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ラストプリンセス 後半  作者: 山犬 翔景
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王都ルーレンパレスを奪還する

第8章 アルタイ籠城戦


玉座に座るリンネは、肩にも腕にも包帯がまかれている。

でもリンネもかわしていたので、深い傷にはなっていなかった。

そんなリンネたちの元にルフィサに連れられ、懐かしい顔があった。


「オンじい! 」


とリンネが笑顔で話した。


「これはこれは、リンネ姫、おひさしゅうございます」


「おひさしぶりです」


とレイやバシル、ガーディアンが頭を下げた。


「そなたらも一緒であったか。はげんでおるようだぁ」


「はい先生」


「誰だ、あのじいさん」


バコーン


「イテェ! 」


と相変わらず、ライファはレイに殴られた。


「私たちの師匠だぁ! 無礼者! 」


「オンじいはどこにいたんだぁ? 」


「すみません姫。私が拘束しておりました」


とルフィサが謝りだした。


「仕方がないであろう。アルツィネの手前、そうせねばならん状況ではあったのだ。それに、拘束と言っても快適な生活であった。3食高級な食事を頂け、窓からは海が見渡せる素晴らしい景色。欲しいものはなんでも言えば頂けた。普通に生活するよりも快適であったぞぉ」


「すみません。オン先生」


「そんな事よりも、これからが大変でしょう。このアルタイの事は、すぐさま、アルツィネの耳に入りましょう。さすれば、大軍を差し向けてくるのは必然です。守りを固めなければなりません」


「どうしても戦は避けれるのか? 」


「さすがは姫様。お父上譲りのお心のやさしさ。感服致しまする。しかし、アルツィネは、そんな姫のお心を理解はできないでしょう。ここを守らればなりません。ルフィサ、ここに何人の兵がいよう? 」


「・・・・」


「いかがした? ルフィサ」


「正直、カンテが裏切りました。その為、1万〜1万5千といった所でしょうか・・・」


「だったら、1万5千〜2万だ」


とバシルが話した。


「バシルは5千の兵を持っているのか? 」


「山賊ではありますが、召集すれば5千はいます」


「ほう、そうであったか。では、レイ、その2万の兵を使っていかに守る? 」


「私ですかぁ! 」


レイはびっくりした。オンが考えてくれると思っていたから。


「そうじゃ。そなたが考えるのじゃ。まさか、この老いぼれに軍師をせよと申すか。もう、そなたたちの時代であるぞぉ今は」


「そうですねぇ〜」


しかし、レイは自信なさげだ。

それを見た、リンネは話した。


「レイ! いつもそなたばかりに期待して、申し訳ないが頼む」


「分かりましたリンネ姫。オン先生。おそらく、アルツィネは、アント将軍に指揮を任せるでしょう。さすれば、その数は10万。そして、策はコーテンが考えるものと思います」


「コーテンか。あいつは天才だからなぁ」


「あいつにはいつも、煮え汁を飲まされたからなぁ。私たち」


とガーディアンとバシルはそんな思い出を思い出していた。



7人は山道を走っている。


「山を走るのが、一番遅いものは、懸垂1000回じゃ! 」


そんなオンの指示により、リンネたちは山道を猛ダッシュしていた。


木を飛び移るレイが先頭を走っていた。


その次は、バンダナをつけた、少し小さめな女の子のバシルが走っていた。次には小柄な男の子ガーディアンである。次に長身な顔立ちの綺麗なサーベル、次にリンネ。次に綺麗な顔立ちで、スタイルがいいルフィサ、一番最後は凄い大男で、見た目ガキ大将ぽいランバルが走っている。ランバルは息が上がり、その場に倒れ込んでている。


バチン


「イッテェ」


「たわけぇ! ランバル! 走らんかぁ! 」


馬に乗ったオンは、ランバルを鞭で殴った。


レイが走っていると、目の前は谷底だ。ゴール地点の印である旗は、谷底の向こう岸にある洞窟にあった。谷底の幅は10mぐらいある。ジャンプして届く範囲ではない。


「いかがいたすレイ! 迷っていると、せっかくのリードもなくなるぞえ」


オンに言われ、レイは谷底を見て、飛び降りた。


「バカものぉ! 」


下までは70mはある崖。谷底には川が流れているが、流れも急で、深くもない。間違いなく死ぬだろう。


しかし、レイは、崖にある、木に飛び移り、それにぶら下がりながら、下へ下へと飛び移り、落ちていった。


「危ない奴だぁ。まー奴だからできる事であるが」


次に来たバシルは、崖沿いを歩いて、道を探しに行った。


次に来たカーディアンは、木のつたを探してきて、それを弓矢に括りつけ、逆側にある木に矢を射抜いて、括りつけた。後はそのままは渡っていた。


次に来たのはサーベルである。


サーベルは、来た道を戻って行った。


次に来たのはリンネだ。


「姫。どうなされるおつもりだ」


リンネは考えているが何も思いつかない。


「うううううううわからん! ならば、このまま下りて、登るのみ! 」


と言って、そのまま下って行った。


「あれあれ、なんという真っ直ぐな」


とオンは、姫の真っ直ぐな性格をたくましくもあり、悲しくもあるように見ている。


次に来たのルフィサ。


「ならば、飛び降りよ! 後は天に祈るのみだぁ」


「たわけぇ! であれば、そなたは危険と見なそう」


「なぜですかぁ! オン先生! 」


「そなたのような、命知らずでは、姫を守る事はできないぞえ」


「では、いかがすれば・・・・」


「そなたは、考える事をしないなぁ」


と言っていると、カーディアンが渡り終え、洞窟に到着した。


「よし。俺が一番乗りだろう」


と思って洞窟に入ると、そこに座っている人間がいる。


智に優れたコーテンである。


「コーテン! そなた、いつの間に! 」


「少し考えれば、こんなものは苦労せずにたどり着ける。考えるとは、またちいと違うかもしれんがなぁ〜」


「どういう事だぁ・・・」


谷底の向こうでは、ルフィサがまだ迷っていた。そこに、一番遅れをとっていたランバルが追い付て来た。


「ハァハァハァハァ、、、もう走れん・・・」


と言って、その場に倒れ込んだ。


「これランバル! 」


バチン


と、オンはランバルを鞭で殴った。


「イテェ! 俺は家畜じゃないつーのぉ! 」


「ほー。まだ元気ではないかぁ。ではもう一息じゃ。この崖の向こうにある洞窟がゴールであるぞぉ」


「え・・・」


ランバルは、崖を見渡した。


「おいぃ! あんなの無理じゃねーかよ! おいルフィサも諦めたのかぁ」


「私は、おまえのようなあほではないぃ! 今は、知恵を絞っている所だぁ」


「あほってなんだよぉ! 」


「あほにあほと言って、何が悪い! 」


「てめぇ! 」


「こらぁ! ケンカをしている場合ではない。もうカーディアンとコーテンはゴールしておるぞぉ」


「マジかよぉ! 」


「うん? 」


その時、谷底から、登ってくる人間がいた。


時折、ジャンプをして飛び移り、時折、登りながら向かってくる。それはレイだ。


「なんと信じらへん。あの崖をもう、上り下りをしてきたというのかぁ」


それから程なくして、レイもゴールした。


それを見ていた、ルフィサも動き始めた。ルフィサは川下へと歩いて行った。


「おい! どこに行くだよぉ! 」


「ついてくるんじゃーよ! いい事考えたんだぁ」


「いい事を考えたとは、なんであるか? 」


とオンはルフィサに聞いた。


「この崖の下の川は、流れが強く、浅い。飛び降りれば死にます」


「うむ」


「しかし、川下には湖があったはずです。そこからなら、流れもないし、浅くもありません」


「ほう! そうであるかぁ。それもよかろう。ただ、ここから2km近くあるぞよ」


「それが一番いい方法かと思います」


そう言って、ルフィサは湖を目指した。


「おい! 待ってくれよ! 俺も行くからよぉ! 」


「勝手についてくるなぁ! 卑怯だぞぉ! 」


と言いながら、ランバルはルフィサについて行った。


そして、川上に行った、バシルが先に到着し、その後、サーベル、ルフィサとランバルが到着した。

リンネは一番最後だった。


「以上であるなぁ」


リンネはボロボロになっていた。


「すみません。姫、私が助けるべきでした・・・」


「ならぬと申したはずじゃあレイ」


「しかし・・・」


「これも修行だ。上下関係は関係ない」


「その通りに御座います姫。助ける事は姫の為ではない。そこまで、考えるも、下にいるものの、定めである」


「はい」


「さすればコーテン。そなは、どうやってここに到着した」


「はい。この辺りの地理はだいたい見ておいたので」


「ほう。見ておいたとなぁ」


「はい。オン先生が、昨日、明日は山の入り口からあの洞窟まで競争をされるとおっしゃいました。ですので、昨日のうちに地理を確認しておきました。軍師なら、戦場の地理を見る事は当たり前にございます」


「その通りじゃぁ! 戦場を知らなければ、戦いに勝つことはできん! なんでもそうじゃあ、予習はせねばならん! ここも、入り口から真っ直ぐ山道を抜ければ、2kmぐらいで崖に到着する。しかし、ここを通らずとも、入り口から左のけもの道を行けば、3kmもかからず、崖を通らずとも行けるのである。バシル! 」


「はい」


「そなたは、川上の方に行っておったなぁ? 」


「はい。4kmほど行った所に、滝がありました。そこで川を渡りました」


「そんなに歩くのであれば、初めからコーテンが通った道を通ればいいというものだ。姫は、話になりませんね! よって、懸垂1000回とします」


リンネは近くの木で懸垂をしている。


「326、327。姫、頑張ってください! 」


とレイが応援している。


「うぐぐぐ」



「コーテンとの知恵の絞り合いとなるであろう」


現在のアルタイの玉座の間。


「とにかく、時間はありませんので、ルフィサ、この辺りの事を教えてくれ」


「分かった」



レイとルフィサは、アルタイ周辺を見て回った。


海岸沿いに来て見ていた。

ここには、たくさん船が往来している。

港湾都市など、船が行き来できるよう、すごく大きく入り口が開いている。守る為になんて造っていない。


「入り江は、水深15m、入り口は、約600mもある。ここからは、アントの水軍は、簡単に侵入できるだろう」


「うん・・・」



アルタイは2方が海で、逆側の2方は陸地になり、城壁が並んでいる。


「城壁は6mぐらいはあるので、まーまー十分ではある」


「しかしそれだけは心配なので、城壁の上にも柵をつけよう。」



その頃、王都ルーレンパレスでは、アルツィネが怒り狂っていた。


「ルフィサのやろう! 裏切りやがっただとぉ! 」


「はい。アルタイは、リンネ姫の元に落ちました」


「おのれぇ! 私に逆らうとどうなるかぁ思い知らせてやる! すぐさま、アント将軍に伝え、アルタイを攻めさせよぉ! 」


「はぁ! 」



そんな状況下でもアルタイにうれしいニュースもあった。


「リンネ姫! 」


「エイネン! よくぞ来てくれたぁ! 」


「久しぶりではないか、エイネン」


「オンであるかぁ。よう生きておったのぁ」


「たわけぇ! じじいにするでねぇ! 」



「お頭! これで5千人の山賊が集結致しました」


山賊たちは、夜陰にまぎれたり、別に別に少人数で移動し、無事に到着したのである。


「よくぞぉ無事についてくれ。これから頼むぞぉおまえらぁ! 」


「おお! 」


と5千人の山賊は団結していた。


「こんなに山賊がいるなら、夜道も安心して歩けねーぞぉ」


「なんか言ったかライファ? 」


「なんでもねーよ、ワワチ」



しかし、アルツィネの指示は2日ぐらいでアントに報せられた。


アント将軍率いる10万の大群はアルタイへ向けて、出陣した。


「半島手前のフリルランス城で、兵馬を整えよう。後、クリブタイ半島の逆にある、ネロイド港に、水軍を集結させておけ。コーテン。そなたは戦術を考えよ」


「分かりました」



「申し上げます! 」


「いかがした? 」


アルタイ城では、リンネ姫が玉座に座り、近くに、オンが座って、ライファもリンネ近くに立っており、ガーディアンは少し離れた柱にもたれかかっていた。


「アント将軍の兵10万が、こちらに向かって出陣致しました」


「なんと、早い事だ。して、今はどちらにいる? 」


とオンが伝令に質問している。


「今は、半島の手前、フリルランス城に入っております」


「なるほど、そこで兵馬を整え、こちらに攻めてくるという感じか」


「ライファ! 」


「なんだリンネ」


「この事を、レイに伝えて来てくれ」


「おう分かった」


と言って、ライファは走って出て行った。


「あいつは何なんですか? 礼節の1つもない。ガーディアン、そなたがしつけせよ」


「わ・・・私ですか」


「よい。あいつは」


とリンネはあまり気にしていない。というより、その差を作って欲しくないのかもしれない。


「なりませんぞぉ。他への戒めになりません。ガーディアン。しつけしておけ」


「レイに言っときます」


ガーディアンは明らかに嫌がっている。



「おい! レイ! 」


「おう! やっと名前で呼ぶようになったか」


「アントが攻めて来てるらしい。で、半島の前の何とかって城にいるらしい」


「もしかしてフリルランス城かぁ。もうそんな所まで。レイ、急ぐぞぉ」


「そうだなぁ」



玉座の間には、リンネ、オン、レイ、ガーディアン、バシルにルフィサ、そしてライファ、ウルバも集まっていた。


「みんなにはすまないが、急ピッチで戦準備を進めて欲しい。ルフィサは、入り江の埋め立てを行ってほしい」


「埋め立て! そんなの今から間に合わないだろう。これだから、素人は。ルフィサ様、なりませんぞ。そんな無謀な策をお認めになっては」


「何をしたらいい? 」


「ルフィサ様! 」


とウルバが、色々言うが、ルフィサは聞いていない。レイを信頼しているからだろう。


「すぐ近くにある、岩石山から、岩石を運び、入り江にできるだけたくさん埋めて欲しい。埋めるだけいい」


「なるほどレイ。埋めて、大型船が入れなくするという事か」


「はいそうです。オン先生」


「であれば、運ぶのは一苦労だが、そんなに時間はかからん」


「後、バシルたち、山賊には、城壁の上に柵を設けて欲しい」


「分かった」


「ガーディアンとガルバゴスのみんなと、町の集めた人で、城外の木を切っておいてほしい。よく外を見渡せるために」


「うん」


「それで、ライファ。油などの資材。食材を集められるだけ集めてくれ」


「・・・・・」


「聞いてるのかぁ! 」


「どうやって集めればいいんだぁ? 」


バコーン


「イテェ! わかんねぇーから聞いてるんだろう! 」


「私がメモを書いてやるから、それをバロックに見せて、集めてもらえ! 」


「おうそうかぁ」


「どんだけバカなんだぁおまえはぁ! 」


「みんな、いつも手間をかけるが、よろしく頼む」


とリンネは頭を下げた。


「おやめくださいリンネ姫! 頭をお上げください」


リンネは姫でありながら、下手にでて、気遣った。上にいる人間がなかなかできない事である。そんな姿が、人々の心をうつのであろう。



リンネたちは急ピッチで進めていた。


しかし、アントは、こっちの準備を待ってはくれなかった。



フリルランス城


「これより、アルタイを攻める。兵士として、こんに大きな戦に何度も会えるわけではない。これはチャンスである。1番危険をさらしたものが、明日の将軍となるであろう。皆の者、手柄をとれ! 」


