《星と天空の姫》
-EV2000年-
「・・はぁ、・・はぁ・・・・」
星と月が照らす森の夜道を
息も絶え絶えで一人の少女が走っていた。
その行く先を、満月の光が明るく照らす。
少女の後ろから複数人の声が聞こえる
「そっちに逃げたぞ」
「早く追え」
「さっさと捕まえろ!」
少女がチラッと後ろに目をやると、
森の茂みから幾つもの灯りが、うごめきまわっているのが見えた。
もうあまり時間はない。
確認する間もなく再び走りだす。
少女の衣服は泥だらけで、片方の靴はなく血が滲め出ている。
何度も転んだのだろう、白く透き通た腕には擦り傷が見える。
・・・苦しい・・・
・・・
・・足が・・・痛い・・・・・・
・・走らなければ・・・
「・・はっ!」
少女が驚き小さく声を上げる。
そこには少女が走るべき道がなかった。
少女が森を出た先は、断崖絶壁だった。
下には雲があり、雲の隙間から果てしない暗闇がのぞき見える。
足元の崖は10M程絶壁に張り出しており、幅は1M弱。
船先から崖に板を出したような光景だった。
慌てて戻ろうとする・・・
ガサガサッ
「もうにげられねえぞ!」
茂みからくぐもった声とともに男達が現れた。
「覚悟しな」
「閣下を呼べ」
次々と武装した男が現れる。
「こんな崖までよく逃げたもんだ」
目の前の男たちの腰から次々と短剣がぬかれるのが見えた。
月夜に短剣の切先が不気味に輝いている。
「大人しく降参しな!」
そう言い男達が鋭く光る短剣とともにジリジリと少女に詰め寄る
少女も男達が近づくにつれて
断崖へゆっくりと後ろ向きに進む。
一歩踏み外せば、奈落の底へと吸い込まれるだろう。
下から噴き出す冷たい上昇気流が少女の髪を揺らす。
ふいに男達の背後から声がした。
「失礼」
ふいに男達の後ろからを真っ黒な眼鏡かけた紳士が現れた。
紳士は全身真っ黒の衣装に身を包んでいる。
見た目は細身だが、動きが鋭い。
前の男達を無造作に顎でどかすと淡い黒の眼鏡を掛けなおし
油断のない身のこなしで、
ゆっくりと姫に向かってこう言った。
「さぁ。姫。抵抗せずにこちらに来ていただけませんか。」
「私どもも乱暴な真似はしたくありません」
紳士の眼鏡の奥から身が凍るような視線を感じる
その凶器までに光る瞳を見て
少女は思わずあとずさりした。
少女の足元の小石が崖の底へと落ちる。
ジャリッ
カンッツ、
カンッ
・・
一瞬にして風の音で小石が消される
「どこえ逃げようというのです?」
「さぁ。こちらへ」
紳士の眼鏡がまわりの灯りでゆらっと揺らぎ無表情で話す。
・・・
静寂が流れる。
黒眼鏡の紳士と少女は暫く見つめ合っていた。
何時間も流れた気がした。
おそらくは数十秒なのだろうが、あたりの張り詰めた空気がそう感じさせる。
風も収まったかのように息をひそめる。
ザッ
黒眼鏡の紳士が一歩前に出る
少女が更に一歩後ずさりをした。
が、
そこには道がなかった。
不意に足の抵抗が消えた。
体がフワリと軽くなる。
はっと
気づいたころには崖っぷちの上に多数の人影が見えた。
少女は底が見えることない、その峡谷へと落ちてしまった。
「きゃぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
・・・・
・・
・
だんだんと小さくなる声とともに
一人の少女は漆黒の闇の中へと消えていった。