が安堵の表情で微笑めば、突如店内に明るい音楽がなり響きだした。


「えっ?」


新城が困惑して周囲に目をやろうとしたその時、店の奥から大勢の人間がなだれ込んできた。


「新城! おめでとう!!」


口々に祝福を口にするのは、結城や桂を始めとした元"1班"の面々。


「えっ?! なんで??」


なぜここにいるのか問えば、ニヤニヤした顔で桂が親指を立てた拳を突きだしてくる。


「無事に生還したら、朝まで飲むって言っただろ?」


「なっ?!」


「やっと佐久真さんが退院出来て、こっちに来れるっていうのに、お前だけに占領させるわけないだろ?」


笑顔でさらっと毒を吐くのは結城だ。

同じく困惑してるのではと、肝心の佐久真を見れば、申し訳なさいっぱいの顔でこちらを見ていた。


「まさか、、、」


「ご、ごめんなさいっ。 皆さんのお願いを断れなくて、、用事がある旨を伝えたら、、、」


要は桂らのゴリ押しに押しきられる形でこうなった訳だ。


「まぁ、いいじゃねえか、夜はこれからだし、お前らの人生もこれからだろ? たった一日くらい他の為に使ったってバチは当たらねえよ!」


すでに、ジョッキを片手に気分よく絡んでくる上司に、

そこら中で新城を酒の肴に、いつの間にか酒盛りを始める仲間達に、

気付かぬ内に愛する人を連れて席に付き、『今さらだけど、アイツで良いの?』とか聞いている同期に、、、



「おっ前らぁ! いいかげんに、しろぉ~!!」



声の限り叫んだ思いは、受け止められることなく喧騒の中に消えていった。

これで終了です。

良かった、、ハッピーエンドで終わって、、、

また機会があれば、読んでいただけると幸いです。

ありがとうございました。

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