アントの号令により、フリルランス城から10万の兵がアルタイを目指して出陣した。


そして同じころには、ネロイド港からも、50隻近く船がアルタイを目指して出陣した。



その連絡は、すぐさま、リンネたちの元に報された。


「申し上げます。フリルランス城より、10万、ネロイド港より50隻の船が、アルタイ目指して前身してきております」


「いよいよかぁ」


鎧をつけたリンネは玉座から立ち上がり、話し始めた。


「皆の者、我に力を貸してくれ! アルツィネの極悪非道な行い、これ以上許してはならぬ! 我がルーグラン王家として、成敗する。皆の者! であえ! 」


「おおう! 」


リンネ号令の元、それぞれが配置につき、アント軍を迎え撃った。


アントは、アルタイを見渡させる、アルタイ山に陣をひき、兵が押し出してきた。


その前線3万の兵を率いるは、アントの絶対の信頼をおく、副将ゲルタインである。


「弓矢兵前へ! 」


「撃て! 」


弓矢兵は、斜め上に弓をいった。

それが、城壁の上に待ち構える、ライファたちの頭上に、雨のように降ってきた。


ザザザザザザザザザザ


「うわー」


なんとか、盾で防ぐも全部は防ぎきれていなかった。


ゲルタインは、休むことなく、


「歩兵進め! 」


2万の近くの兵が一斉に攻めて来た。


ロープをかけ、上に登ろうとしていた。


「くらえぇ! 」


ライファは油を落とした。


それで、壁が滑り、なかなか登れなかった。


「よし落とせ! 」


バシルの指示で、集めておいた岩を落とした。


この城壁は、バシルの山賊が中心となって守っていた。



その頃、海外沿いでは、ルフィサがいた。


遠くの方で、戦いの音が聞こえるが、こっちは静かであった。


入り江は、岩で埋めた為、船は入れない。そして入り江の入り口には隙間なく船を並べて繋げて、入れないようにしていた。


「ルフィサ様、何も来ませんねぇ」


ルフィサの横にいた、ウルバが異様な空気を感じ始めていた。

それはルフィサも同じである。


「コーテン。何を企んでいる・・・」



城壁では、次から次へと攻めて来る。


「おい登られるなぁ! 」


ザザザザザザザザザザ


「うわー」


弓矢の雨もたくさん降ってくる。


その時、城壁の上の方に、ガーディアンが立った。


ガーディアンは弓で、ゲルタインを狙った。


スパーン


ヒュー


グサ


「ウウウ」


バターン


「ふ・・・副将! 副将! 」



「申し上げます」


伝令兵がアントの所へ来ていた。


「ゲルタイン副将が討ち死にしました」


「なにぃ! 」


「落ち着き下さい父上」


「うん」


「戦はまだ始まったばかりです」


コーテンは不敵に落ち着いていた。



夕闇が迫り、アントの兵はひいて行った。


結局、海からの攻めはなかった。


なぜなのだろうか。アルタイを攻めるには海から攻めるのが1番である。というより、海から攻めなくて、どこから攻めるという地形である。


だから、ルフィサの主力部隊を海に配置した。しかし、何もなかった。


リンネたちは、天才コーテンを不気味に感じた。



「海からの攻めがないとは、コーテンは何を考えているのか分からん」


ルフィサは少し荒れていた。


「こっちもそうだ。アントの本隊は攻めてこなかった」


バシルも相手の鈍足な戦を不思議に感じていた。



そして、次の日。


フィルランの兵2万が攻めて来た。


昨日と同じように、弓矢を撃ってロープをかけてという単調な攻めである。


「退け! 退け! 」


というフィルランと命令で兵は退いて、また数時間後に攻めて来た。


そしてその日の戦も終わったのである。


そして、ルフィサも1日、海を眺めているだけだった。



「レイ! なんかおかいしぞぉ! どうしたらいい? 」


とバシルたちに言われてもレイは何も返す言葉がなかったのだ。


オンはそんなレイを見つめていた。



そして、次の日も、また次の日も同じように戦は続いた。



ある日、ルフィサは、たまりかねて、城の高台にいるレイの元に向かっていた。


ルフィサは、野戦を考えていた。


「レイ! レイ! 」


ルフィサが高台に登ると、そこにはレイはいなかった。


「レイはどこいった? 」


「レイ様は、どこかにお出かけになられました」


「何!? 」



レイは相手の出方を伺いに城の外に出て、周辺を見に行っていた。


「本陣は、あの丘の上。水軍はどこに消えたのだ。まだ港を出港していないのかぁ・・・」


と周辺を探していると、アルタイの港湾の入り口から、2kmも行かない所に、アルタイから見えない所に船隠しがあった。そこになんと、50隻の船が隠されていた。


「なんだぉ! もしかして、コーテンは、この船をいつか進めて、港湾に侵入させるつもりかぁ・・・・。しかし、それはいつのタイミングで・・・」



「なんだって! 船隠しだと! 」


とルフィサは驚いていた。


「恐らく、いつかのタイミングで、それを港湾に進めるつもりだろう」


「しかしレイ。入り江には、そんな大きな船は入れないだろう」


「あー。岩を埋めたから、無理だ」


「それが分かったから、船は使えないと思ったんじゃねーかぁコーテンは」


「確かにそうだろう」


「皆! 苦労をかけるが、頑張ってくれ! 」


とリンネは皆を気遣っていた。


「はぁ! 」


とみんなは楽観的に考えているが、レイは何か裏があると考えていた。しかし、それが何かは分からなかった。



アルタイの近くのアルタイ山にあるアントの本陣近くで、コーテンは誰かと話していた。

そして話が終わると、そいつはどこかへと素早く消えていった。

コーテンは歩き出し、アントのいる本陣へと戻った。


「コーテン。いかが致す? そろそろ、水軍を動かすかぁ? 」


「そうですねぇ〜船隠しにはどうやら気づいたようです」


「そうかぁ。では、そろそろ駒を進めるか? 」


「ううん・・・・」


とコーテンは考えていた。



星が綺麗な夜である。高台から星を見つめるレイ。

頭の中は、コーテンがどう動くのか。どうようにすればいいかを考えていた。


「レイ」


「オン先生」


オンが高台に上がって来たので、レイがオンを支えた。


「年寄りには、この階段はきついわい」


「はい」


「悩んでいるようだなぁ」


「はい・・・いつのタイミングで攻めてくるのかと・・・」


「そのタイミングは、レイ次第ではないのか」


「私次第? 」


「しかし、膠着状態では、向こうの思う壺である」


「オン先生どうしたらいいでしょうか?! 」


「それは、そなたが考える事だぁ」


「そんな事をおっしゃらず教えてください! 」


オンは空を見上げ、北斗七星を見た。


「見よ! 北斗七星を。今日も北極星を見ておる」


「はい・・・・」


オンはいきなり関係のない事を話し始めたので、レイはキョトンとしていた。


「その中でも、あの星が一番北極星を見ておる。あれがそなたじゃ」


と言って、オンはレイの方に向き返った。


「そなたは、この戦を絶対に勝たなくてはならないと思っておる」


「はい。もちろんです」


「それは、何の為じゃ? 」


「それは、リンネ姫を、王都ルーレンパレスにお帰し申し上げる為です」


「コーテンは何の為に、戦をしていると思う? 」


「それは・・・・」


レイにはなぜコーテンが戦をしているか、深い所までは想像つかなかった。


「深い所まで分かりません」


「深い意味などないんだ。アント将軍の息子である。そんなもんであろう」


「はい・・・」


「戦は、最後に勝つのは、勝ちたいと思う、心が強い方が勝つ! 」


「はい! 」


「フー」


とオンは寒く震えた。


「冷えてきよったわ。わしはもう休むとする。それじゃなぁレイ」


「はい。おやすみなさいませ」


オンは下へと下りて行った。


オンの言葉でレイには迷いがなくなった。



「バシル! ルフィサ! バシルの山賊兵の馬に、ルフィサの兵、5千を後ろに乗せ、相手本陣を攻めて欲しい! 」


「よし分かった! 」


ルフィサとバシルはやっと来たと思い、喜んだ。


「攻めるは、今夜、夜戦奇襲をかける。バシルの山賊であれば、あの丘はすぐに登れるであろう。それにあの山は、森にもなっている。だから、相手に気づかれず、本陣を撃てると思う」


「よし! 準備を進めて出陣だぁ」


とルフィサとバシルは息まいて兵の所に向かった。



その夜、相手が寝静まりそうな時間に、バシルとルフィサは出発した。


さすがは、アルデン山脈を日々、馬でかけている山賊たちである。すいすいと登っていく。



12年前。

吹雪が舞うくらいの雪が降っていて、1面、積もっていた日であった。


「では、4対4に別れて、今日は雪合戦をする」


「わーいわーい」


「ふん」


みんな子供の為、嬉しがっている。


「ただし、ただ雪をぶつけ合うだけはならん。これは戦術戦である」


「戦術戦?! 」


「そうだぁ。これは戦であると考えよ。相手の旗をとったら勝ちだ」


「チームは、リンネ姫、レイ、バシルにサーベル。対するは、ルフィサに、ガーディアン、ランバルに、コーテンだ。まずは、10分間の作戦会議を与える」


「いいかぁ。一気に型をつける。森を抜けた所に、あいつらの旗がある。この吹雪だ。よく見えない。私とバシルのスピードなら絶対に勝てる」


とレイは自信満々だった。


「では、そろそろいいかぁ? よし配置につき、始め! 」


レイとバシルは一気に森を抜けて走って行った。


「よし、バシル。もう森が抜ける。そしたら一気にとるぞぉ! 」


「おう! 」


そして、森を抜けて、相手の旗、目掛けて走った。



現在のアルタイ山

そして、丑の刻を過ぎた頃、バシルとルフィサは一斉号令をかけて、山頂の本陣目掛けて、攻撃を仕掛けた。


「進めぇ! 」


「おおおう! 」


とバシルを先頭に騎馬が進み、ルフィサも歩兵を率いて、攻撃を仕掛けた。


ダダダダダダダダダダダダダダダ


しかし全兵が止まった。


「うん? どういう事だぁ? 」


走って来たルフィサが、バシルが止まっている事に気づいて、駆け寄った。


「どういう事だぁ」


「分からない・・・」


「もぬけの殻じゃないかぁ! 」


なんと山頂にいたはずのアントの本陣が散り1つなく、なくなっていた。



12年前。


レイとバシルは森を抜けた。


「うおおおおおお」


しかし2人は立ち止まった。


「あれ? 旗がない」


「どういう事だぁ! 」


「そこまでぇ! 」


その時、森の向こうから、オンの終了の声が聞こえた。


「ええ! 」


レイとバシルが戻って行くと、レイたちの旗は、コーテンの手の中に合った。


そして、自分たちの旗はランバルが持っていた。


それを見たレイは怒った。


「卑怯だろうがぁ! 旗を持ち歩くなんて! 」


「卑怯じゃねーよ」


「なんだとコーテン! 」


「レイ、卑怯ではない」


とオンが話した。


「私は、旗をとったら勝ちとしか言っていない。自軍の旗を移動させてはいけないとは言っていない」


「そんなぁ! 」


とレイは叫んだぁ。



「確かに、来るうち、兵を見なかった」


現在のアルタイ山では、バシルとルフィサが混乱していた。


「どこに行ったんだぁ? 」


「お頭! 」


とバグがバシルを呼んだ。


「馬のひづめの後です。おそらくこのけもの道を駆け下ったんだと思われます」


「一体、本隊はどこに・・・」



ドーン ドーン


その時、アルタイでは、何かが衝突する大きな音が聞こえた。

日の出前の出来事である。


海にいた、ウルバが飛び起きて海を見た。


入り江を塞いでいた船に、アントの水軍の大きな船が突進をしていた。


「おまえら起きろぉ! 敵襲じゃ! 敵襲じゃ! 」


ウルバが叫び、兵が、急いで海外沿いに出て行った。


船が突進した事で、入り江を塞いでいた船が傾き、侵入口を開けた。

そこにたくさんの兵が乗れるように作られた、大量の小船が入り江に侵入してきた。


ガーディアンが弓兵をつれて走って来て、火弓を射った。

しかし、何万という兵で防ぎきれず、大量に陸地に上がって来た。



レイは城壁にいる兵を回そうと、城壁に向かうと、もう城壁の上で戦闘状態となっていた。


アントの本陣である6、7万の兵が、8m級の攻城塔を大量に落ち込み、投石機などを屈指して、力攻めを仕掛けて来た。


「ライファ! 」


「おいレイ! もう防ぎきれないぞぉ! バシルとルフィサはまだ戻ってこないのかぁ! 」


「・・・・・」


レイは何も言葉を返せなかった。


バシルとルフィサが戻ってくるには、どんなに飛ばしても2時間近くはかかるかもしれない。しかしそこまで待てないだろう。なぜならここまで、15分程度の出来事だからだ。


バシルとルフィサの所には1万の兵がいる。アルタイには8000ぐらいだった。

10万対8000。もう勝負はついている。



「ハハハハハハハ。見たかぁレイ! 」


コーテンは笑っていた。



レイにできる事はこれしかなかった。


「退け! 退け! 城内に逃げ込め! 」


外側である街を諦め、城の城壁内に逃げ込ませる事だけだった。



それから、退避行動を行いながら、戦った。

それから、1時間半ぐらいして、バシルとルフィサが戻ってきた為、アントたち本陣は退いた。しかし、町はアントの手に落ちたのである。

残すは、アルタイ城のみであった。



「これでは、食料が足りな過ぎる」


「今城内は、1万以上の兵がいるんだろう」


「あーぎゅうぎゅう詰めになっているよ」


「みんなすまない。私は子供の頃に、あいつにやられた同じことでやられた」


「レイ・・・いや、私がおまえに野戦をやらせろと急かしたからだぁ。すまん」


とルフィサが謝っていた。


「皆の者! 悔やんでもしょうがない。まだ戦いは終わってはいない! 」


みんなが自分の責任であると落ち込んでていると、リンネがみんなを励ました。


「はぁ! 」


「おうそうだぜぇ! まだリンネは生きてるんだぁ。いつでも再起は図れる! 」


「・・・・・」


全員がそう言ったライファを冷たい目で見た。


「なんだよぉ・・・・」


バコーン


「イテェ! 」


「姫だぁ! 」



「少し、兵を失ったが、上々だろう」


とアントは本陣で、コーテンやフィルランと話をしている。


「見事でしたぞぉ。コーテン殿」


「いえ」


「アント将軍も安心ですなぁ。こんな優秀な息子だと」


「まーそうかもしれんなぁ。ハハハハハ」


「ハハハハハ。どういたしますか。アント将軍。このまま力攻めしても十分だと思いますが」


「コーテンどうする? 」


「兵糧攻めでも十分だとは思います。すぐに兵が投降してくるでしょう」


「それじゃぁ〜つまらんのーフィルラン」


「そうですねぇ、武人は戦でしか手柄が立てれませんからねぇ」



「アルタイ山から、下ったところが、ちょうど船隠しの場所だった。そこもコーテンは綿密に練られていた作戦という事かぁ」


「あいつはやっぱり天才だぁ」


とレイとルフィサは廊下を歩きながら話していた。


「でも、レイ。相手の場所させ、しっかり把握していれば、こっちの勝ちだったって事だろう」


「まーそうだが。それが雲隠れさせたのは、コーテンの戦術だ。それを分かるには至難の業だ」


「だったら、確実に分かるときに動けばいい」


「え・・・あー」



リンネたちは、完全に追い込まれていた。


「今の兵を食べさせていこうと思うと、食糧は2週間も持たない状態です」


と食糧を管理する兵士がリンネたちの前で話していた。


「そうであるかぁ・・・」


「しかし、兵の数は約10倍程度。無理に動けば、すくに陥落する」


「でも早急に動かなければならない」


「時間がたてば、たつほど、寝返りも増えて行くぞぉ」


「レイ。どうする? 」


「とにかく、相手の本陣の場所を掴んでおく事が必要だろう」


しかし、それだけではダメだった。

レイは、ここに来て、城外の木を切らしてしまった事を後悔していた。

確かに相手の位置は見やすいが、近づく事ができないからだ。


「申し上げます! 相手本陣が平野に移りました」


「平野に」



高台から見ると、アント本陣は平野のど真ん中にあった。

完全にこっちに見える位置である。


「どういうつもりだ? 」


「ここにいるから攻めて来いと言いたいんだろう」


「そんなものに乗るかぁ! 」



「コーテン。そなたも考えたのう」


「はい。相手が狙うは、本陣です。だが本陣を隠しても、レイなら探すでしょう。だから逆にさらけ出します。さすれば簡単には攻めては来れません」



レイは高台から見つめ、戦術を考えていた。


「おいレイ! 攻めるぞぉ! 」


「おまえは・・・」


ライファは殴られると思って、ガードした。しかしレイは殴らなかった。


「それもいいだろう」


「え・・・」


「灯台下暗しとは、昔の人はよく言ったものだぁ。ハハハハ」


とオンは、レイの横でそんな事を言って、降りて行った。



その日の夜、バシルやルフィサは兵を率いて、平野の真ん中の陣目指して出陣した。


「いくぞぉ! 」


それを上の方からアントは見ていた。


「バカな奴らだぁ。攻めてきやがった。我々も行くぞぉ! 狙うわぁリンネ姫の首のみだぁ! 」


「うおおおおお」


アント軍は表門に真っ直ぐ進み、破城槌で城の門をこじ開けた。


平野ではフィルランの軍隊と戦いとなった。


「バカめぇ! これでおまえらは終わりだぁ! 」


とフィルランに言われながら、完全に策にはまった感じだ。


コーテンは、本陣がまさか、城の中へ行くなどあり得ないという策でもある。


表門が壊れ、アントの軍隊は城の中へと進んでいく。


もう終わりである。


「リンネ姫を探すのだぁ! 」


「父上! 父上! 」


とコーテンが呼んでている。


「なんだぁコーテン! 」


「城の中へは入ってはいけません!  」


「なんだとぉ! どういう事だぁ! 」


アントは門を開けた、城郭の所にいた。


バサ


その時、郭の上がライトアップされた。


そこにリンネを始め、レイやライファ、ガーディアン、オンにエイネンもいた。


リンネは手を上げ、


「撃て! 」


ヒュー


一斉に弓矢が飛んでくる。


ヒュー


ズバ


その矢の1本が、アントをとらえた。


撃ったのはガーディアンだ。


「うううまさか・・・」


バタン


「アント様! アント様! 」


アントは撃たれた。


アント討ち死の報せは程なく平野にも知らされ、フィルランは兵を率いて逃走した。


本陣を狙ってくるから、本陣を想像できないとこに移すと考えたコーテン。

想像できない所の一番は、敵の一番の懐、アルタイ城である。

でもそれは、敵に生け捕りにされやすい場所でもある。そこを読まれ、狙われたのである。

それはレイの術中にはまったというよりは、自分の策に溺れたのである。


コーテンは生け捕りにされた。


これによって、アルタイ城籠城戦は、総代表討ち死により、リンネ軍の勝利に終わったのである。



ヒュー


その時、リンネの横に1本の流れ矢が飛んできた。


グサ




第9章 無敵の騎馬隊 



バタン


「・・・あー! オンじい! 」


どこから飛んできたか分からない矢がオンに刺さり倒れた。


「オン先生! 」


「オン! 」


リンネは、オンを抱きあげ呼んだ。


「オンじい! 」


「ひ・・ひ・・め・・・なん・・・と・・情・・・け・・・ない・・・事で・・・」


「オンじい! しっかりするのだぁ! 医者を呼べぇ! 早く! 」


「姫は・・・じぶ・・・ん・・・がこうと・・・おも・・・えば・・・こうでしか・・・ない・・・ほんと・・・に・・こま・・・った・・・・おて・・・ん・・・ば・・・ひ・・めで・・・」


