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海の上の物語  作者: 悠利
11/16

ミッション開始

「ミッションは至ってシンプルだ。 船に残っている六人を収容して『しらせ』に帰還する」


誰もが桂の言葉に黙って聞き入る。 無線を通して繋がっている『みずほ』の残留者達も、また然りである。


「厳守事項としては、全員の生還。 要救助者も、救助者(われわれ)も、誰一人欠けることなく、また横須賀で今度は朝まで呑むぞ、、、いいな?」


「「了解!」」


【了解!】




悪天候の中、潜水士を乗せてヘリが出発した。


「視界が悪いな、、、あまり長時間のホバリングは厳しいから、救助に当てられる時間は7分だ! 半分を収容して、一端帰った後、また来る。 残る潜水士(やつ)はそれまでに残りの人員を集めて、いつでも動けるようにしておけよ!」


「分かりました! 新城、結城ペアが残ります!」


到着までの短い時間で、それぞれに役割を確認し合うと、着いてすぐに動き始めた。

結城がロープを下ろせば、下で待機していた仲間がそれを固定する。

新城達がそれを頼りに降りれば、見知った顔が安堵と申し訳なさを交えたような顔で出迎えてくれた。

しかし、そこには新城が探し求める顔はなく、、、


「あ、の、、、佐久真さんは?」


「それが、、、」


「何かあったんですか?!」


言い淀む機関士に詰め寄れば、教えてくれた。


「先程、衛星通信で本部から連絡が来て、『船を捨てて逃げるのなら、乗せている数億円の器材がいかなる形でも悪用されぬよう対処せよ。 それが完了するまでは撤退は許可しない』と」


「船を捨てて逃げるって、、、」


あまりに思いやりに欠ける言葉に、結城が顔をしかめる。


「じゃあ、佐久真さんは、、、」


「今、下にある器材でなにやら操作をされてます。 艦長が時間がないからと伝えに行ったんですが、まだ戻って来ず、、、」


「クソが、、、!」


無茶苦茶な命令を下す上層部に苛立ちを隠しきれずにいると、桂から連絡が来た。


【おい! まだか?! モタモタしてる時間はねえぞ!】


「新城、、、とりあえずここにいる人を収容するぞ。 途中で合流してくるかもしれないしな。 それに、艦長が一緒ならすぐにどうこうなることはないだろう」


結城の言葉に、とりあえず甲板に集まってる者を収容すべく動いた。


「よし! これでラストです!」


【了解、引き上げる!】


最後の一人が伊藤と共に上がって行ったのを確認し、少しだけ息を抜く。


【これより一度、帰投する。 すぐに戻ってくるから、イイ子で魔ってろよ!】


無線の桂に合図を送れば、ヘリが離れて行った。


「さあ、お姫様の救助といきますか!」


残ったバディの結城と頷き合い、船内へと駆け出した。




「まだですか?!」


艦長に焦った声で促され、佐久真は内心の動揺を隠しもせず返した。


「まだ、、、処理するのにあと9分50秒、物理的破壊には少なくとも20分はかかるんです!」


「そんな、、、」


ディスプレイに表示された数字はだんだん減りつつあるが、まだ9分ある。

無茶苦茶な要求を受けて、器材が置いてある部屋までやって来てからもう20分くらいは経っているだろうか?

靴底を濡らす程度だった水深は膝下くらいまで増えていた。

佐久真はこの絶望的な状況に歯噛みしつつ、艦長を振り返った。


「私のことは置いて行ってください」


「なっ?!」


予想の範疇とはいえ、到底承服しかねる言葉に目を剥く艦長になおも続けた。


「全てが終わるまであと30分近く、、、恐らく船は沈んじゃうんでしょう? これの処理を優先することを決めたのは自衛隊です。 上官の命令は絶対ですから、自衛官である自分の仕事です。 でも、海上保安官の貴方は関係ない。 だから、待っている人の為にも、自分が生きるために最善を尽くすべきです! それは、ここに留まることではないはずです!」


「なら、自分はここに残らないとですね」


二人しかいなかったはずの室内に、いるはずのない人の声が響く。

二人が驚いて入口を見やれば、オレンジのウエットスーツに身を包んだ新城が立っていた。


「新城さん!?」


「桂さんからのミッションは、『全員の生還』。 全員にはもちろん佐久真さんも含まれますから。 貴方の命を守るために、俺はここに残ります」


「いざとなったら新城が、貴方が嫌がっても、無理やり担いで連れていきますよ」


苦笑と共に現れたのは結城だ。


「結城さんまで、、、」


「私とて、"元"潜水士です。 自分の身は自分で守りますから、、、貴方は自分の仕事に集中してください。 最大限のバックアップでもって、みんなで帰りましょう!」


艦長も上着を脱ぎ、ワイシャツの袖を捲りながら笑顔で言ってきた。


「退路は結城と私で確保します! 新城は彼女を守っていてください」


「「了解!」」


出ていく二人を見送り、残った新城を見上げれば、笑顔で力強く頷いた。


「大丈夫、佐久真さんのことは俺が絶対に守りますから!」


そんな新城に、泣き笑いのような顔で頷く佐久真だった。

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