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海の上の物語  作者: 悠利
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二度目の正直

新城と伊知川が無言で睨み合うことしばし、、、先に視線を外したのは、伊知川の方だった。


『全く、、、根拠も何もないくせに、えらい強気ですね。 確実に任務を完遂できる保証はあるんですか?』


「それは、、、」


「あります」


言い淀んだ新城に変わり、桂が力強く言いきった。

そんな桂に、新城は目を見開く。


「一つはここにいる潜水士達のレベルは全国でもトップクラスであること。 もう一つは、『しらせ』、『みずほ』の海のスペシャリスト達が力を合わせれば、厳しい状況も対処出来るから。 そして、ここにいる"仲間"達は、決して佐久真2曹の生存を疑っておらず、助け出すことを信じて疑っていないからです」


『最後の方は、ほぼ精神論じゃないですか、、、』


桂の主張に呆れを隠しもしない伊知川。


『それで、、、新城君は、覚悟を決めたんですか?』


突然、話を振られて画面を見れば、思いの外真剣な眼差しが出迎えた。


『行った先で見つかるのは、水を含んで見るも無惨になった死体かもしれない。 船の沈没に巻き込まれて細切れになった肉片かもしれない。 そもそも、手がかりの一つも見つけられないかもしれない、、、それでも、荒れに荒れた大海原へ繰り出す覚悟はあるんですか?』


自衛隊のなかでも、最も海上保安庁に近いのが海上自衛隊だ。

そこの幹部ともなれば、海にある命がどうなるかはこの場の誰よりも分かっているのだろう。


「無論です。 そして、必ず生きた彼女を見つけてつれて帰ってきます! そのためにも、一刻も早い出動許可を!」


伊知川は大きく溜め息をつくと、口元を少しだけ弛めて言った。


『許可しよう。 行ってきなさい。 行って、全員で無事に横須賀(ここ)まで帰ってこい!』


「! はい!」


みんなの間に活気が戻り、桂の指揮の下、すぐに出動の手配が為された。


「準備はいいな?! もう後戻りは出来ねぇぞ?」


桂の言葉にヘリに乗り込んだ新城ら潜水士達は力強く頷く。


「これよりヘリ、離陸します」


【了解! 誘導します!】


無線からの応答を聞き、ヘリが離陸する。

雨の中、濡れるのも構わず見送る者達の想いを背に、新城らを乗せたヘリコプターは佐久真と最後に別れた海域へと飛んだ。




「何か見えるか?!」


現場海域へ到着し、闇色の海面をライトで照らしながら捜索するも、暗い水面の他には何も見当たらない。


「しっかり目を凝らせよ!」


桂の言葉に返事をしつつ、海面へと全神経を集中させる。

探し始めてから30分、、、だんだんと東の空が白み始め、佐久真が海へと消えてから2時間半が経過していた。

海は穏やかさを取り戻しつつあり、開けた海面が視界いっぱいに広がる。


「、、、」


それぞれの疲労も色濃くなり始め、桂が声をかける。


「あと10分だ。 あと10分探して見つからなければ、一度帰投する」


「桂さん!?」


新城の非難の混じった声にも、決定を変えることはなかった。


「助けたいなら、ほんの少しの手がかりも見落とすな。 分かったな?」


「、、、はい!」


捜索を再開してまもなく、海面に漂う白い物が視界に飛び込んできた。


「あれは?」


誰ともなく呟いた言葉に、誰もがその白い物体に視線を移す。


「なんだ?」


白い物体は、手の平大あるかどうかくらいの四角いもので、ある程度の間隔で並んで海を漂っていた。


「、、、桂さん、追いましょう!」


新城の直感ともいえる言葉に、桂はニヤリと笑うとヘリの進路を白い物体の漂ってくる先へと向けた。




「う~、、、どちらかといえば南国の気候とはいえ、水遊びをし続けるには、少し寒いでしょ。 海ってこんなにだだっ広かったっけ? う~み~は~、広い~な~、、、」


荒波の中、落ちてすぐに船の残骸を捕まえられ、なんとか上半身を波の上に上げる形で漂っていた佐久真は、先程までの荒れ狂う波が穏やかさを取り戻しつつあるお陰で、必死にしがみついていた体から力を抜き、救助を待っていた。


「とはいえ、、メモ帳はさっき全部流し終わっちゃったし、、、これで気付かれなければ、アウト?」


波が荒れていた頃はしがみついて呼吸を確保するのに必死で何も考えなくて良かったが、その必要が無くなれば、単純に底の見えない海への恐怖からパニックになりかけ、落ち着くために少しでも何かをしていたくて、気休めに自分の居場所を知らせるサインとして、胸ポケットに入っていたメモ帳を千切っては海に流していた。

それも終わった今、白み始めた空に、ただただ広がる大海原を見せつけられ、神経は限界まで追い込まれていた。

冗談めかして独り言を言ってみるも、それもだんだんと尻窄みになり、、、


「もう疲れたし、眠たくなってきたな、、、」


落ちてくる目蓋になんとか意識を繋げようと試みるが、穏やかに揺れる波に抵抗虚しく、意識が落ちる。


「、、しん、、じょう、さん」




『、、、ま、さん!』


どこからか自分を呼ぶ声が聞こえる気がして、目を開けようとするが、現状からそんな訳ないことに思い至ると、幻聴が聞こえるまでになった自分に苦笑が漏れる。


「まさか、ね」そう言おうとして、言葉にならず僅かに口の中で呻き声のようになるも、それを聞く人は誰もおらず、、、と思ったが、予想外に近くからそれに反応する音を聞き、驚きに体が覚醒し始めた。


「生存確認! 生きてるぞっ!」


まるで泣いているかのような、会いたかった人の声に、うっすらと目を開ければ、海と空以外、何もなかったはずの視界にオレンジのウエットスーツが映った。


「あ、れ、、?」


潮風で掠れた声を聞き取った新城は今にも泣きそうな顔で見つめてくると、なにか言うよりも先に抱き締めてきた。


「遅くなってごめんなさいっ、、もう大丈夫だから!」


その言葉に体に入っていた力を抜いた佐久真は、潤んだ瞳と緩い笑顔で応えた。


「待ってたよ、来てくれるの」


「あぁ、信じて待っててくれて、生きててくれて、ありがとうっ」


こうして、佐久真は新城らの手によって救助された。

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