「オンじい! もうよいしゃべるなぁ! 」


「医者が来ました! 」


「早く、オンじいを治すのだぁ! うん・・・なんだ・・・」


しかしオンは医者を毛嫌いした。


「どうしたのだぁ! オンじい! 」


「わ・・・た・・・しは・・・・もうだ・・・め・・・な・・よう・・・です・・」


「ならん! ダメではない! 」


「オン先生! 」


「レイ・・・ひ・・めを・・・たの・・・むぞ・・・」


「オン先生! 」


「オン・・じ・・い・・はか・・・ほ・・・う・・もの・・・で・・あり・・・ます・・・ひ・・・め・・・のむ・・・ね・・・の・・・なか・・・で・・・しね・・・るとは・・・」


「死ぬとか言うではない! オンじい! 」


「ふ・・・へ・・・へ・・・ろ・・・うへ・・・いは・・・しお・・・どき・・・に・・・ござ・・・います・・・」


「ならん! ゆるさん! オンじいはずっと私にそばにいなくてはゆるさん! 」


「ほ・・・ん・・・と・・・に・・・ひ・・めは・・・わが・・・まま・・・ひ・・めじゃ・・・」


「オンじい! オンじい! 」


「オン! 」


「じいさん! 」


「オン先生! 」


「フフフ・・・」


オンはそのまま息を引き取った。


「オンじいぃ! 」


リンネの声は夜のアルタイに響き渡った。



アルタイにある、海が見渡せる小高い丘に、オンのお墓を作った。


その墓石の前にリンネを先頭にみんなで弔った。


「オンじい。私は、必ず、オンじいがおじい様と作った、王都ルーレンパレスにこの手に取り戻す。見ていてくれぇ! 」


「オン先生。必ずや私が、リンネ姫をお守りいたします。本当にありがとうございます。先生のアドバイスが、なければ、この天才コーテンには勝てなかった」


後ろにはコーテンがいた。



しかし悲しんでいる時間は、リンネたちにはなかった。

遠く、王都ルーレンパレスではアルツィネは怒り狂い、次なる刺客を送ろうとしていた。


「おのれぇ! このままにしてはおけん。神話という作り話が作った王家など認めてはならんのだぁ! カイデン将軍! 」


「はぁ! 」


「そなたの無敵の騎馬隊、グライト騎馬隊で、リンネ姫の首をあげよぉ! 」


「はぉ! 」


ついに、動き出した。負け知らずの無敵の騎馬隊、グライト騎馬隊がリンネに牙をむきだしたのである。


この2000年ぐらい、というより結成から負けなしの騎馬隊である。今は数も膨れ上がり、3万にもなる。だからますます、負ける事はあり得ないのである。



「コーテン」


リンネの前にはコーテンが跪いて向かい合っていた。


「そなたの父を殺したのは申し訳なかった」


リンネはコーテンに頭を下げた。


「いえ・・・戦での事です」


「コーテン。我に力を貸してはくれないかぁ。我とともに、王都ルーレンパレスを奪還してはくれないかぁ! コーテン! 」


「もちろんに御座います。1度はリンネ姫に忠誠を誓った身。この力を使って頂けるなら、存分にお使いくださいませ! 」


「おー! ありがとうコーテン」


「ただし、私は、ルフィサのように、父から受け継げる家臣はほとんどいません。父についてただけで、フレンジャー家についていた訳ではありません」


「アント将軍は、他の将軍たちを羨ましく思っていた。お家に代々仕えている家臣がいる。しかし、アント将軍は歩兵から1代で総司令にまでなった方である。だから、毎日気が気がなかったのであろう。いつ裏切られるか。だから毎日、功に焦っていた。その恩賞で家臣を従わせていたから」


エイネンは、アントはすごい将軍だったと話している。自分たちみたいに親から引き継いだだけではないからだ。


「コーテン。そんなものは必要ない。そなたの身1つで構わない。我に協力してくれ」


とリンネは頭を下げた。


「おやめくださいリンネ姫! 私なんか。どうか頭をお上げください! 私は、リンネ姫にこの命を捧げまする! 」


と今度はコーテンが頭を下げた。


「ありがとうコーテン」


「一緒に頑張ろうぜぇコーテン」


とバシルは話した。


「まー私はおまえの生意気な所が、昔から鼻につくがなぁ」


とルフィサは意地悪な事を言った後、笑った。


ガーディアンは言葉は発しなかったが、薄っすら、笑みを浮かべた。


「じゃあ、コーテン。是非とも意見を聞かしてほしい」


とレイはコーテンの軍師としての意見を求めた。


知恵を絞り合った2人は、お互いを認めていた。


「レイ・・・・では、私の意見を述べよう」


コーテンはすぐさま、自分の意見を述べ始めた。


「リンネ姫。すぐさま、ガラパゴス城を抑え、ルーレンの東方を、我が手にするべきだと思います」


「ガラパゴスとは、エイネンの所領地」


「はい。私も、早く帰りとうございます」


「リンネ姫。私もコーテンの意見に賛成です。ガラパゴス城を抑え、そしてネオン様にも気を配るべきかと考えます」


「そうだぁ。確か、ここからガラパゴスに行くには、アルツィネの直轄地もある」


「だから、そこも抑えてしまおうと思う」


「では分かった。ガラパゴスを目指して出陣する! 」


「はぁ! 」



リンネたちは、アルタイを出発しようとした。


そこに声をかけてくる者たちがいた。


「リンネ姫」


「誰だぁ! 」


とルフィサが間に入った。なぜなら、身なりが怪しい奴らだからだ。


しかしリンネは誰か分かり、ルフィサを止めた。


「よいルフィサ。海賊のお頭、フッカーだなぁ」


「はい。おひさしゅうございます」


と言って、跪いて挨拶した。


「もし宜しければ、我々が、船でお送りいたしますが」


「ありがたい。しかし、ガラパゴスへ向かうので、陸路で大丈夫だ」


「そうですかぁ。では、我々も、町の人とともに、港湾の復興にいそしみましょう」


「うむ。ありがとうフッカー」


エイネンはびっくりしていた。


「リンネ姫。まさか、海賊まで従わさせてしまうとは」


「たまたま、仲良くなったんだ」


「そうですかぁ・・・・」



リンネたちが、半島を出ると、


「敵襲! 敵襲! 」


「何者だぁ!? 」


とレイが聞くと、


「ネオン様の兵に御座います」


「ネオン様! 」


「その数、約3万! 」


ネオンがまさか出てくるとは。これからアルツィネの直轄地を突破する戦をしなくてはならない。それを早く終わらせないと、カイデンが攻めてくる。だから、戦っている暇はない。


「レイ! 」


「はぁ! リンネ姫」


「私が話そう」


「しかし・・・」


「レイ! ネオン様は味方になるかもしれん」


とコーテンは言いだした。


「なんだとぉ? 」


「もし、我々がガラパゴス城を抑えれば、アルツィネとは分断される。それを恐れての行動かもしれん」


「なるほど。リンネ姫。まず、私が参り、様子を見てからリンネ姫にお伝えいたします」


「分かった」


そう言って、レイは、先頭に躍り出た。



レイが先頭に行くと、そこにネオンが先頭で兵を率いていた。


レイは近づくと、下馬して、ネオンに跪いて話した。


「ネオン様」


そうとう危険な行為ではある。しかし、逆に武門の人間であれば討ちにくい形でもある。


「レイかぁ」


「はい」


「リンネ姫にお伝えしてくれ。ネオンはこれより、リンネ姫にお味方すると」


「はぁ! 」


「そちには、悪い事をしたなぁ。申し訳なかった」


「いえ。大丈夫です。そのように・・・」


「おいてめえ! 」


とレイが話していると、ライファがやって来て、ネオンに文句を言っている。


「おまえ! 何しに来やがったんだぁ! 俺らの事、殺そうとしやがってぇ! 」


レイは思った。こいつ殺す。


「おーおまえは、あの時の奴か。悪かったなぁ! 」


「てめぇ! 悪いと思ったら、馬から降りて、ごめんなさいと・・・」


バコーン


「イテェ! 何するんだよぉ! おまえも言えよ。殺されかけたんだぞぉ! 」


「すみません。こいつただのバカなので。おい! こっちこい! 」


とレイに引張られて、ライファは連れてかれた。


バコーン


「イテェ! 」


「アホかぁおまえはぁ! 今、ネオン様は、味方になりたいと言っているんだぁ。そんな話を、おまえのアホさで不問にする気かぁ! 」


「だってよぉ! あいつ、俺らの事殺そうとしたんだぞぉ! 」


「そうだけど、そんな事は忘れろぉ! この3万の兵がつくか、つかないかで、我々の未来も変わってくるんだぁ! 分かったら、引っ込んでろぉ! 」


とレイは、めちゃくちゃ大きな声で、ライファに言った。


「うるせぇ! 」


とライファは耳を抑えた。



ネオンが味方になった事で、近隣の領主たちは、次々とリンネ寝返ったり、逃亡し始めた。そして気づけは兵は7万にも膨れ上がっていた。アルツィネの直轄地でありながらである。


そんな風に兵をガルバゴスに向けて進んでいると、大男が跪いてい、道を塞いでいた。


「貴様ぁ! 何をしているのだ。道を開けろ! 」


「リンネ姫に、お目どり願いたい」


「ダメだぁダメだぁ! 貴様ような下民がお会いになれる訳がないだろう」


「確かに下民ではあるが、リンネ姫とは、知り合いなのだぁ」


「嘘をつけ! 」


「いかがした? 」


前が進まないので、ルフィサが見に来た。


「その大男が、道を塞いでいまして」


「お・・よぉ! ルフィサ、久しぶりじゃねーかぁ」


「うん?」


とルフィサがその大男の顔を覗き込んだ。


「・・・おまえ、ランバルかぁ! 」


「そうだよぉ! 久しぶりだなぁ! 」


「おまえ、なんでこんな所にいるんだぁ! 」


「あー。ちょっとこっちで、奴隷をやらされていてなぁ。なかなか動けなかったんだけど、なんか、リンネ姫の軍が来るからって、みんな逃げちまってよぉ〜。それで動けるようになったから来たんだよ」


ランバルの足は、鉄球がつけれていた。


「おまえ、そんな重たいもん付けられたのかぁ」


「そうなんだよ。ルフィサ、どうにかならないか? 」


「よし、任せろ」


と言って、ルフィサは馬を降り、剣を抜いて、振りかぶった。


「おいマジかよ! 」


「大丈夫だ。すぐ終わる」


カコーン


ルフィサが剣で、鉄球を斬って外した。


「助かったでぇ。ありがとうなぁルフィサ」



「おひさしゅうございます。リンネ姫」


と跪いてリンネに挨拶するランバル。


「ランバル! 元気だったか? 」


「だれだぁ。この大男」


「こいつも俺らと一緒にオン先生の所で学んでた奴だ」


「そうなんか」


とレイとライファはごにょごにょ話していた。


「はい。ランバルはいつでも元気であります! 」


「ハハハハハ。ランバル、また、肩に乗せてくれ! 」


「なんだ肩に乗せてくれって」


「姫は、2m以上あるランバルの肩に乗るのが、お気に入りなんだぁ」


「なんだそれ! 子供かぁ! 」


「うわー! やっぱり高いなぁ! 」


「はい」


「なんだこれ! 意味が分からん」


「なんかキレてるのか。ライファ」


「キレてねーよぉ」


なんか楽しそうなリンネの顔を見てイライラしていた。

ちなみに、ランバルの身長230cm、ライファは175cmだ。


「ライファ。念のため言っておくけど、リンネ姫に惚れるなよ」


「はぁ! な・・何言ってるんだよぉ! そんな訳ないだろう! 」


「ならいいけど、どんなに想っても、おまえみたいな下民では、どうする事もできんからなぁ」


「え・・」



その頃、カイデンは、ユーウラス川を越えた、アリティア城に入って、作戦を考えなおしていた。理由としては、ネオンの裏切りである。

カイデンの兵は、グライト騎馬隊3万を含めた、10万はいるが、勝てる戦を練る人物でもある。


「いかがしましょう。カイデン将軍」


「ゴディバ、集めれる兵は集めろ! 」


「集めても、グライト騎馬隊のスピードにはついて来れません」


「そもそもグライト騎馬隊には誰もついて来れん。そんな事ではないのだぁ」


「左様でございますが・・・」



リンネ軍は、ガルバゴス城に到着すると、フィルランの軍と戦う予定であったが、ガラパゴス城は空になっていた。


カイデンが呼び寄せたからである。


リンネは、戦わずして、ガルバゴス城を取り戻すことに成功した。


「戦わずして、ガルバゴス城を取り戻せるとは! 」


「よかったなぁ。エイネン」


「はい。リンネ姫。本当にありがとうございます」


「私ではない。皆が頑張ってくれたからだ。ありがとう。礼を言う。なぁレイ! 」


「レイと礼をかけたのか、スベってるぞぉ! 」


「・・・・」


そのライファの一言で全員が凍り付いた。


ガーディアンに至っては、その場から逃げはじめた。


「なぁ〜おい・・・」


「おまえ、早く逃げろ」


とレイがライファに言った。


「え・・・」


「うぬぬぬぬ! ライファ! 誰がスベったじゃ! 」


と言って、リンネは2当流の剣を振り回して、ライファに飛びかかった。


「うわーーー! なんだよぉ! おまえ! 」


と、重力が逆転して、国がひっくり返る・・・なんてことはないが、確かに国はひっくり返り始めている。


リンネはルーレンの3分の1を取り戻していた。

兵力も7万まで膨れ上がっている。



「申し上げます!」


「なんだぁ」


アリティア城のカイデンである。


「フィルラン将軍が到着されました」


「そうかぁ」


とそこへ、フィルランが入ってきた。


「カイデン将軍。ひさしゅうございますなぁ〜。まさか、私の力が必要だとは、別に私はガルバゴス城でリンネ姫と戦ってもよかったのですけどねぇ〜」


「共に戦いましょうぞ。フィルラン将軍が来てくれたおかげで、兵力13万にまで膨れ上がりました。とにかく、長旅で疲れたでしょう。アリティアは、食も豊富に御座います。どうぞお休み下さい」


「ありがとうございますカイデン将軍」



「フィルランは恐らく、カイデンと合流したと思われます」


ガルバゴス城のリンネたちは次なる戦に備えて、会議を開いていた。


玉座にはリンネが座り、一番上座の右にはネオン、左にはエイネン、ネオンの下座にルフィサ、エイネンの下座にはコーテン、その下座には、レイ、ガーディアン、バシル、ランバル、ライファの順に座っていた。


話をレイが進めていた。


「カイデンの軍は、このガルバゴス城目掛けて、進んでくるでしょう。その数は、情報では13万程度との事です」


「なるほど、俺たちは7万程度だったなぁ」


とネオンが話した。


「またもにやったら勝ち目はないでしょう」


とエイネンが話す。


「それに、グライト騎馬隊はこの歴史上、1度も負けた事がない軍隊です」


とルフィサも消極的に話をしていた。


「俺は、昔、隣国から攻められた時、グライト騎馬隊に助けれた」


とネオンはグライト騎馬隊とのエピソードを話し始めた。



4年前。


ネオンの父、ランプは亡くなった。これにより、ルーグラン家の分家はネオンが継ぐ事となった。


その時を狙ったか分からないが、突如、隣国が攻めて来たのである。


相続も終わってない状況下で、ネオンは戦となったのである。


「とにかく、城の防御を固めよぉ! そして、ルド王に援軍を頼むのだぁ! 」


とネオンが指示をだし、2日が過ぎた。


しかし相手方は攻めて来なかった。


「申し上げます」


「カイデン将軍率いる、グライト騎馬隊が相手の横腹をつき、勝利し、相手方軍は、自国へと退いて行きました」


「何? もうカイデン将軍は来たと言うのかぁ! 」


この時、カイデンは、ガルバゴスの近隣いたが、それでも、伝令がつくのに2日、駆けつけるのに、1,2日はかかる


だれも想像していなかった。伝令が向かって、兵が来るのに、3日は早くてもかかるはず。


それを2日で、駆けつけて倒してしまったのである。



「おいおい! みんな弱気すぎないかぁ! 最初からそんな事だったら、勝てねーぞぉ」


と、現在のガルバゴス城の玉座で、ライファは前向きに話した。


「おまえは、素人だから、そう言えるんだぁ」


「なんだと、バンダナ姉ちゃん! 」


「バンダナ姉ちゃん?! 」


とバシルにもあだ名をつけ始めた。


「レイ、コーテン。何か戦術はあるか? 」


とリンネが口を開いた。


「まずは、騎馬隊の足を止める事が、寛容だと思います」


とレイが話す。


「そこで、コーテンと戦術を話し合いましたので、聞いてもらえますかぁ」


そして、地図を広げ、レイは話し出した。


「アリティア城からガルバゴス城に真っ直ぐ行けば、平野や盆地が広がり、騎馬にとっては動きやすい土地となります。おそらく、カイデンはこの道を通るでしょう。しかし、ここを見てください」


