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発達障害シリーズ

〇〇は××であるは覚えやすい

 その新入社員は、おそろしく仕事ができなかった。入社して半年が経過していたが、未だ仕事のイロハですらつまずいている状態だった。佐伯優奈は、何度もメモを取ることを勧めたり、作業指示の復唱を求めたりしていたが、別の作業のたびに、今までの指示を全て忘れてしまっていた。その新入社員の名前は木野ほのかという。


 彼女はもともと化粧気がなく、たまにすっぴんで出社してくることも多く、社内のみんなも呆れていた。仕事ができない以前に、会社の顔としてどのようにふるまったらいいか、社会人としての常識的な物が欠けているようだった。


 仕事ができないので、以前、強く当たる上司に叱られたこともあり、その時、彼女は大人なのに、泣き叫んだりしたので、今では面と向かって怒声を浴びせる社員はいなくなった。不思議だったのは、泣いてから数時間経った後に、ケロリとして昼食時の雑談に参加していることだった。「泣いたカラスがもう笑った」という慣用句を地で行くような豹変ぶりに、佐伯は驚きを隠せなかった。


 おまけに彼女は、雑学というか無駄な知識に長けており、なぜそれらの豆知識を暗記できるのに、仕事の方はさっぱりなのか、佐伯には理解できない事ばかりだった。


 今日も給湯室で「ゴキブリとエビの味は似ている」という、おそらく社内のだれも必要としていない知識を演説している木野を捕まえて、佐伯は日頃の疑問をぶつけてみた。


「雑学は覚えられるのに、どうして仕事は覚えられないの?」

「それは、雑学は『〇〇は××という知識だから』簡単なのよ」

「仕事も知識の一部じゃないの?」

「でも頭が受け付けないから」

「仕事なんだから、言い訳していないで必死に覚えなきゃダメじゃない」

「あたしも一生懸命覚えようとはしている!」

大声で言い切ると、木野は戸を大きな音が出るように閉めて出て行ってしまった。


 佐伯は、上司の玉川に相談してみた。

「私、これ以上、木野さんの教育はできません」

玉川も眉を寄せ、困惑した顔で、佐伯の言い分を聞いていた。

「確かに、彼女は少し変わったところがある。今流行の発達障害かもしれないな」

「伝染性の病気か何かですか」佐伯は流行と言う言葉に引っかかった。

「いや、その流行ではなくて、最近テレビなどで取り上げられることが多いということだ」

佐伯自身は、今まで発達障害という単語を耳にしたこともなく、テレビでそんなことが取り上げられているということすら初耳だった。

「今度知り合いの産業医に訊いてみるよ」


 退社後、佐伯の携帯に連絡が来た。彼氏の室賀総司からだった。

佐伯は、室賀に発達障害について試しに訊いてみることにした。室賀は流行に敏感な方ではないが、もしかしたら何らかのヒントがつかめるかもしれないと思ったからだ。

「総司は、発達障害って知ってる?」

「ああ、知ってるよ。頭のいい大学を出ているのに仕事ができない人のことだろう」

「それって、何が原因だと思う」

「ネットでは、脳の機能障害だって書いてた」

「ああ、そう。どうもありがとう」

「脳の機能障害か……」佐伯は同じフレーズを何度もつぶやいていた。





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― 新着の感想 ―
[良い点] 発達障害当事者です。かなり共感できる内容だと思います。周囲の無理解について書かれている点もとてもいいと思います。私自身は周囲よりどうしてもスピードが劣ってしまう点が悩みです。 [一言] シ…
[良い点] ご無沙汰してます(^_^;) にのいです! なんだか胸が締め付けられますね…… ラストに彼氏の人が、「流行」と言ってはいるものの 多分、研究があまり進んでいなかったから、これまて理解さ…
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