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海の上の物語  作者: 悠利
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危機

しばらくして波が少し落ち着きを見せ始めたのを見逃さずに、行動に移した。

互いに船を近づけ、新城らが船の間にロープを渡す。

そのロープを命綱に救命ボートに乗った人達が移動していく算段だ。

艦長と皆を見送るため、佐久真はロープの袂に並んで立っていた。 最後のメンバーが乗り込むと、新城が振り返りしばしの別れを告げた。


「ヤバくなったら言ってください。 すぐに助けに来ますから」


「よろしくな」


艦長が笑って返すと、今度は佐久真を見つめて言った。


「さっきの約束、守っていてくださいね」


「新城さんも、守ってくださいね?」


念を押す新城に、苦笑しながら佐久真も返した。


慎重にボートが進むのを見守る佐久真は、正直内心は不安で押し潰されそうであった。

そんな佐久真の心情に気付いてか、ボートが無事にたどり着くのを見送った艦長は橋渡し用のロープをほどきながら佐久真に努めて明るく声をかけた。


「新城とは話は出来ましたか?」


「えっ、あ、はい、、」


どこまで知っているんだろうと推し測る様子の佐久真に苦笑して答える。


「あいつはすぐに顔に出ますからね、分かりやすいんですよ」


「確かに」


思い当たる節があるのか、同意を示す佐久真に笑みを深める。


「でも、あそこまで真剣に相手を想っている姿は初めて見ましたよ。 ようやく、あいつにも落ち着ける居場所ができたのかって、あいつを可愛がっている上は安堵の溜め息をついてますけど、、、好みじゃなければ、断ってしまって良いですからね?」


おどけて言う艦長に、佐久真にもやっと笑顔が戻る。

それを見つめて頷くと、室内に戻ることを促した。




ほとんどの者が船を移動してから、ますます天候が悪化していく。

波は船を越えるほどの高さになり、叩きつける雨に視界はほとんど効かなくなる。

陸地を目指して進むことも叶わなくなり、互いの船の位置を探査装置で確認しつつ、襲い来る波を乗り越えるのがやっとという状態まで追い込まれていた。


「桂さん! このままでは『みずほ』は保ちませんよ!」


「海自の人達も『しらせ』だけならなんとか進めるって言ってました。 艦長達をこちらに収容して帰港を目指した方が良いと思いますっ」


巡視船に残った仲間達の身を案じ、口々に最善策と思われるものを提案する1班員達に、1班長の桂も苦い顔で答える。


「分かってる! 先程、『しらせ』の艦長と協議して、その方向でいけるよう上と掛け合うよう頼んできた。 今は返事を待つしかねぇだろ」


皆の不安が的中するまで、そう時間はかからなかった、、、




その報せが新城らに届いたのはそれから1時間後のことだった。


「『みずほ』がヤバイって、どういうことっすか?!」


慌てて新城達が操舵室に行くと、桂が『しらせ』の艦長と話している最中であった。


「来たか、、、」


「先程『みずほ』より無線で船内への浸水を確認したとの連絡があった。 今しがたの経過報告では、浸水量が増えているらしい、、、」


『しらせ』の艦長からの説明に、誰もが絶句する。

この嵐の中、船が沈めば乗っている人間は、船もろとも海の藻屑と化すだろう、、、

少なからず海に携わるものなら、誰もが容易に予測できる状況に、堪らず新城は前に出た。


「行きましょう!」


「しかし、無事に助け出せるどころか、たどり着けるかも怪しい状況で、上が許可するか、、、」


渋る桂に、普段は寡黙な伊藤が前に出てきた。


「ほっておけば、どのみち沈む事が分かっていて、仲間が死ぬことが分かっていて、助けられる力があるのに、目の前で沈んでいくのをただ見ているなど、、、耐えられません! 1%でも助かる見込みがあるなら、自分は行きたいです!」


驚きに目を見開く桂の視界に映るのは、同じ意志を宿した潜水士達。


「俺達だって、海上保安官です。 最大限のバックアップで、1%を2%、、、いや、10どころか100%にしてみせますよ!」


潜水士の言葉に、力強く後押しするのは、『みずほ』の乗組員達だった。


「桂さん、、、やりましょう!」


新城のダメ押しに、桂は力強く頷くと、指示を出し始めた。


「、、、責任は全て俺が取る! 総員、救助態勢へと移行せよ! 全員、助けるぞっ!」


「「了解!!」」


慌ただしく駆けていく背中を見送ると、桂は『しらせ』の艦長へと向き直った。


「良いんですか?」


上の許可なしに人員や装備を使うことは罰則ものだ。 最悪、自分の地位が危うくなるだろう。 それらを慮っての言葉に、ニヤリと人の悪い笑みを返す。


「俺一人の免職(クビ)程度で、大切な仲間の命が助けられるなら、安いもんだろ」


「潜水士達の命を危険にさらしても、ですか?」


「あいつらは生き残るよ。 そして、生き残らせるために、俺はヘリに乗ってるんだ」


桂の決意の固さに、艦長はふっと息を緩めると、頭を下げてきた。


「感服しました。 我々に出来ることがあれば、遠慮なく言ってください。 航空とはいえ、自衛官(なかま)が乗っています。 どうか、よろしくお願いします」


艦長の言葉に頷き、桂も出発の準備をするべく部屋を出た。

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