とレイはその道から、南東の方をさした。そこにはアングル湿地帯と書かれている。


「アングル湿地帯! 」


とルフィサはそう読んで、言葉に出した。


「そうだぁ。ここにカイデン軍を追い込む。そうすれば、動きを止められよう」


「しかし、馬が足をとられる前に、こっちの兵が足をとられるであろう」


とエイネンは冷静に話した。


「そこで、兵には、靴の下に、長い板を付けさせます。これで沼地の上でも自由に動けます」


「なるほど、雪国で、これをつけて、滑っていた。それよりは3分1ぐらいだが」


50cmぐらいのスキー板のようなものである。


「しかし、そこまでどうやって、カイデン軍を追い込むんだ? 」


とルフィサは当然の質問をした。


それにはコーテンが答えた。


「カイデンに、こっちの陣がある事を見つけさせる。そして、そこに向かってきたら、アングル湿地帯まで逃げておびき寄せる」


「そんなの無理だろう。どう考えても」


ルフィサは話した。ルフィサは知っていた、グライト騎馬隊の速さを。


「私は見た事がある。グライト騎馬隊の速さを。だから、すぐに追いつかれるだろう」


「じゃあ、ダメじゃねーかぁ! なぁ〜・・・・・・」


とライファはルフィサをじっと見た。


「おまえ、あだ名付けられねーなぁ! 」


「だったら付けなくていいよぉ! 」


とルフィサは怒った。


「バシルに逃げてもらう」


「私かぁ! 」


「あー。追いつかれない可能性があるのはバシルぐらいだろう」


「分かった」


「よし。では皆の者、ここに勝てば、王都ルーレンパレスに大きく近づく。頼むぞぉ」


「はい! 」


と全員が返事をした中、バシルだけはうかない顔をしていた。それをレイが見ていた。



「乾杯! 」


アリティア城では、カイデンとフィルランが酒を飲み交わし、食事をしていた。


「アルタイでは、痛い目を見たようですねぇ」


「まさか、城を陥落したと思ったら、アント将軍が逆にやられてしまうとは」


「戦とは、総大将がやられてたら負けと言うのもいかがなものなのでしょう」


「その通りです。カイデン将軍。しかし、兵の指揮が一気に下がりますからねぇ〜。勝敗は決してしまいます」


「私は、アント将軍が総大将だったのが間違いだったと思いますよ」


「そうですか? 」


「私は、フィルラン将軍が、総大将をやれるべきだと思います」


「いえいえ、私なんてそんなぁ〜」


「いえ。私はそう思いますので。なので、次の戦の総大将は、フィルラン将軍、お願いしますよ」


「いえいえ、そんなぁ〜。それはカイデン将軍がやられるべきですよ」


「ダメなんですよ。私は責任感というものがないので」


「そんな事はないでしょう」


「それに、私は戦場で自由に動きたいのです。だから、お願いできますか。フィルラン将軍」


と、少しぎっと睨むような眼で、フィルランを見た。


フィルランはその勢いに負けて、総大将をする事となった。



そして数日後。


「では、ガルバゴス城へ向かう! 狙うはリンネ姫の首1つ! 行くぞぉ! 」


「おう! 」


とフィルランの声が、13万の兵を鼓舞し、ガルバゴス城目指して出発した。


カイデンは先頭で出て行った。



それと同じころ、リンネたちもガルバゴス城を出発していた。


いざ決戦の舞台へ。



フィルラン軍の先頭を行く、カイデン率いるグライト騎馬隊は、丘の上にあるルーグランの旗を見つけたので、それをカイデンに報告した。


「カイデン将軍! 」


「どうしたぁ。リニア」


「前方に敵の陣を発見しました」


「でかしたぞぉリニア! フィルラン将軍に伝えよ! これより、あの陣を攻める! 」


「おおう! 」



丘の上ではバシルが、動き出したグライト騎馬隊を見ていた。


「来たか・・・」


ダダダダダダダダダダダダダダダ


「想像よりも速い! 全員、陣をたたみ、アングル湿地帯へと向かう! 」


「おう! 」


バシルの声で、きれいに鎧を着た、山賊たちが、走り始めた。


ダダダダダダダダダダダダダダダ


「速い・・・・」


ガコーン


「うわー! 」


バシル軍の後ろの方は、カイデンに討ちとられている。


「おまえら、俺に続け! 」


「おおう! 」


とカイデンが呼応すると、グライト騎馬隊の兵士たちが、どんどんとバシル軍を討ちとっていく。


「お頭! 後ろの方がやられています! 」


「とにかく、走れ! もっと飛ばせぇ! 」


「これ以上は無理です! 」


バシルも限界であった。しかしそれよりもグライト騎馬隊は速い。しかも槍を振り回す余裕もある。

これでは、アングル湿地帯につくまでに全滅する。


「ワワチ! おまえが先頭で全員を牽引しろぉ! 」


「は? 」


と言って、バシルは後方に反転した。


「お頭! 」


バシルはグライト騎馬隊に突っ込み斬りつけた。


ズサ


ズバーン


「なんだぁ! あのチビ! 強いぞぉ! 」


バシルはまた反転して、グライト騎馬隊の横に付いて、戦い始めた。

高速での戦闘である。


「すげぇーお頭に続けぇ! 」


とバシルの奮闘にバシル軍の士気も高まった。


「あのチビ。すげー馬の扱いしてやがるぅ! 是非、うちに欲しいなぁ! 」


とカイデンはそう叫んでいる。まさか、自分の姪っ子だとは知らない。


しかしバシルの奮闘も虚しく、どんどん削られていく数が多いのは、バシル軍の方である。


「まずい。このままでは全滅する・・・」


ヒュルヒュルヒュルヒュル


その時、たくさんの矢が飛んできて、グライト騎馬隊に刺さった。


グサ


「うおー」


どんどんとグライト騎馬隊が倒れ行く。


「止まれぇ! 」


危険を感じたカイデンは、兵を止めた。


「一旦退くぞぉ! 」


カイデンはこの時、気づいた。その先にたくさんの兵が待っている事を。


その通りである。この先、斜面の森にはライファが軍を率いて待っていた。


カイデンは無理をして攻めては来なかった。これがグライト騎馬隊なのかもしれません。


だから負け知らずなのかもしれない。



「すまない。ガーディアン、ライファ。私のせいで、作戦は失敗だ」


「まだ飽きられるなよぉ! バンダナ姉ちゃん! 」


「だから、バンダナ姉ちゃんってなんだぁ! 」


「失敗でもない。見ろ! ここはもうアングル湿地帯だぁ。カイデン軍は、すぐにここに攻めてくるだろう」


作戦ではそのまま、アングル湿地帯に入って、動きを止め、ルフィサやネオンの軍で潰す予定であったが、カイデンは退いた為、作戦は失敗だった。

しかし、逆にリンネ軍がどこにいるかは、カイデンに知らせる事はできた。だから、ここに攻めてくると思われる。



ガーディアンの言う通りだった。


アングル湿地帯で両者が迎いあった。


フィルランの本陣前にカイデンが率いるグライト騎馬隊が布陣した。


リンネがレイとコーテンともに本陣を作り、左にネオン、ガーディアン。バシルは右側に布陣し、ライファも右側にいた。ルフィサとランバルは本陣の前に布陣した。



フィルランは手を挙げ、


「かかれ! 」


一気に飛び出したが、ほとんどの兵が湿地に足をとられた。


「押し出せ! 」


というルフィサ、バシル、ネオンの声の元、一気に押し出した。あの靴により、リンネ側は前へとスムーズに出て行き、相手兵を討ち取った。


しかし、


左のネオン軍が崩れた。そこにはグライト騎馬隊が攻めて来たからだ。


「なぜだぁ! そんなに動けるんだぁ! 」


グライト騎馬隊は湿地なんて関係なかった。



「グライト騎馬隊は湿地でも動ける? 」


戦の出陣前、バシルはレイと廊下で話していた。


「水の上で、どうやって泳ぐ? 」


「それは水をかいて、泳ぐだろう」


「それと同じで、足を速く動かすことで、沼をかき分けて進む。それで沈んでいかない」


「そんな事ができるのかバシル? 」


「恐らくできる。私たちも、沼地で馬を走らしたことはないが・・・」


「そんな事があるのか・・・」


「おい! レイ! バンダナ姉ちゃん! 早くしろぉ! もう出発だぁ! 」


と、出て来ないレイたちをライファが呼びに来た。その為、この論理はこれ以上される事はなかった。



「退け! 退け! 」


ネオンは予想外のグライト騎馬隊のスピードに危険を感じ、退いた。


「よしぃ! 押し出せ! 」


カイデンの掛け声により、グライト騎馬隊は、そのままルフィサ軍に襲い掛かった。


ルフィサもこんなに早く切り崩されるとは思ってもいなかったので、対応が遅れた。


その為、穴が生まれ、ルフィサ軍の真ん中に開いた道を通り、リンネの本陣へと突き進んでいった


「まずいぞぉ! レイ! 」


「こんなに早くやられるとは・・・・退け! 全軍撤退! 」


リンネ軍は総崩れとなり、軍が散り散りとなってしまった。


レイとコーテンはリンネを守り、そのまま逃走した。


その先は、両側に小高い丘に囲まれた一本道となっていた。


「追え! 追ってリンネ姫の首をとれ! 」


カイデンの声が響き、グライト騎馬隊はリンネを狙った。


万事休す。もう終わりだった。


レイは悔やんだ。バシルの訴えをもっとしっかり考えて対応しておけばと思った。


いやそうではない。


バババババ


「待て! 止まれ! どういう事だぁ・・・」


カイデンは両側の小高い丘を見た。そこに散り散りになったはずの、ネオンやガーディアン、バシルにランバル、ルフィサ、ライファの軍がいた。


「かかれ! 」


カイデンはレイとコーテンの策にかかった。


その丘を駆け下ったリンネ軍はグライト騎馬隊に飛び掛かった。


完全に横腹をつかれたグライト騎馬隊はそう崩れとなった。


「死ねぇ! カイデン! 」


ライファは馬からジャンプした。


カイデンはそのライファを見た。ライファは太陽の光を背に受けて、まぶしく、カイデンは目をつぶった。


ズバーン


プシュー


カイデンの頭にライファの剣で切り裂いた。


カイデンが目を開けると、景色が右へと傾いていく。


バターン


「討ち取ったぞぉ! 」


ライファはカイデンを討ち取った。


「よし勝どきをあげ・・・・」


「まだだぁ! 」


とライファが勝どきを上げようとしたら、それをレイが止めた。


「なんでぇ! 」


「まだ、フィルランの本陣が残っている! ひるむなぁ! フィルランの本陣にかかれぇ! 」


リンネ軍はそのまま、アングル湿地帯へと押し返し、フィルランの本陣へと飛び掛かって行った。


フィルランは、カイデンがやられたこと、沼地に足がとられていることなど、色々な事が重なり、パニックに落ちていた。


「フィルラン将軍! 敵襲です! 」


「なんだとぉ! 」


「フィルラン将軍 ご指示を! 」


「指示?・・・・た・・・戦え! 」


「いかにして? 」


「いかに・・・・・それは・・・」


グサー


「うわー」


ヒュー


ズサーン


「うわー」


どんどんとリンネ軍はフィルランの本陣へと迫る。もう勝負はついていた。


「ひひひ退け! 退け! 」


フィルランはそのまま王都ルーレンパレスまで逃げかえった。


レイと天才コーテンの戦略が見事に当たり、アングル湿地帯の戦いはリンネ軍の勝利に終わった。




第10章 いざ決戦 王都ルーレンパレス



リンネ軍はそのまま進み、アリティア城に入城した。


アリティア城は川沿いにあるお城で、絶景地の1つとして人々に愛されている。

城内はたくさんの兵が収容できる大広間もある。

また、ユーウラス川が通って、山から海からたくさん食物も運ばれてくる栄えた都市である。



玉座にはリンネが座り、横にはエイネンがいた。


「リンネ姫。お味方したいと、領主たちがまた来ております」


「通せ」


リンネの元には、ユーウラス川から東側の領主たちが、次々とアルツィネからリンネにのりかえてきていた。


「お初にお目にかかります。リンネ姫。私はこれより南東の町、ハルバルの領主、クリトと申します。是非ともリンネ姫にお味方したいと思っております」


「うむ。宜しく頼む」


「はぁ! 」



高台からは、川の向こう側が見える。そこには、アルツィネの兵士がこっちを監視していた。

それをレイと、コーテンは見つめていた。


「コーテン。ここでいかに戦う? 」


「アルツィネは、この川で戦うつもりには見えないなぁ」


「確かに、あれは戦をする兵ではない」


「であれば、王都ルーレンパレスで籠城する構えか」


「恐らく」


「ユーウラス川で、オン先生みたいな戦をしてみたいが」


「嵐の中での戦い」


「完全に戦局不利を一気に覆した」



50年前、ユーウラス川。


バルトの勢力は倍の20万。リンネの祖父ロイドの兵力は10万程度だった。


川沿いで何度も小競り合いを繰り返し、それで押されていたのはロイド側である。


「オン! 」


「はぁ! 」


「なんとか押し返せぬか。川を来られたら、う終わりだぁ」


「ロイド王。私に考えがあります」



「うおおおお! 」


バコーン 


「アント! あまり、押し出しすぎるなぁ! 」


「しかし、ボルト伍長。完全に負けております。無理をせねば、勝てません」


まだ、13歳の若者は、アルタイでリンネたちと攻防を繰り返した、将軍アントである。彼は、名門育ちではなく、当時は、1番下の歩兵だった。


ダダダダダダダダダダ


「グライト騎馬隊だぁ! 」


ズサーン


「退け! 退け! 」


グライト騎馬隊の登場で相手側は、兵を退いて行った。


グライト騎馬隊を率いるは、カイデンの父、将軍リグレンである。



オンはユーウラス川の川上にある、イグリアス川と交わる町、メグロスに来ていた。


そこでは、たくさん造船所があり、たくさんの船を制作した。


「所長。船の完成はまだかぁ? 」


「おー。軍師様。後、1カ月もあれば完成できるだろう」


「1週間で作れんかぁ? 」


「1週間!? そりゃー無理だぁ! 」


「無理ではない。するのじゃ。ロイド王の命運がそなたらにかかっているのだぞぉ」


「うん・・・・分かった」


オンには、この1週間に意味があった。



「明日は、総攻めにかかるぅ! 」


ロイドは総攻めを決意した。



次の日は風の強い日だった。川は大荒れをしていた。


「こんな日に総攻めかよ! 」


「配置につけ! 」


大雨の中、伝令の馬が走り、指示をだした。


だんだん風は強くなっていく。



バルト王は、川向うにあるマガロン城で、くつろいでいた。


「嵐がやめば、戦を再開する」


「はぁ! 」



風は強くなり、雨も強くなり大嵐となった。すぐ近くを見る事も出来ないぐらい視界は悪かった。


その時だった。川上からすごいスピードで船が10隻下って来た。


船はすぐにでも倒れてもおかしくない程の大荒れである。


その船についたマークは、ルーグラン家の家紋であった。


あのオンが用意した船だ。


こんな大嵐でも海の男たちは見事な舵をきっていた。


グライト騎馬隊も船から降りて総攻撃をかけた。


船はこちら側岸にも来て、そこには船の道ができていて、アントも勢いよく走って行った。


「後れをとってたまるかぁ! 」


バルト王はその奇襲にびっくりしていた。


「守れ! 絶対に城まで通すなぁ! 」


嵐の中、大きな戦へと発展していった。


「バルト王! もうこれ以上は無理です。どうかお逃げください! 」


「分かった! 」


バルト王は逃げ出した。


城を出て、馬に乗ろうとした瞬間だった。


「王だとお見受けする! 死ねぇ! 」


そこにアントが走って来た。


馬に乗ろうとしたが、びっくりして立ち止まっているバルト王を斬り裂いた。


ズバーン


アントはバルト王の首を掲げた。


「討ち取ったぞぉ! 」



「でも、この川での戦いはないだろう」


現在のアリティア城でレイとコーテンは話している。そして答えは1つだ。


「王都ルーレンパレスを奪還しにいこう」


「そうだぁ」



「リンネ姫。ここには15万の兵が集まってきました。もう十分です。目指しましょう。王都ルーレンパレスを」


「そうかぁレイ。ついに時は来たかぁ! 」


「はい! 」


「よっしゃ行こうぜぇ! あのオッサンをぶっ潰す! 」


とライファも鼓舞した。


「では、行こう! いざ王都ルーレンパレス! 」


「おおう! 」



その日の夜。お城の屋上にリンネは1人で星を見ていた。


「星が綺麗だわぁじゃねーよぉ! 」


「ライファか」


「いよいよだなぁ。あのムカつくおっさんにやり返しができるなぁ」


「だが、王都ルーレンパレスは祖父とオンじいが造った、難攻不落の城でもある。そう簡単にはいかないだろう」


「でも大丈夫だよ」


「なんで、そう簡単な事が言える? 」


「おまえが総大将やってるからだぁ。おまえは人々に愛されてる。俺もなぁ! 」


「え! 」


と言って、2人は見つめ合い、気まずくなって目をそらした。


「なぁ〜。おまえ、王都を取り戻したら、結婚とかするのかぁ? 」


「まだ考えてはいないが、ルーグランの血は絶やしてはならないから、いずれ、そうなるだろう・・・」


「それって! 」


「うん? 」


「いや・・・なんでもない・・・」


とライファは言いかけてやめた。レイに言われた事が、頭に響いたからだ。


(どんなに想っても、おまえみたいな下民では、どうする事もできんからなぁ)


