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海の上の物語  作者: 悠利
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命をかける仕事

それからヘリは一度『しらせ』帰投し、佐久真"以外"の全員が無事な旨を報告した。

その際、上からの確認事項は佐久真の安否ではなく、器材の破壊処置が完了したかどうかで、それが益々、現場の人間達の心をささくれ立たせた。


「もう一度! もう一度、救助に向かわせてくださいっ」


一度、集まるように言われ、1班のメンバーは『しらせ』内の会議室に集合した。

新城の悲痛な叫びに、桂はため息をつきながら新城の肩を叩き落ち着くよう声をかけた。


「気持ちは分かるが、すぐには無理だ、、、装備も今一度確認しないとだし、お前達の体の疲労もある。 何より、上からの許可がまだだ、、、」


「っ! 体は全然、疲れてません! まだいけます! だから、、、!」


下げていた頭を持ち上げ見上げた顔は、いつもの飄々とした雰囲気はなく、苦々しげだった。


「助けに飛び出したい気持ちは分かるが、それはお前だけじゃねぇ」


その言葉にハッとして周りを見れば、潜水士(なかま)だけでなく、海上自衛官や彼女の部下達も一様に辛そうな顔をしていた。


「ここにいる仲間達(みんな)が同じ思いを持って、それでも我慢してんだ」


「クソッ!」


思わず壁を殴る新城を誰も責めなかった。

新城は俯き、あまりにも無力な自分に歯噛みしていると、桂が横を通り抜け様に言った。


「上を納得させ、許可を取ってくるまでの僅かな時間で、装備の再確認と、心身の休息、、、どっちも出来るか?」


ハッとして振り向けば、そこには決してまだ佐久真(なかま)の命を諦めてない瞳があり、新城は諦めかけていた自分を恥じた。


「出来ます!」


新城の言葉に頷くと、桂は部屋を出ていった。


「さてと、、、俺達はヘリの点検でもしてくるか」


『みずほ』の機関士たちが出ていけば、伊藤が一歩近寄ってこう言った。


「俺達は一足先に帰ってきてさっきまで休んでたから元気だし、、、ボンベとかのチェックは俺たちがやっておくから、結城達は休め」


「次に集まるときにそんな顔してたら、連れていかないからね?」


笑顔で子供に言い聞かせるように言う早坂も、伊藤に続いて出ていった。

自衛官らもそれぞれにやることをしに、部屋を出ると、残されたのは結城と新城だけだった。


「、、、」


「ぶっ細工な顔」


結城の言葉に、怪訝な顔をして見返せば、近くにある窓を顎で示された。

覗けば、疲れきった、それでいて迷子のようななんとも頼りなさげな顔をした男が見返してきた。


「そんな顔で迎えに来られても、佐久真さんも安心して頼れないよね」


「、、、悪い」


「新城、お前が信じなくて、誰が信じ続けられる? 彼女の事を誰よりも想っているのは、世界でお前が一番じゃないのか?」


結城の言葉が胸に沁みる。


「俺たちが習った常識だけなら、彼女の生存確率はゼロだ。 でも、それでも一縷の望みをかけて助けに行きたいんだろ? だったら、お前だけは、『彼女は絶対に生きている!』って信じきった顔をしてろよ」


「結城、、、」


「そうすればみんなが、そんなお前を信じて手を貸してくれるから。 俺だって、この大海原を一緒に探し回ってやるよ」


何も言わずに、ヘリの整備を買って出てくれた船の乗組員達。

こちらを気遣い、潜水士(おれたち)の装備を点検しに行ってくれた同僚達。

海上保安官(おれたち)のバックアップをするべく、自分達で考え動き始めた自衛官達。

それぞれがたった一人の仲間を助けるために動き始める。

それを一番にしないといけないのは、一番に信じて動き始めないといけないのは、新城のハズなのに、そんな彼に一時の悲しみや嘆きに浸る時間をくれた"仲間"達。

その想いに答えるべく、新城は己の顔を気合いを込めて叩くと立ち上がった。


「ありがとう、、、もう大丈夫だ!」


それを見て微笑む結城の顔にはもう心配の色はなく、二人は決意を新たに部屋を出た。




最終確認を終え、桂に報告すべく通信室へ迎えば、怒声に近い桂の声が聞こえてきて、みんなで慌てて入室した。

正面の大きな液晶ディスプレイには横須賀にある本部が映し出されており、一様に渋面を作った幹部らが映っていた。


「じゃあ、本気で許可出来ないって言うんですか?!」


桂と『しらせ』の艦長の険のある様子から救助へ行く許可が下りないようだ。


『だから、夜明けを待っての捜索を許可する、と言っているじゃないか』


「なっ?!」


生還を望むのなら、今すぐにでも救助に向かわなければ間に合わない。

一刻の猶予もない状況を理解しているはずにも関わらず、悪天候と深夜帯による視界不良から、すぐの出動の許可が下りていなかった。


「待ってください! 一刻の猶予もないって分かりきっていますよね?! それで、なんで見殺しにするような真似を、、!」


「新城、、、!」


桂の諌める声にも、あえて前に出ると、画面の向こうから胡乱げな視線を投げ掛けられる。


『見殺しとは随分な言い種じゃないかな? 我々は行くなとは言っていない。 今すぐに現場へ赴くことへ憂慮しているだけだ』


「それが見殺しと同然だって言ってるんだ! こうして下らない議論をしている間にもどんどん、、!」


感情を抑えきれない新城に冷や水を浴びせたのは、その場にいる仲間ではなく、画面の向こうの一人の男であった。


『君の言う"下らない議論"をせざるおえない状況を作り上げたのは、誰でもない君自身ではないのか? 新城1等海上保安士』


その言葉にハッとして相手を見やれば、出発前の週末に佐久真と二人でいた伊知川であった。


「それは、、、」


『先程の救助の際、彼女を先に救助していれば、こんなことにはなっていないと思うが、、、』


画面の向こうの、敵意を隠そうともしない相手に、何も言えずにいる新城に変わり結城が前に出てきた。


「失礼ですが、、、あの時の現場での判断は何も間違ってはいませんでした。 自力で上がれない者がいるときには、上から引き上げる人員を増やすために、自分と艦長が上がるべきでした」


いつもの穏やかさはナリを潜め、厳しい眼差しで相手を見つめていた。


『、、、まあ、過ぎたことを言っても仕方ありませんね。 ただ現在、この件の指揮統制を担っている者として、先程の"失敗"も鑑みて、また同じ轍を踏むどころか、君達潜水士にまで被害が及ぶことを危惧しての判断だ。 二次被害を防ぎ、君達の言うところの"仲間"が危険な目に合わないためならば、その命を掛けることを厭わないのが、我々、自衛官だ。 彼女も理解しているはずだ』


命を第一に考えないあまりにも衝撃的な発言に誰もが言葉を失ったと思ったその時、新城が強い意志を瞳に宿らせて進み出てきた。


「そんな、、、自衛官だろうとなんだろうと、同じ命ですよ?! 海で救助を待っている者がいるのならば、相手が誰であれ助けるのが海上保安官(おれたち)の任務です! 彼女は待ってるって、助けに来てくれるのを、この海で待ってるって言ってました! 次こそは必ず救助して帰ってきます! 行かせてくださいっ!!」

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