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海の上の物語  作者: 悠利
12/16

脱出

水位は刻一刻と増えていき、今は佐久真の腰を越えるくらいまで増えていた。


「これを壊せば、、、!」


手に持ったハードディスクの様なものを壁に叩きつけながら佐久真が言うが、なかなか上手く壊れない。

新城が佐久真の背中から手を伸ばして、それを取ると、


「これが壊れれば良いんですね?」


そう言いながら壁に叩きつければ、先程までの頑丈さが嘘のようにひしゃげた。


「、、、スゴい!」


紺野の関心に目尻を赤く染めながら、それを室内に捨てると、佐久真へと手を伸ばした。


「さぁ、行きましょう!」


「はい!」


佐久真はしっかり差し出された手を掴み返し、二人で水を掻き分けながら外を目指した。

しかし、通路を階段に向けて進んでいる途中で、ゴゴゴッと異音がしたと思ったら、船が傾き始めた。


「きゃっ」


目の前の通路が突如上り坂に変わり、流れ落ちる水に足を取られた佐久真が足を取られる。

とっさに近くの手すりを掴み、佐久真を引き寄せた新城が彼女の無事を確かめる。


「大丈夫ですか?!」


「はい、ありがとうございます」


外へ通じる階段まではあと1メートル程だが、一歩間違えれば水の溜まった通路の反対側へと滑り落ちる事を考えると、下手なことも出来ないが、徐々に角度を鋭角にしていく船体に素早く決断すると、佐久真に声をかけた。


「佐久真さん、俺が階段まで先に行って、ロープをくくりつけてきます! それまで、ここに掴まって待っていてもらえますか?」


「大丈夫です。 よろしくお願いします!」


泳げない人間にとって、足下の水溜まりは恐怖でしかないであろうに、気丈にも新城を見送る佐久真。

佐久真に見守られながら、新城は慎重にクライミングをするかのように突起物に足をかけながら登っていき、ロープを下ろした。


「それを体に括ってください!」


佐久真は新城の指示に従い、ロープを体に括ると先程の新城と同じように慎重に登り始めた。




「遅いぞ!」


結城がホッとした顔で、傾いた船内から出てきた二人に声をかけた。


「悪いな」


あの後、無事に乗り越えた二人は、結城らの仕事のお陰でスムーズに外までの道を通ることが出来た。

しかし、外に出てみれば、船首は海へと沈み、船尾と脱出した出入口付近がかろうじて水面に出ている状態であった。


「ヘリは?」


「あと10分はかかるって」


新城の問いに努めて軽く答える結城だが、それが間に合わない時間だということは、素人の佐久真にも分かった。


「船と心中は勘弁願いたいところだな」


新城の皮肉に、艦長が冗談で返す。


「私はむしろ、新城との心中が勘弁だな」


そう言うと、船尾へと登っていき、影になって隠れていた救命ボートを引っ張り出してきた。


「!」


「そういうのがあるなら、早く言ってくださいよ!」


皆の顔に笑顔が戻ると、結城と新城が船を海面に下ろし、まず結城が、続いて艦長が船に乗り移った。


「、、、」


「佐久真さん?」


先程から無言の佐久真を訝しく思って見れば、不安に瞳が揺れていた。


「もし船に上手く飛び移れなければ、さすがにヤバイですよね?」


口元は辛うじて笑顔を作ろうとしているが、目が笑ってない辺り、かなりの恐怖に怯えているようだ。


「、、、なら、俺が先に降りて下で受け止めます! もし海に落ちたとしても絶対に助けますから、俺を信じて飛んでくれませんか?」


新城の真摯なお願いに、佐久真は覚悟を決めたように一つ深呼吸すると、まっすぐ新城を見返して頷いた。


「分かりました、、!」


その言葉を受けて、新城が飛び降りた。

そして、両手を大きく広げて佐久真の方を向き、声をかける。


「さぁ、これでもう大丈夫! いつでも受け止めれますよ!」


新城が笑顔で見つめれば、佐久真は震える手で手すりを握りしめ、飛び降りるべく船の縁に立った。


―ズズーンッッ


いざ飛び降りようとした時、突如船が傾斜を強め佐久真はバランスを崩し、新城らのボートとは反対の船体の方に投げ出された。


「! 佐久真さん!?」


「大丈夫ですか?!」


新城と結城の言葉にも反応はなく、焦るも、新城らの位置は佐久真より低く、中を伺い知ることも、戻って助けることもできない。


「クソッ! 佐久真さん! 佐久真さん!!」


「落ち着け、新城! こちらの声かけが焦ったものだと、要救助者(かのじょ)は余計に焦るぞ?」


艦長の諌めに頷くと、今度は穏やかさを心掛けながら声をかけた。


「佐久真さん! 大丈夫ですか?」


すると少しの間のあった後、顔を覗かせながら笑顔を見せてくれた。


「大丈夫、です!」


「、、、良かった」


ホッと安堵のため息をつきながら見れば、彼女もまた安堵の表情を覗かせた。

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