そんなライファの横顔をリンネは愛おしく見つめた。どうする事もできない感情を押し殺して。



次の日。アリティア城の大広間には15万の兵が集まっていた。


城壁の上にはレイが立った。


「皆の者! 注目! 今からリンネ姫より、お言葉がある」


リンネが白い色の鎧に身を包み、15万の兵の前に出た。


「皆にはいつも苦労かけて、痛み入る。ありがとう」


とリンネは15万の兵に頭を下げた。


まさかの行動に兵はざわついた。


「上の人が頭下げるなんて事あるんだなぁ〜」


「ルド王もそうだっただろう」


「リンネ姫は一味違う方なんだ」


リンネは顔を上げ、そこからは総大将らしくキリッとした表情になって声を上げた。


「我はこれより王都ルーレンパレスを奪還する! 」


「うおおおお! 」


15万の兵が盛り上がり、また静かになった。


「逆賊アルツイネは、父ルドの恩恵を無にし反逆した。それにより、しなくてもいい戦をし、流さなくもいい血を流し、人々を奴隷化した。これは大罪以上の大罪に値する。我、エレーン家第51代当主リンネ・フランテ・ルーグランは、逆賊アルツイネを自らの手で成敗いたす。皆の者我に続けぇ! 」


とリンネは剣を抜き、天にかざした。


「うおおお! リンネ! リンネ! リンネ! リンネ! リンネ! リンネ! 」


15万の兵は一斉にリンネコールをした。



リンネ15万の兵はアリティア城を出発し、いざ王都ルーレンパレスを目指した。


父ルドの悔しさを、今晴らす為に。



「申し上げます! リンネ姫の軍がアリティア城を出て、向かっております」


「そうかぁ。いよいよ来よったかぁ! サーベル! 」


「はぁ! 」


まさか、サーベルがここいるとは。リンネの北斗七星の家臣の1人はアルツィネに従っていた。


「サーベルいかがする? 」


「変わりません。この王都ルーレンパレスの中にいれば、負ける事はありません」


「そうか」



リンネの15万の兵は、王都ルーレンパレスを囲んだ。


リンネは、ナビル平野を一望できる、王都ルーレンパレスから、南東にある、ナエディア山に布陣した。


「まずは、補給をたて! そして、ネズミ1つ、出入りされるなぁ! 」


とレイは兵たちに指示をだしていた。


しかし、レイは焦っていた。これといって、王都ルーレンパレスを奪還できる策はなかったからだ。それは、コーテンも一緒だった。


これは、アルツィネとの戦いに見えるが、レイとコーテンにとっては、師匠であるオンとの戦いでもあった。



50年前。


「オン! 」


「はぁ! 」


「ここに私の理想郷を気づきたい」


「はい。ロイド王。私にお任せくださいませ」


オンは城づくり名人としても有名であった。


それは、防御としても、人々が安心して暮らせる場所としてもである。



「よいか。城壁は70mとする」


「そんなに高くですかぁ? 」


「そうじゃ。そして、周りには50mの毛抜堀を設ける。深さも30mぐらいは掘れ! 」



オンは、絶対に攻め落とせない城を想像した。


攻城塔は、最大50mぐらいが限度だった。その為、その上を行き、しかも堀も造る程だった。


毛抜掘とは、底を丸くしたもので、それで橋などを建てにくくした。


よくオンは言っていた。


「わしは、心配性じゃからのう」


しかし、その心配性はそれだけにとどまらなかった。


「堀と城壁は同じものを2重にしろぉ! そして、町は迷路のように張り巡らす」


オンの町の迷路は複雑極まりないものとなっていた。また、道幅もだんだんと狭くなるように作り、狭くなったところで突き当りとなる。その曲がった所に、兵が待機できるようになっている。またその突き当りの反対側の角にも、兵の待機場所があり、その周りの建物の上には、狭間や石落としを設けた。

なので、まっすぐ走って行って、突き当りになった所で、伏兵に襲われる構造になっている。


また、城の周りにも同じような堀と城壁を設けた。


そして、王都ルーレンパレスの最大の特徴は、エンザル山からの湧水が出る事。それが地下に走ってる為、水は豊富にあり、氾濫もしない。

これにより、作物も城内で育ち、籠城戦にも強い。

まさに攻め手がないお城である。


しかし、それでもオンには1つ気になる事があった。

それは、エンザル山から東西に流れる川である。

それを、せき止めて、ナビル平野に流される事である。それで王都ルーレンパレスは水の中に沈没してしまう。


「王都ルーレンパレスの北に、大きな崖を設けよ! 」


この崖は、感のいい読者は気づいただろう。あの、リンネたちが子供の頃に競走した崖である。あのようなものをたくさん設けてあるのである。


これにより、建国までに2年ぐらいの歳月がかかったのである。



「レイ、コーテン。どうすればよい? 」


現在のナエディア山では作成会議が行われていた。


「・・・・」


「・・・・」


しかし、レイもコーテンも答える事ができなかった。


「おい! どうしたんだよレイ! おまえも。天才なんだろう! 」


「うるせぇ! バカがしゃしゃり出てくるなぁ! 」


「なんだとぉ! 女男! 」


ガコーン


「イテェ! 」


「てめえ! また、女男って言いやがたなぁ! 」


「おい! 」


「あーすみません。リンネ姫。何も、いい策が思いつきません」


「私もです。すみません」


「ここに来て、2人とも策がないというのかぁ・・・」


とリンネは残念がった。


「すみませんリンネ姫! 」


とレイとコーテンは土下座して謝った。


「であれば、真正面から、攻めるのみ! 」


「で、それで真正面になるんだよぉ! どこまでまっすぐやねん! 」


「ダメかぁライファ? 」


「い・・・いや。それで行こぜぇ! 全員で表門を開門させるぞぉ! 」


「って、おまえが仕切りるなぁ! 」


「いいだろうがぁ! 鬼顔美人姉ちゃん! 」


とルフィサの事を言った。


「てめぇ! 私を侮辱するとは、いい度胸だぁ! 覚悟せよぉ! 」


と剣を抜いて、ライファに飛び掛かった。


「うわぁ! 冗談だろうがぁ! 」


「冗談で済むかぁ! 」


とライファはルフィサに追い回されている。



「かかれぇ! 」


とリンネの号令で、ライファ軍とバシル軍を先頭に表門目指して攻撃をはかった。


ガーディアン軍は弓で、堀を越える、ロープをかけた。


それにライファ軍とバシル軍はそれで綱渡りして攻撃をかけようとしたが、すぐさま、相手の弓に襲われ、どんどん堀へと落ちていく。


「絶対に登らせるなぁ! 」


アルツィネ軍の総指揮はフィルランが行っている。


工事隊が板を持って、そのロープに板を固定した、渡れるようにした。


それで、何とか越え、ロープを上に伸ばそうとしたが、届かない。


ある者は、城壁を登ろうとしたが、滑って登る事はできなかった。


次は、小舟を持ち込み、盾で防ぎ、弓矢隊を全身される。


渡った所で、弓矢でロープを上に討ち、城壁に引っかけた。


これが大量に引っかかり、それで登ろうとしたが、70m登るには時間がかかる為、その前に、ロープをすべて切られた。


「退け! 退け! 」


とバシルは叫ぶだけだった。



「フィルラン将軍! 見事であるぞぉ! 」


「ありがとうございます。アルツィネ王」


「ふん! リンネ姫。いつまで頑張れるかなぁ」



次の日。


リンネは、正面からの攻撃をやめ、リンネとレイとライファが、最初に王都ルーレンパレスから逃げた道である、両脇にある狭い道から攻める事にした。ここは、堀がない為、登るだけでいい。


しかし、北方向に上がって行く道の為、東側、逆側は西側に城壁がある。その為、横腹を城壁の兵から弓を射られる恰好の標的となる為、それによってたくさん討たれた。


なんとか、上がり、弓矢を射って、ロープをかけ、登ろうとしたが、それもすべてロープを切られて、失敗に終わった。



リンネ軍は、この2日だけで、実に1万人ぐらいの兵を亡くした。


その為、リンネに対する不満も急増した。


ある兵士たちはこのように話している。


「おい! このままだと、俺らも死ぬのは時間の問題だぞぉ! 」


「あの姫、無能すぎるだろう。ただがむしゃらに攻めてるだけだろう」


「本当に、神に選ばれた王族なんかぁ! そもそも、神話なんて当てにならないだろう」


そこに、ルフィサが通った。


「貴様、今なんて言ったぁ! 」


とルフィサは兵の胸ぐらをつかんで、殴り飛ばした。


それを見た兵士は、


「こんなのやってられるかぁ! 」


と逃げ出した。


「貴様ら待てぇ! 逃げた奴は、即刻首をはねる! 」


とルフィサが兵士たちを追い回した。


そんな事もあり、戦時逃亡や、寝返りも始まっていた。



「申し上げます。兵が裏切りを始めています」


「おのれぇまたかぁ! 裏切り者は即刻首をはねよぉ! 」


とルフィサが叫ぶが、


「待てぇ! その者たちの意見を聞きたい。ここに呼んでくれないかぁ」


とリンネは話し合いを求めた。


しかし、その兵士たちはリンネの元には来なかった。殺されにいくようなものだと思ったからだ。


リンネは悩んだ。打つ手がない事に。


「ううううう。どうしたらよい。レイはいかがした? 」


「そういえばいねぇーなぁ。何やってるんだぁあいつは」



レイはコーテンと数兵を率いて、エンザル山の麓に来ていた。


そこには、いくつもの洞窟がある。


「この洞窟が、王都ルーレンパレスに繋がっているはずだ」


「なんとかして、兵が通れる道を見つけねばならん。全員で手分けして捜し、地図を作る」


「はぁ! 」


エンザル山の湧水が地下を通って王都ルーレンパレスに流れている。ということは、繋がっているはずである。ただ、兵がたくさん通れなくてはならない。レイとコーテンはその調査を始めた。


しかし、レイとコーテンには1つの疑問がある。もしそんな道があるのなら、オンは見逃すはずがないという事である。それでも打開策の為には、少ない可能性にもかける必要があった。



「進め! 」


ルフィサの合図の元、王都ルーレンパレスの前には、35mぐらいの橋を兵が運んでいた。


それを、堀へとかけた。


その間も弓矢が飛んできて、何人かは倒れた。


そして、橋を架けると、そこに50mの攻城塔が攻りだして来た。


攻城塔の、上には、ルフィサやバシル、ネオン、ライファ、ガーディアン、エイネンもいた。


しかし、うまくはいかない。橋もうまくかけれなかったり、また攻城塔があっても、その先はロープや梯子をかける必要がある。


カタパルトを屈指して、城壁の兵を攻撃しているが、リンネ軍はなかなか攻めれない。


その時、ライファが1番で城壁の上に到着した。


「1番乗り! 」


しかし次から次へと兵が襲ってくる。


「ライファ待っているろぉ! 今行く! 」


とバシルがロープを登るが、


「そうはさせるかぁ! 」


バシルのロープは切られ、60mぐらいを落下した。


「やばい死ぬ! 」


バシルは、手をのばし、攻城塔に掴まった。


バシルの運動神経があるからできる事だ。


状況はリンネ側にはよく進まない。


火矢、投石もたくさん飛んで来る。


ライファも城壁の上で1人相撲であり、追い込まれている。


「ダメだぁ、もたねぇ。おい! 鬼顔美人姉ちゃん早くしろぉ! 」


とライファに言われ、ロープで登って来ているルフィサに聞こえた為、


「誰が鬼顔だぁ! 」


ルフィサはロープを登り切り、戦い始めた。


「うらぉ! 」


ブーン


「うわぁ! 」


ドーン


ルフィサが振り回した剣が何人を斬りつけた。


「おー」


「後で、おまえもぶった切るからなぁ! 」


「こわぁー! 」


しかし、後が続かない。


その時、


ヒュー


ズザ


「うわー! 」


ネオンが乗っている攻城塔が倒れて行った。


「ネオン様! 」


ドカーン


ネオンや、なん100人の兵が堀へと落ちて行った。


「ネオン様を探せぇ! 」


次は、


ドーン


「うわー! 」


投石がエイネンに当たり、そのまま後ろに70mぐらいふっ飛ばされた。


バコーン


「エイネン様! 」


エイネンは即死だった。


「おい! 衛生兵! 」


しかし、エイネンは息がなかった。



「退け! 退け! 」


この日の戦は、城壁の上にはたどり着いたが、大人数がたどり着かなかったので、制圧までは至らなかった。


「フハハハハハハハ! 苦しめぇリンネ姫! 自分のおじいさんに苦しめられるがよい! 」


アルツィネは勝ち誇るにように大笑いした。



「エイネン! ネオン! 」


リンネは、膝をついて悲しんだ。


エイネンとネオンは、この日戦死した。


それだけでなく、兵もまた1万近く亡くし、ライファやバシル、ルフィサもケガを負った。


「皆、すまない。すべては私のせいだぁ! 」


リンネは涙を流して謝った。


「いえ! 我々の力がないばかりに、攻め落とせず、すみません」


とルフィサは頭を下げて謝った。


「そうだよぉ! おまえのせいだけじゃねー」


とライファもリンネを気遣った。



「おい! ライファ! レイはどこに行った? 」


とバシルはライファに尋ねた。


「知らねえよー! 」



レイとコーテンは洞窟探検の途中だった。


「おい! レイ。もう王都ルーレンパレスの中には来ているよなぁ」


「あー。後はどこから上がれるかだぁ・・・ただ・・・」


「確かに、こんなに狭くては兵はたくさん通れない」


ガンガン


とコーテンは壁を叩いた。


「こんなに固くては、掘るにも掘れん」


「レイ様! 」


その時、前から兵が走って来た。


「いかがした?! 」


「前から、津波がぁ! 」


「津波? 」


ザーーーー


「まずい! 逃げるぞぉレイ! 」


水がたくさん襲って来た。


レイたちは逃げ出した。



ナビル平野のある洞窟の穴からレイは頭を出した。


「大丈夫かぁ! コーテン! 」


とレイは、コーテンをすくいあげた。


「大丈夫だぁ! すまないレイ」



王都ルーレンパレスではサーベルが笑っていた。


「サーベル様。水を逆流させました」


「ご苦労」


「はぁ! 」


「レイ、コーテン。おまえらはオン先生の教えを忘れたか。この城は攻め所がないのだ。フフフ・・ハハハハハハハハハ! 」



「もう俺は限界だぁ! 」


「俺もだぁ! 」


「リバ様! 」


「よし、国に帰ろう! 」



「おいあの姫の事を、みんながなんて言ってるから知ってるかぁ? 」


「あー知ってるよ。ラストプリンセスだろぉ! 」


「あーもう、終わる姫だ! 」


こんな感じで、リンネへの不満を持ち、領主たちも、次々と所領へと帰っていた。



「おい! レイ! 」


「ライファか・・・」


レイとコーテンが本陣に戻ってきた。


「おまえどこ行ってたんだよぉ! こっちは大変だったんだぞぉ! 」


「何かあったのかぁ! リンネ姫はどちらに? 」



「リンネ姫! 」


とレイは、リンネのテントを訪ねた。


「レイ! どこに行っていた? 」


「すみません。他の攻め口を探していまして」


「私はどうしたらいい。たくさんの兵を亡くし、エイネンもネオンも亡くした」


「エイネン殿とネオン様がぁ! 」


「私は、無能な当主である」


「そんな事はありません! 」


「みんなが私をラストプリンセス、終わる姫だと言っている。もう終わりだぁ! 」


「姫はラストプリンセスではありません! ルーグラン家は神に選ばれし王族。それを証明するのです! 」


「神に選ばれし王族だと証明する・・・・いかにして? 」


「神話に寄れば、ルーグラン王は、エンゼル山の頂上にエンゼルソードを刺し、ナビル平野の地底湖にナビル剣を沈めたと言います。それがある事を証明するのです! 」


「しかし、未だにエンゼル山の頂上に登頂したものはいない。それに、地底湖なんて見つかってはおらん」


「それをするしかありません。王族はルーグラン家しかいない事を証明すれば、リンネ姫にお味方します。ライファ! そこにいるんだろう! 」


「おう! 」


とライファはテントの入り口に顔を出した。


「おまえは、姫とバシルたちと、エンゼル山を登れぇ! 」


「分かった! 」


「私は、コーテンとともに、地底湖を探します」


「すまないレイ」


「いえ」




第11章 伝説のエンゼルソードとナビル剣



リンネとライファ、バシルに、ワワチはエンゼル山を登山していた。


登山と言っても、バシルとワワチが操作する馬に乗って登って行った。


しかしアルデン山脈の倍の高さもある山。そう簡単には登れない。



レイとコーテンはダウジングのスペシャリストである、ガラスという男にナビル平野をダウジングさせていた。


「しかし、こんなのキリがないと思いますが。この平野はどれぐらい広いんですか? 」


「50万平方メートルぐらいかなぁ〜」


とレイはさらっと答えた。


「そんなの無理ですよぉ! どれくらいかかるんですから! 」


「だったら早くやる方法を考えろ! どんだけ金を払ってると思ってるんだぁ! 」


とレイに怒られた。


「はい! すいません! 」


ガラスはレイの恐ろしさに、黙ってやることにした。


「しかし、こんな事をずっとやっている訳にはいかないなぁコーテン。なんかいい方法はないものかぁ・・・」


「神話って、詳しくはどんな話だっけ・・・」


「そういえば・・・・詳しく調べれば、ちゃんとした場所が分かるのではないかぁ! 」


「そうだなぁ・・・・でも、ほとんどの歴史学者はアルツィネに殺されてしまった」



「もうどれだけ登ったんだぁ? 」


エンゼル山では、リンネたちが馬に揺られていた。


「700mぐらいかぁ」


「まだそんなもんかぁ! 馬だから早いと思ったのに」


「エンゼル山は急な斜面ばかりだ。だから、登れる道を選んでいる。もしあれなら、この斜面を登るかぁ? その方が距離としては近いぞぉ」


それはそそり立つ壁だ。多分80度ぐらいはある。見た目でいえば90度だ。


「このまま、馬で行こう! 」


「おまえ、ビビっただろう」


「な・・何言ってるんだよワワチ! 」


ビビッている。本当は。



レイとコーテンはある老人の元に来ていた。


神話を調べている歴史学者は、アルツィネの処刑され残っていない。だから、こういう話を知っている人を訪ねるしかない。


レイとコーテンは、ナビル平野から3里ほど行った祠にいるマウイ老子を訪ねた。


マウイ老子は今もずっとこの場所で、神話の神に祈り続けている。


「マウイ老子。お久しぶりで御座います。レイです」


「リンネ姫とご無事に来なされたそうだのう。リンネ姫にもお伝えなされ。1度、お祈りに参られよと」


「もちろん。姫は、毎年の祝祭に日に、定刻通り、お祈り申し上げます」


「して、今回はいかがなされた? 」


「マウイ老子。ナビル剣とは、どこに御座いますか? 」

 

「ついにルーグラン家が、ナビル剣を求めれたか? 」


「はい」


「2万年もの昔、神に選ばれし王族ルーグラン王が使いし剣。エンゼルソードとナビル剣。これを使うは、神の力をお借りするという事。 リンネ姫にその覚悟が召されるというならば申そう。いにしえより伝わりし、ナビル剣の場所を」


「お願い致します! 国割れてはなりません。今こそ、ルーグランの元に人々が1つになるべき時と思います」


「ならば申そう。ナビル剣が沈む地底湖に行くには・・・・・

 

 潮がなくなりし時、大蛇が見わす大穴

人魚が涙するハープの音が鳴り響く場所にこぼれる一滴の水が示す白の世界

咲き乱れしプリムラの花の結晶が溶ける時、あなたを大地は迎えいれるであろう

その先に広がる蒼い泉の中に見える白い光こそが、あなたに力を与えるだろう


である」


「ありがとうございます」


とレイとコーテンは祠を後にした。



「しかし、潮がなくなりし時、大蛇が見わす大穴とはどこの事だろう」


「レイ。潮は海だ」


「後、大蛇とは、ナビル平野の南東にあるスネーク半島の事か」


スネーク半島とは、ナビル平野の南東に突き出て、ぐるっと180度まがった半島の形から、スネーク半島と呼ばれている。


「多分、ここの先端の海に大穴があるんじゃないのか」


「俺もそう思う」



その頃、ルフィサは戦を進めていた。


しかし、している事は、城を囲み、ねずみ1匹逃がさないように見張っている事である。


ルフィサは、1日、城を囲んでいるだけで、兵に報酬を与えた。また裏切りを見つけたものには、臨時の報酬も与えた。


こうする事で、裏切りの取り締まりを行っていた。



リンネたちは、馬を降りて、空を見上げていた。


「マジぇこれを登るのかぁ! 」


「それしかない。これ以上先は馬では行けない」


「でも、すげーまだ高いぞぉ」


「おそらく、ざっと3000mはあるだろう」


「そんなにかよぉ! 」


「でも、半分よりは上に来た」


「・・・・」


リンネは頭を押さえていた。


「姫。いかがしました? 」


「大事ない」


「本当に、大丈夫か? リンネ」


「だから、大丈夫だと言っている」


「もしかして、頭が痛いのですか? 」


「大丈夫だと。よし登るぞぉバシル」


しかし、バシルはリンネの心配した。


「高山病の症状が出ております。危険です。ワワチ。薬草を作れ! 」


「分かりました」


「大丈夫と言っている! 」


しかし、足を引っ張るわけにはいかないと強がっている。


「無理するなよぉ! もしあれだったら、俺がとりに行ってくるかよぉ! 」


「ダメだそれでは」


と、バシルが言葉を挟んだ。


「ダメなのかぁ? 」


「おまえは、何も知らないんだなぁ! 」


「もしそれでよければ、レイが姫を行かせるようにはしないだろう。エンゼルソードは、伝説では、ルーグラン家の血を継ぐ者しか、抜けないなのだ」


「そうなのかよぉ! 」


「お頭。薬草が出来ました」


「リンネ姫。苦いですが、こちらをお飲みください。楽になりますので」


「すまないバシル、ワワチ」


「いえ」


「大丈夫かぁ。もしあれだったら、俺が背負って登ってやるからなぁ」


「ありがとうライファ。よしいくぞぉバシル」


「まずは私と姫とをロープを結びます。それでまず、私が登り、このペグと呼ばれるナイフみたいの物をさして固定します。その後、姫が登り下さい。これを、ワワチとライファもするんだぁ」


と、バシルは山登りをレクチャーしていた。


「ライファ、心配するなぁ。俺とお頭は、アルデン山脈でよくやっているから慣れているからよ。おまえも、俺が登ったら、次はおまえが登るんだぁ」


「それでは、参りましょう」


バシルとワワチはなれた手つきで、射角80度の山という、岩の壁を登って行った。


「いいですか。ここに、くぼみがあります。これを私とワワチで見つけて行きます。それを教えますので、登り下さい」


「分かった」


「おう! 俺も分かったぜぇ」



「どこにもないなぁ。大穴なんて」


レイとコーテンは、スネーク半島の先端で、大穴を探していた。


「今は引き潮の時間だよなぁ」


「あーそうだぁ。だからどこかにないと・・・・」


「うん? これって、大蛇の先端だよなぁ」


とレイは地図を見ながら話している。


「そうだよぉ。だから探してるんだろう」


「しまったそう言う事かぁ。大蛇が見わす大穴! 」


「もしかして・・・」



「おい! まだかよぉ! 」


エンゼル山は雪山となっている。標高も5000mを越えていた。


もう人類未達点を突破している。


「もう少ししたら、歩けるところがある。そこからは徒歩で行こう」


と上にいる、バシルとワワチが会話していた。


ライファの横ではリンネがいた。


リンネは頭が痛そうだ・


「ホントかぁ! 大丈夫かリンネ? 」


「大丈夫だぁ・・・」


「どう見たって大丈夫じゃねーだろう」


「・・・・」


リンネは、なんとか、歩ける道に到着した。


「姫。大丈夫ですかぁ! 今、暖かい飲み物を」


「すまない。私が足を引っ張ってしまって」


「無理もありません。今いる標高は、誰も到達していない高さです。それを日頃、登山をしていない姫なのですから」


「しかし、ライファは・・・」


「あいつは、バカですから。常識が通じないのです」


「だれが、バカだって! 」


「おー聞いていたのかぁ! 」


「おまえもレイも、俺をバカにしやがって」


「ライファ。すまない。ありがとう」


「い・・いやぁ〜おまえが気にする事じゃねーよ。それに姫なら、そう謝るなぁ」


「姫。頭は痛みますか? 」


「すまない・・・」


「ワワチ。あれを用意しろ」


「分かりました」


ワワチは、見た事もない粉みたいなものをだした。


「これをお飲みください」


「なんだぁこれは? 」


「これは、西洋から入ってきた。薬というものです」


「薬? 」


「はい。これで、高山病もよくなります」


「分かった。ありがとうバシル、ワワチ」


「いえ」



レイとコーテンは、スネーク半島の先頭が見わす場所である、クロイド海岸にやって来た。


「あったぞぉレイ! 」


「ホントかぁ! 」


コーテンに呼ばれ行くと、そこには大穴があった。


「ここかぁ・・・」


「よしいくぞぉ! 」


「おーい おーい! 」


そこに人の声が聞こえた。


後ろを見ると、大きな船が3隻、こっちに向かっていた。


船からは、1人の男が降りて来た。


それは、知っている顔だ。海賊のフッカーであった。


「フッカー! 」


「おーあんたか! 」


「戦するなら呼んでくれよぉ! みずくせーじゃねーかよぉ! 」


「何しているだこんなとこで? 」


「ちょっとなぁ〜・・・」



エンゼル山では、リンネたちは山道を歩いて、頂上を目指していた。


雲がかかり、先がよく見えない。だから、後、どれだけの高さがあるかも検討がつかない。


ただ、7777mと言われているので、もう1500mぐらいで頂上である。



レイたちが中に入ると、なんか綺麗な旋律がかすかに聞こえた。


そこには、フッカーと、家来のニワナもついてきた。


「なんだぁ、この音は。聞いたことがない音だ」


「この下の方から聞こえる」


「この下・・・ 」


そこには、上と下に穴が広がっていた。


上は青空が広がり、下は底が見えない。



山の天気は気まぐれだ。


いきなり大雨で、リンネたちは雨宿りしていた。


「まさか、ここで大雨とは。雪に変わらなければいいが・・・」



レイたちはロープを降ろして、下へと下がって、下についた。


そこは一面氷の世界だった。


「寒い! 」


「そりゃそうだぁ。ここは氷点下20℃だぞぉ」


フッカーは腕時計のようにつけた温度計を見た。


「おーこれか、プリムラの花とは」


レイの目線の先には、凍り付いた桃色のプリムラの花が咲いていた。


「永続する愛情、運命を切り開く」


「なんだそれ? 」


「花言葉ですよ。お頭」


海賊がそんな事を言っている中、レイとコーテンはいい伝えの謎を考えていた。


「咲き乱れしプリムラの花の結晶が溶ける時、あなたを大地は迎えいれるだろう」


「なるほど」


「これが溶ける時って、こんな所では無理だろう。光も当たらない。ここは間違いなく、1年中、氷の世界だ」


レイが疑問を感じている時、1筋の光が見えた。


それは、先ほど降りて来た崖から一直線に伸びた光だ。


「ちょうど正午か」


その太陽の光は、この正午の時間だけ射す。


しかしそれは一部分だけで、もちろんプリムラの花に光が射す事はない。


「これじょぁダメだぁ。その花が溶ける事はない」


とフッカーがお手上げで話していた。



バシルの願いも虚しく、エンゼル山の雨は雪へと変わり、程なく吹雪へと変わった。


「どうするだょバシル! こんな吹雪じゃ進めないぞぉ! 」


「大丈夫だ。山の天気は変わる。もうすぐ待てばやむだろう」



コーテンは何かに気づいて話した。


「おいレイ! 」


「なんだ? 」


「鏡とか持ってないか? 」


「鏡?・・・・そう言う事かぁ! でも鏡は持ってない」


「鏡ならあるけど、それがどうした? 」


とフッカーは、先ほどの腕につけた温度計の蓋についた鏡を見せた。


「ホントか! じゃあここに立って、鏡を太陽の光に向けてくれ」


「こうか? 」


フッカーは太陽の光に鏡を向けた。


「後は、少しづつ、右に倒してくれ」


「こうか? 」


「倒しすぎだぁ! もう少し・・・そうその辺り」


そうすると、太陽の光が、鏡に反射してプリムラの花を射した。


そうするとどんどんと氷が溶けていった。


「おおおお! すげー! 」


プリムラの花が溶けると前へと倒れた。そこに何かしらのレバーのようなものが出て来た。


「なんだこれは? 」


「引っ張れという事だろう」


と、レイは引っ張った。


そうすると、岩が横に動き、入り口が開かれた。


中に入ると、そこには、250平方メートルぐらいある泉が広がっていた。



山の天気は気まぐれだが、今日ばかりは頑固だった。吹雪は治まる事を知らない。


「やまなねぇーぞぉバシル! 」


「うるせぇなぁ! ライファ黙ってろぉ! 」


「そんな事言ってもよう! 」


と言っているとリンネは立ち上がった。


「バシル。参るぞぉ」


「な・・・何を言ってるんですかぁ! こんな吹雪では無理です」


「しかし、皆を待たせるわけにはいかない。早くしなければ、アルツイネが攻めてくる」


とリンネが歩き出すと、ライファも続いた。


バシルもリンネの命なので、進むことになった。



リンネが気になっている事は現実になり始めていた。


「これより、野戦にて、リンネ軍を攻める! 」


とフィルランは兵を率いて、馬上から鼓舞していた。


「開門! 」


門が開き、フィルラン率いる7万の兵がルフィサを攻めて来た。


「うん? 敵襲! 敵襲! 」


と見張り役の兵が叫び、すぐさまルフィサは兵を立て直し出陣した。


裏切りや帰ってしまった兵もいる為、同じ7万ぐらいまで減っていた。


しかも指揮は高くなかった。


「押し出せぇ! 」


ルフィサを中心に踏ん張っていた。



吹雪はやむ事を知らない。


「リンネ姫! 大丈夫ですかぁ?! 」


「大丈夫だなぁ! 」


ガタ


「姫! 」


リンネはふらついた。


高山病は辛い状態まで来ていた。


「大事・・・・」


バタ


「姫! 」


「リンネ! 」


倒れたリンネをライファが抱き上げ、風吹を避けれるどころに移動した。


そこに付くと、敷物をひいて寝かした。


しかし、リンネは立ち上がろうとする。


「おい! 寝てろぉ! 」


「ワワチ! 薬を! 」


「はい! 」


「す・・・すまない・・・でも皆が待っている・・・・」


「ダメです。姫は今危険な状態です。高山病をなめてはいけません」


ワワチはリンネに薬を飲ました。


「しかし・・・・早く・・しなけれ・・・ば・・アルツィネの兵が攻めてく・・・る」


「大丈夫です。ルフィサがいます。あいつがやられません」


「そうだよ。とにかく吹雪がやむまで休め! 」


「いや・・・・」


と、バシルは首を振った。


「なんだよバシル? 」


「下山した方がいいかもしれん」


「はあー! 」


「もう姫は、呼吸困難を起こしている。このままいくと、死ぬ・・・」


「ええ! 」



レイたちが歩いている、泉の中から光輝くものを見つけた。


「間違いない! ナビル剣だぁ! 神話は実話で合った! 」


とコーテンは喜んだ。


「ルーグラン家は、リンネ姫は、神に選ばれし一族なのだぁ! 」


とレイも喜んだ。



「ダメだぁ! 押されている! 」


「ルフィサ様! このままではまずいです」


「ウルバ、下がって、山の斜面で戦おう」


「その方がいいと思います。皆退け! 退け! 」


ルフィサたちはナエディア山の斜面で戦う事にした。



吹雪はやんだ。しかしリンネの状態はひどい状態だった。


リンネは意識がもうろうとしていた。


「では、下山しましょう」


とバシルはいい、移動しようとした。


バシ


「姫」


リンネはバシルの腕をつかんだ。


「ダメだぁ! 参る! 」


「なりません! このままで姫、死にますよぉ! 」


「構わん! この手に・・・エンゼ・・・・ルソードを・・・・手にせねばならん」


「しかし・・・」


リンネは頑固だ。一度言いだしたら聞かない。


「よし! 」


ライファはリンネをおんぶした。


「いくぞぉバシル! 」


「おまえ何言ってるんだぁ! 」


「おまえも知ってるだろう。こいつがどれだけわがまま姫か! 」


「・・・・あー」


とバシルはうなづいた。


「行くしかない。そうじゃなきゃ、俺たちの活路も見い出せん! だからこいつは行くって言うんだよぉ。だけど、リンネ! 死ぬなよ! おまえが死んだら、俺ら全員終わりなんだからなぁ! 」


「分かっている」


「なら、進むだけだぁ」


とライファはリンネを背負い、向かった。


「ありがとうライファ」


「あーん。なんだ、聞こえねーよ! 」


リンネは笑みをうかべ、ライファの肩にほほをつけた。



「しかし、レイ。これは相当深いぞぉ」


とコーテンは泉を覗いて言った。


その横で、レイは準備運動していた。


「おまえ、潜る気かぁ! 」


「それしかないだろう」


バチャーン


レイは飛び込み、潜水して、下を目指したが、途中で浮上してきた。


「ぷはぁ! ダメだぁ。深すぎる」


「そりゃ無理だろう」


とフッカーは泉を覗いて言っている。


「ニワナ深さは? 」


「へい! 恐らく、200m以上はあります」


「200mだと、人間の力では無理だ。このニワナが俺らの中で一番潜れるが、それでも半分の100mぐらいだ」


「100mでもすげーけど・・・」


レイは考えていると、フッカーは言った。


「俺らに任せろ」


「え・・・」


「ニワナ! 準備だぁ! 」


「へい! 」


とフッカーが声をかけると、何やら、準備を始めだした。



エンザル山は、雲から太陽が出て、日差しが強くなった。


「おい! 大丈夫かライファ? 」


「どうってこともない・・・」


「降ろせライファ! 」


「何言ってるんだよぉ。おまえは無理するなぁ」


「大丈夫だぁ。薬が効いて大分回復した」


と言ってリンネは降りて歩き出した。


「ありがとうライファ」


「いや・・・」


「頂上までは、もう少しです」


「分かった」


リンネたちは、そのエンザル山の頂きを目の前にしていた。



「これは何だぁ? 」


フッカーたちは、何か色んな機材を準備していた。


「このホースで空気を吸う。そしてこのフィンという物を足につけて潜る」


「なんか初めて見るのものばかりだ」


「俺たちは海の男だ。こんな事は日常茶飯事だぁ。よし。ニワナ! 」


「へい! 」


と言って、ニワナはフィンをつけて、飛び込み、ホースを加えて、潜って行った。



バキーン


ズサ


「ひるむなぁ! 絶対に山を登らせるなぁ! 」


ルフィサは、フィルラン軍と戦っていた。


「くそぉ! なかなか前に進まん! 」


ルフィサの斜面での戦いは功をそうしていた。



「ここを登れば頂上です」


そこを登ると、そこにそびえたっていた。エンゼルソードが。


エンゼルソードの周りは六角形に鉄の棒が並び、チェーンで繋がれていた。

この点を結ぶと。星になる。


「・・・・」


あまりの偉大さにみんな言葉を失っていた。



ニワナは、潜って、剣をとり、上がってきた。


「とれたぞ」


それをレイに渡した。


「これが、ナビル剣・・・」


「とにかく戻ろうレイ! そしてリンネ姫にお渡ししよう」


レイはナビル剣を見つめた。



「こ・・・これが、エンゼルソードかぁ! 合ったじゃねーかぁ! だから、リンネ、おまえは神に選ばれし王族だって証明されたんだろこれで」


「その通りだ。だが、本当にそうだったとは、自分でも信じられん」


「なんだそれ! 」


リンネはそのまま、星の中に入り、エンゼルソードに触った。


ピカー


エンゼルソードが空へと光りだした。


「うおおお! 」


ライファはびっくりして声を上げた。


リンネは剣を引き抜いた


ブワーン


光は閃光となって、東西南北に散った。


リンネは剣を掲げた。


「我に力がみなぎってくる! 」


「すげー! 」


「皆の者、戻って、正しい方向に進むぞぉ! 」


「はぁ! 」


「よっしゃいくぜぇ! 」




第12章 ルーレンの正しき王族



エンゼルソードとナビル剣を手にしたリンネ。


これは、ルーグラン家が神に選ばれし王族である事であり、バルトはルーグランから土地を奪った逆賊であるという事も意味していた。


リンネは皆の前で、エンゼルソードとナビル剣を両手に持ちかざした。


「我は、ラストプリンセスではない! 神に選ばれし王族ルーグランであり、ルーレンの正しき王は我にある。逆賊アルツイネはたくさんの罪を犯した。我は許すわけにはいかない。皆の者、王都ルーレンパレス奪還する。我に続け! 」


「おおう! リンネ! リンネ! リンネ! リンネ! リンネ! リンネ! 」



その頃、ナビル平野で、1人の男が忘れされていた。


「うむ、反応は今だに現れない・・・・」


と、ダウジングするガラスであった。


誰か、もういいと教えてあげてくれ・・・・


「しかし、地底湖なんてあるのだろうか・・・・」


カーカーカー


カラスが鳴いていた。



気を取り直して、エンゼルソードとナビル剣を手にした事で、たくさんの兵がリンネに集まり始め、アルツィネ側からも裏切りが始まったのである。


「くそぉ! あんなものは、どっかの鍛冶屋に作らせた偽物だぁ! 騙されてはならん! 」


「申し上げます」


「なんだぁ! 」


「キルン将軍、ハバン将軍が寝返りました」


「何! あんなものに騙されよってぇ! サーベル! そなたは裏切らないよなぁ! 」


「・・・・はい・・・もちろんですよ王様」



これにより、リンネの元には20万を超える兵が集まった。

アルツィネ側は10万を切り7万程度まで下がっていた。


しかし、苦戦は続いていた。どんなに神に選ばれし王族といえでも、人間は人間である。この王都ルーレンパレスの城壁を越える事はできなかった。



夜、レイは策を考える為、王都ルーレンパレスの周りを歩いていた。


「おい! 」


「だれだ? 」


レイを呼ぶ声がして、レイは短剣に手をかけた。


「久しぶりだなぁ」


「おまえは、リリッシュ! 」


そこには、あの海賊リリッシュがいた。


「おまえどうしてこんな所に? 」


「ちょっと話がある」


「あー」


リリッシュにレイがついて行くと、そこにはカインと10人ぐらいの人がいた。


「ここに穴を掘っている」


と言って、入るようにリリッシュは手で案内した。


中は、3人ぐらいなら並んで歩けるぐらいの大きさの穴だった。そのまま進むと、梯子があり、梯子を登ると、少し開けて周りを見渡し、外に出るように言われた。


そこは、王都ルーレンパレスの城壁の中だった。


「実はまだ、中に行ける。そこは、もう1つの堀を抜けた先だ」


「これどうしたんだ? 」


レイは、驚いて聞き返した。



「私たちは今、穴掘り屋をやって生計をたてている」


「でも、この辺りの土は固く、なかなかスコップも通さなかった」


と、レイは固い土を叩きながら話した。



「この有機石灰と、このドリルを使っている」


と、白い粉上のものと、円柱上のものを見せた。


「なんだこれは? 」


「この有機石灰を撒いておくと、土が柔らかくなる。そして、このドリルは、動力で動いしている。この通りだ」


ガガガガガガガ


ドリルを見してくれた。


「すげー」


レイにはどうしてこう動くかは不明だが、風力的なものである。


「それにしても、リリッシュ。どうして私たちに協力する? 恨んでいるんじゃないのか? 」


「別に意味はないさ・・・・リンネ姫やライファは元気か? 」


「あーあ。元気だ」


「そうか・・・」



レイはライファとバシルを呼び、この穴を見せた。


「私たち3人でここから進み、城門を開ける。そしてルフィサの軍が城門から侵入する」


「すげーじゃねーかぁ! カイン、リリッシュありがとうなぁ! 」


「いや〜別に・・・・」



そして、15万の兵が表の城門を目指して突進した。


橋をひいて、攻城塔を侵入される。


「よしいくぞぉ! 」


とレイの声で、レイとライファとバシルは、誰も見てない事を確認して、ゆっくりと穴からふたを開けて出て来た。


そして、軍の中に紛れ込んだ。


城門は、くるくる回すハンドルがある。それを回すと、ロープが緩んでいき、徐々に門が外へと倒れていく。

その門が最後まで倒れると橋になり、堀にかかる仕組みである。


しかし、そんな事をしていたら、見つかって、5万ぐらいの兵に囲まれる。


だから、レイたちは、城壁に上がり、ロープを切ることにした。

そしたら、すぐに落ちて、ルフィサの軍を一気に流し込めるからだ。


そしてレイは、門の東側、ライファとバシルは門の西側の城壁に上り、門のロープの所まで来た。


「よしいくぞぉ! 」


「OK」


「せいのー! 」


ズサ


ロープが切れて、門が倒れていく。


ドーン


そして一気に倒れた。


「かかれぇ! 」


ルフィサの指示で、一気に騎馬隊を先頭に侵入した。


「なんだぁ! こ・・これはぁ! 」


フィルランが気づいた頃にはルフィサの軍は城内に侵入していた。


レイはすぐさま、城壁から飛び降りて、ルフィサの軍と合流した。


ライファとバシルは、その場で囲まれ危ない所だったが、すぐさま、ルフィサの軍が城壁の階段を上がって来た。


フィルランは何人かの兵と、奥の堀の中へと逃げて行った。


リンネ軍の大勝利であった。



王都ルーレンパレスの町にリンネは入場した。


「リンネ姫! 」


「リンネ姫! 」


誰もが、リンネに跪いた。


「懐かしい町」


リンネは、町の中にある大きなお屋敷に入った。


そこに、レイたちは座っていた。


上座から向かって、右の一番前にルフィサ、その横に、ハバン、コーテン、ガーディアン、ライファ、左の一番前にキルン、レイ、バシル、ランバルの順に座っている。


みんなが頭を下げる中、真っ直ぐ上座に歩き、そこに座った。


「みんな大義であった」


と頭を下げた。それに対しみんなも答えるように頭を下げた。ライファ以外だが。


「リンネ姫。おめでとうございます。王都ルーレンパレスの1堀を奪還致しました」


とルフィサが話した。


「たくさんの命をなくしてしまった。だが、我々に正義はある。これからも皆には苦労をかけるが、よろしく頼む」


「はぁ! 」



屋敷の外は警備が付いた。


また、第2の堀が今は国境となっているが、ランバルが付いていた。


ライファは屋敷に入りに2階に行こうとしたが、レイが止めた。


「どこへ行く! 」


「ちょっと、リンネと話を・・・」


「おまえはこれ以上、リンネ姫に近づくなぁ」


「なんでだよぉ」


「今までは見過ごしてきたが、エンザル山に行ってからは、もう見過ごせん。おまえに言ったよなぁー。おまえにはどうする事もできんと」


「別に何もねーよ。ただ、あいつも色々辛いだろうし、話ぐらい・・・」


「ダメだぁ! これからは言葉遣いも態度も気を付けろ! おまえとリンネ姫は、ピラミッドの1番上と、1番下なんだからなぁ」


「そういう事言っているから、あいつは辛いんだろう! おまえとだって、もっと近い存在でいたいんだろう! それなのに、上とか下とか作るから、あいつは孤独になるんじゃないのかぁ」


「私は、姫の気持ちは一番分かっているつもりだ。姫を孤独にはさせん! とにかく、おまえは、ピラミッドの1番下らしく、ランバルと一緒に警備にあたれぇ! 」


「なんだそれ! 」


そんな2人のやり取りを、リンネは2階で聞いていた。



サーベルは第2の堀の内側で、地面を見て歩いた。


そして、リリッシュたちが開けた穴をみつけた。


「おい! 」


「はぁ! 」


「ここを封鎖しておけぇ! 」


「はぁ! 」


サーベルはそう指示をだした後、城壁を見ていた。この向こう側に、リンネたち、一緒に学んだ、北斗七星の家臣団がいると。


「リンネ姫。あなたは私を差別した」



13年前


「父上! 」


「どうしたリンネ」


13年前の王都ルーレンパレスの玉座にいるルドにリンネは怒りながら話した。


「私の家臣団に、ザボン族の人間がいると聞きました」


「それがいかがした? 」


「あの民族は、犬や猫、ネズミやウサギの肉も食べ、またムカデやカブトムシとかの虫まで食べると聞きました。そしてさらには人間まで・・・虫唾が走ります! 」


「リンネ。本当に人間を食べていると思うか? 」


「それは分かりませんが・・・」


「リンネ。王家として一番してはいけない事はなんだぁ? 」


「それは、民を苦しめてはいけない事と思います」


「うむ。その通りだ。でも1番大切なのは、差別をしないという事だ」


「差別・・・」


「罪を犯した者は許してはならない。その報いを受ければならん。しかし理由もなく差別をすれば、その者たちは迫害され、生き場を失うのである。我々は皆に平等でなければならんのだ」


「でも、私はザボン族と1つ屋根の下には住みとうありません! 」


「それでは、そなたには誰もついては来ぬ」



レイはリリッシュと会って、またも堀った穴を通って来ていた。


ここは昨夜、サーベルが封鎖してしまった。


「やっぱり封鎖されている」


「でも、こんなものはいくらでも開けられる」


「でもそれではダメだぁ。手の内がバレてしまっている」


「そうなのかぁ・・・」


「恐らく、奴らの中に、私たちの事をよく知っている人間がいる」


もしそうであれば・・・とあれこれレイは考えていた。



「兵はどれだけ残っている? 」


「4万ぐらいはまだいます」


「そうか。このまま籠城で間違いないか? 」


「王都ルーレンパレスは、そうなった時を想定して造っておられますから」


「まさか、オンの亡霊に助けられるとはなぁ」



13年前


「これより2人1組で、この森で1週間生活してもらう」


とオンは、子供時代のリンネたちに言っていた。


「組は、レイとランバル」


「マジかよぉ! ただでさえサバイバルなのに、こんな大食いとかよぉ! 」


「宜しくなぁレイ 」


と、ランバルはニタニタ笑って、レイに近づいた。


「バシルとガーディアン」


「・・・・・」


「おまえって会話できるんかぁ? 」


「・・・・できる・・・・」


「えっ!? 」


とガーディアンがボソッと話したのがバシルには聞こえなかった。


「ルフィサとコーテン」


「よしぃ! おい天才、有意義に過ごせるようにしてくれよなぁ」


「足を引っ張るなよぉ」


「いちいち、感に触る奴だぁ」


「それで、リンネ姫とサーベル」


「ええ! 」


「いかがしました姫? 」


「いやぁ・・・・」


リンネは、サーベルの横顔を、恐る恐る見た。


「それでは、1週間後、この時間にここで会おう」



もう辺りは真っ暗だった。夜はこの季節は良く冷え込む。


「寒い」


「姫。震えていても仕方ありませんよ。1週間も飲まず食わずでは生きられません」


「分かっている」


「これでも食べましょう」


ドン


「うわーー」


とリンネはびっくりした。なぜなら、そこには、蜘蛛やトカゲの死体がいた。


サーベルは、トカゲを丸かじりした。


リンネはそれをびっくりした目で見た。



それから2日後。


リンネは鹿を追いかけていた。


しかし、鹿はどこかに行ってしまった。


「くそぉ! 」


と地団駄を踏んで悔しがった。


「そんなに追いかけたら、逃げますよ」


「では、いかがすればいい? 」


「仲良くなればいいんです」


「仲良くなる? 食べるだぞぉ! 」


「そうですよ」


リンネはなんだこいつはという目で見た。



それから2日後。


リンネは川で顔を付け、水を飲んでいた。


「ごくごくごく、ぶはーハァハァハァ」


ドーン


「うわー! 」


「これでも食べて下さい」


そこには、アライグマの死体があった。


「これは、アライグマ・・・」


「はい。これを食べるんですよ」


「こんなものは食べん! 」


「そんな事を言って、ここ5日間、何も食べていないじゃないですか」


と言いながら、サーベルは、アライグマを歯で引きちぎって食べ始めた。


リンネは軽蔑する顔で見ていた。


「そんなに怖いですか? 」


「ありえん・・・」


「俺たちザボン族は、北の山でこうやって暮らしてきました。だから、王宮で暮らしていた方には分からないと思いますが、生きる為には何でも食べます。食べなければ、死にますからねぇ! それが! 」


とサーベルはリンネを睨んだ。


「なにか悪いのでしょうかぁ! 」


サーベルは槍を手にとり、リンネに近づいてきた。


「うううううう」


とリンネはびっくりして、後ずさりした。


「生きる為には、何でも食べます。それは・・・・」


「うわわわわあ! 」


リンネの悲鳴が森中に響いた。



「サーベル! 」


「レイかぁ」


ここは現在、王都ルーレンパレスの王宮内。


廊下を歩いているサーベルをレイが天井に張り付きながら、呼び止めた。


「こっちにこい」


とサーベルは、レイを近くの部屋に通した。


「サーベル。やっぱりおまえだったかぁ。おまえのせいで、死にかけたぞぉ」


「フン。おまえの考えが浅はかなんだ」


「リンネ姫。おまえを待っているぞぉ。アルツィネについても、おまえにいい事はない」


「そうかもしれん」


「だったら、答えは1つだろう。リンネ姫はおまえを将軍にも取り立てるだろう。それにアルツィネはもう虫の息だ」


「リンネ姫は、俺を本当に将軍に取り立てるのかぁ。姫は俺を軽蔑しておられる」


「まだ、おまえはそんな事を。あの時は姫も幼かったんだ。考えても見ろ! 人食いが目の前にいたら、誰だって怖いだろう! 」


「だから・・・」



13年前。


「ハァハァハァ」


サーベルの槍は、リンネの後ろにいた狼に刺さっていた。


「大丈夫ですかぁ? 姫」


「大事ない・・・・」


サーベルは、リンネの後ろに狼がいるのをみつけたので、リンネを守る為に殺したのである。



「申し上げます」


「いかがした? 」


「アルツィネを見限り、リンネ姫にお味方したいというものが集まってきています」


現在のリンネの元には、アルツィネを裏切って、リンネにつきたいという者が多数集まって来ていた。



「また裏切っただとぉ! これで何人目だぁ! 」


と王都ルーレンパレスの玉座では、アルツィネが怒っていた。


「サーベル。もうおまえだけが頼りだぁ」


「はぁ! ありがとうございます。ただ、アルツイネ王」


「なんだぁ? 」


「捨てる神あれば、拾う神があります。アルツイネ王に味方したいというものが集まっています」


「ホントかぁ! 通せぇ! 」


「はぁ! おい! 」


と、サーベルに呼ばれ、入ってきたのは、ガーディアン、ランバル、ルフィサ、バシル、ライファにレイ、そして、一番後ろからはリンネが入ってきた。



13年前


「すまなかったサーベル。私は、そなたが人食いだと思い、怖かった」


「勘弁してくださいよ姫。ザボン族は生きる為にはなんでも食べますが、人間である仲間は食べません」


「であるなぁ。すまない」


「いえ。私はここに来た時から、リンネ姫に忠誠を誓っております」


「ありがとう」



「ど・・・どういう事だぁ! サーベル! 」


現在王都ルーレンパレスの玉座ではアルツィネが焦っていた。もう終わりだからだ。


「分かるでしょうアルツィネ! 」


「サ・・サーベル! おまえもかぁ! 」


「アルツィネ! 私はそなたを許しはしない。そなたを大臣まで取り立てた、父を裏切り、それで、しなくてもいい戦をし、流さなくてもいい血を流し、人々を奴隷化した。この罪は大きいぞぉ! 」


リンネは言い放った。


「リンネ姫・・・・・」


「今なら間に合う。もう1度、私に力を貸してくれぇ! 」


と、そこにいる誰もが、リンネの方を見た。


「はぁ! おまえどこまでお人好しなんだよぉ! こいつはおまえを殺そうとしたんだぞぉ! 」


ライファは、あまりに有り得ない言葉に反射的にツッコんだ。


それもそうだ。実の両親を殺し、自分の命もねらった。民は奴隷となり苦しんだ。それを許すべきとは。


「リンネ姫。さすがにそれはまずいです。こいつは処刑に処すべきです」


と、レイは答えた。


リンネはレイの言葉にうなづき、続けた。


「もちろん罪は償ってもらう。ただし、世の為人の為に、その政の才覚を使ってもらいたい。海賊は私に言った。今の方が過ごしやすいと。父は、海賊は力でねじ伏せようとした。しかしアルツイネはそうはしなかった。私はそれを見習うべきだと考えたのだ。父は、理由なく差別してはいけないが、罪を犯した者は許してはならないと言った。でも罪を犯すべき人間にも理由があると思う。私はそこも考えたいのだ。犯罪が起こらない社会を、一緒に創造していこうではないかぁ! 」


そんなリンネの言葉に、そこにいる誰もが感服した。罪さえも、正しく理解しなければ差別なのかもしれないと説いているのだ。


もしこの論理が実現するのならば、裏切りも起こらないのかもしれない。


「リンネ姫」


「リンネ、おまえ凄すぎだよぉ! そんな事、考えもしなかった。おまえはやっぱり1国の主だぁ! 」


「私を許すというのですかリンネ姫? 」


「それは私だけが決める事ではない。許すか許さないかは、そなたの未来にある。今の時点では、そなたに命を狙われたもの、家族を殺されたもの、奴隷にされたものは許さないだろう。だから、そなたの才覚を使い、人々の為に働いて、許されていくものであろう」


「だから、処刑をせずに、人々の為に働けと申されるのですねぇ」


「それに、そなたが思う不満も申すがいい。そなたがした行動にも理由があるのであろう」


「リンネ姫・・・・」




第13章 新しき時代、新しき国造り



ルーレンはリンネの元に統一された。


そして、リンネは第51代ルーグラン家当主となり、ルーグラン家歴史上初の女王、ファーストプリンセスが誕生したのである。


人々はリンネ女王を称えた、それは族と言われるものでさえである。


そして、レイ、コーテン、ガーディアンを正式な将軍とさせた。またルフィサは加増され、筆頭将軍となり、総司令官の座に着いた。


また、ルーグラン家の分家の当主はルイファンとなり、ネオンの1歳の子であるレーザーが成長するまで当主をする事となった。


アルツイネは大臣として、政ごとを取り仕切っていた。もちろん、最終決断権はリンネにゆだねられた。


それに対し、反発する民は出た。それに対し、リンネはこう説明した。


「アルツィネには、皆に暮らしやすい政ごとをさせる。もしそれがいつまでたってもそうならないのであれば、大臣入れ替えの投票をしよう」


とそう話した。


今まで、ルーレンで1度も行わなかった、西洋の政治手法を取り入れたのである。


そしてこうも話した。


「政ごとが良くならないのであれば、我で変えられると思うものは手を上げよ。それは、政ごとだけではない。兵士も商人も何もかも同じだ。誰でも力があれば、大臣にも将軍にもなれる。これが新しき国造りであり、新しき国の形だぁ! 」


リンネのこの言葉は若者に響いた。そして、仕官を求む列が、色んな城に現れた。


人々は職選択の自由を得たのである。誰も力があれば大臣にも将軍にもなれるとなって、国は活気づき、反乱はなくなった。


そして、ランバル、サーベル、バシル、ライファには所領を与えると話だが、バシルはアルデン山脈で山賊として暮らすからいらないと断った。



「バシル様! 」


「誰だおまえ? 」


騎馬に乗った男が、下馬してバシルに跪いた。


「私は、カイデン将軍の副将を務めておりました、リニアと申します」


「ほー。グライト騎馬隊かぁ」


「そうです。バシル様にお願いあり参りました。カイデン将軍には息子がいますが、はっきり言って体が弱く、まともに馬に乗れません。これでは、騎馬の一族であるグライト家の当主にはふさわしくありません。是非、バシル様に当主になって頂けませんでしょうか? 」


「断る! 」


「な・・・なぜですかぁ?! 」


「私は山賊として暮らしていく。それ以外いらない」


と、バシルは去って行った。



「リンネ」


夜、星を見るリンネの元にライファが来た。


「おまえは、すげーよぉ! 完全に国を1つにしてしまった。だれでも大臣や将軍になれるのは、不平不満もなくしちまった」


「私はそういうのも差別だと思うからだ。生まれた家によって自分の人生が決まってしまうなんて。農民でも、力がある者は大臣将軍になるべきだ。そうすれば国としても繁栄すると思う。だからぁ! ・・・・」


「だから・・・・」


リンネとライファは見つめ合った。


ガシ


ライファはリンネを抱き寄せた。


それをレイが影から見えていた。


しかし、ライファは我に戻り、リンネから離れた。


「悪い・・・・」


ライファはリンネに謝った。自分でもしまったと思ったからだ。


1国の女王である。それを田舎町の下民である自分が抱きしめるなんて許される事ではない。


しかし、今度はリンネがライファに抱きついた。


ガシ


「ライファは私を平等に扱える唯一の人間だ。だから、私を女王と思うなぁ! 私を抱きしめろぉ! 私を奪い去れぇ! 」


「リンネぇ! 俺はおまえが好きだぁ! 」


2人は激しく抱きしめ合った。そして・・・・



朝日がライファの目を射した。


横にはリンネが寝息をたててまだ眠っていた。


すごく可愛くて幼い顔が、女王である事を忘れられる。


いや、ライファは気にしてはいけない。リンネはもう恋人だ。



ライファは王宮を後にして、出て来た。


ヒュー


「おまえどういうつもりだぁ! 」


レイはライファの後ろに回り、背中に短剣を突きつけている。


「レイかぁ。 見てたのかよぉ? 」


「リンネ姫は誰もが位に関係なく結婚できる世の中を考えておられるが、王族だけは別である。おまえのような下民の血が王族の血には混ざってはダメなんだ」


「下民って、どこからが下民なんだぁ? 」


そんなライファの質問にレイは即答できなかったが、2、3服おいて答えた。


「王族以外は下民だぁ」


「だったら、リンネは、ルーグラン家は誰と結婚して、跡取りを作るんだぁ? 」


「そ・・・それは、ルド王の妻のメディバ王妃は、ルーグランの分家の出である」


でもライファには疑問が残ったので、続けて質問した。


「でも今は分家に、男はいなんだろう〜? 」


「まーそうだぁ・・・」


「だったら、リンネは誰と結婚するんだぁ? 」


「その場合は、隣国から・・・いや、それでは、王が出来てしまうから・・・」


レイは、あれこれ考えていた。


今は、ルーグランの分家には男がいない。そうなれば隣国の王の子供となる。でも、リンネは姫なので、もし隣国から婿をとれば、王となり、国が乗っ取られるかもしれない。だったら、次は、将軍や大臣クラスからとなる。そうなれば、将軍や大臣は出世すればだれでもなれる。だから、最終結論、下民の血は混ざるのである。それは、ライファでもいいという事になる。

しかし、レイは、


「ダメだぁ! おまえみたいな下民と姫が結ばれるなんて合ってはならないんだぁ! 」


とレイはまくしたてた。


「おまえ、なんで俺とリンネが結ばれる事、なんで嫌がるんだよぉ・・・・おまえもしかして・・・・そっちか? 」


「違うわぁ! 」


と、レイは大きい声をだして否定した。


「じゃあ、おまえもしかして、やめてくれよぉ! 俺の事好きになるじゃねーよぉ」


バコーン


「イテェ! 」


レイはぶん殴って叫んだ。


「違うわぁ! ・・・とにかくぅ! おまえは国でも帰れぇ! 」


そうレイに言われると、ライファは目を落とし、レイの横を通り過ぎた。


「おい・・・」


と、レイが呼ぶと、ライファは歩きながら答えた。


「帰ろうと考えているよぉ・・・」


「え・・・」


そのままライファは町へと消えていった。



「フィルラン将軍。リンネ姫を暗殺する事は、そう難しい事ではない」


アルツイネは、王宮の隅で、フィルランと何かを話していた。


「アルツィネ大臣いや、王。私の部下に姫を暗殺できる、うってつけの人間がいます」


「そうであるかぁ。では、計画通り、明日の、姫が町に出られる。その・・・」


ズサーン


「うう」


バターン


アルツイネはいきなり斬られ、倒れた。それを目の前で見ていた、フィルランは驚いていた。


「やはり、怪しい動きをしていると思ったら、こんな事だったかぁ」


そこには、レイが立っていた。


「フィルラン将軍。あなたはどうされるおつもりかぁ? 」


フィルランは、あまりの事に、その場を動けなかった。


「あう・・・あぐ・・・」


フィルランは何かをしゃべってはいるが、恐怖のあまり、何を言っているか分からない。


「フン」


ズサーン


赤い血がその場に飛び散った。



「ライファ! 」


「おう」


ライファとリンネは、城の宮殿の屋上で会っていた。

リンネはライファが来ると、そのまま抱きついた。


「リンネ」


ライファは抱きついてきたリンネを、何やら真剣な面持ちで呼んだ。ラブラブする気がないようだ。


「何? 」


しかし、リンネはそう思わず、ぎゅと抱きしめた。


「リンネ! 」


ライファはリンネを大きな声で呼び、引き離した。


「何? ライファ」


リンネはびっくりした。昨日と違うライファの態度に。


「リンネ。俺はここを去ろうと思う」


ライファは真剣な目線で話した。


リンネはもういなくなると思い、


「ならん! 全体に認めん! 」


と叫んだが、ライファの心は固まっていた。


「もう決めたんだ」


「勝手に決めるなぁ! そなたは私のそばにいろぉ! 命令じゃあ! 」


「俺は、おまえの命令は聞けないぞぉ」


「えーい! 許さん! 」


「誰も望んでいない。おまえと俺が一緒になる事を」


ライファとしては、リンネと一緒にいたいが、それでは誰も受け入れてはくれない。受け入れられるには、受けいれられる形があると考えたのだ。


「レイかぁ。私からレイには言う。私は身分の差をなくしたい。だから私がそうする」


確かにレイしか言っていないが、レイだけではない事をリンネもライファも分かっていた。


「ルーグラン家に嫁いだのは、分家から33回、隣国から12回。将軍や大臣から5回だ」


「そうじゃ。そして私は、初めてそこ以外から婿をもらう。そなたじゃ」


「でもそれを誰が認める。新しきことをする事は誰もが敬遠する」


「うううううん! 見損なったぞぉライファ! そなただけはそういうことを気にしないと思ったから」


「俺じゃない! 周りだぁ! おまえが王女じゃなければ気にする必要もないが、下が全員反対したらどうする? 」


「うううううんそれは・・・」


「だから、俺は一度城を出る」


「一度? 」


「きっと戻ってくるさぁおまえの元に。誰も何も言わない状態になって」


「ホントかぁ! 」


「ああー。もし来なければ、どっかで朽ち果てて死んだと思え」


「それは許さん! そなたは絶対来る! その条件ですべてを飲もう」


「・・・分かった」


ライファは次の日、城を出た。


リンネは悲しい気持ちを抑え、女王として気丈にふるまった。



「レイ。アルツイネを殺したとはどういうことだぁ! 」


リンネは怒っていた。ライファの事ではない。レイがアルツイネを殺したことだ。


「すみません。しかし、裏切りをしようとしていたのです。だから殺すしかありません」


と、その時、リンネの後ろから、レイのように天井に張り付いているものがいた。それを見たレイは、何もしずにいた。


明らかに、いい雰囲気ではない。


「だからといって、なぜ相談しない! そなたは、将軍と大臣を兼任し、責任を果たせぇ! 」


「すみません」


と頭を下げたレイは、なぜか笑っていた。



アルタイ城


玉座では、ルフィサとウルバが何かを話していた。


「ウルバ。隣国のニゴクの王はどうだった? 」


「はい。ルフィサ様の考えは面白いと興味を持たれていました」


「そうか・・・・リンネ女王には、くれぐれもバレるなよ」


「はぁ」


と、ルフィサは何かを企んでいるようで、笑みをうかべている。



王都ルーレンパレスの近くのナエディア山。


ここでガーディアンは、弓矢を教えていた。


「そうだぁ。よし今日はここまで」


と言ったら、生徒たちが頭を下げた。


「ありがとうございました」


そう言って、生徒たちは山を下りて行った。


ガーディアンは1人残り、弓矢を弓に合わせ、弓を弾いて、狙いを定めた。


その狙う先は、王都ルーレンパレスの王宮。そこにはリンネがいる。



エンゼル山の北にある森。


そこで何かを食べる男がいた。


その男が、顔を上げると、顔は真っ赤な血が付着していた。とくに口の回りに。


その食べたものの足が見えたが、それは人間の足に見える。



川沿いでランバルはダムを閉めていた。


この先はルーグラン家の直轄地の町がある。


これでは人々が水不足に困ってしまう。



メグロス城


玉座に座ったコーテンは、王都ルーレンパレスの地図を見ていた。


「この城はもう簡単に落とせる・・・フハハハハハ」



アルデン山脈


「金をおいていけぇ! 」


「はいいいい! 」


バシルは、明らかに、民だと思われる人から、金をむしり取っていた。


こんな事許されるはずはない。リンネが知ったら、間違いなく怒るであろう。



隣国の山間の町 ポカロ


その村の村長が誰かに跪いていた。

「今日より、この町は、俺の元とする」


「おまえは誰だぁ? 」


「俺か・・・・俺は、次期ルーレンの王で、バルト王の血を持つ男、ライファだぁ! 」


なんと、そこにはライファがいた。バルト王の血とは・・・・・・いったい・・・・



それにしても、みんなどうしたんだ?


まさかみんな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・



なぜか、リンネは跪いて、苦しい顔をうかべながら、見上げていた。


「おまえもかぁ! 」



FIN

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