(2)
「『スフィア』。それが貴方の名前。」
淡々と檻の中に女性が告げていく。
「貴方は昔、ある人を守るために一度死んだの。
死んだのだけど、私と博士が蘇生させたわ。
ただ、そのままには出来なかったから、
少し記憶やココロを変えたわ。」
暗い檻の中から、竜人の頭だけが明かりのもとへ現れる。
その目には表情もなく、どこを見ているかも分からない。
「実験体1号、スフィア。貴方には、
まず1人で生活できる程度の知識に戻って貰うわ。
その後は……恐らく、クロード博士の指示に従う形かしらね。」
ガチャンと鎖を強く引く音がするのと同時に、
一瞬だけ竜人の瞳に意志が灯るが、すぐに戻っていく。
「……まだ抵抗する意志があるなんて。
博士と1号の関係を聞いては居ないけれど、
なんて意志の強さなの。どうしてこんな人を、
実験に使うことにしたのかしら。」
猫獣人の女性はため息をつく。
「あの博士の事だから、ロクでもなさそうね。
とりあえず、スフィア。私は貴方に危害を加えないし、
そんなつもりもないわ。
博士の指示通りにしてくれれば、
貴方も以前と同じ生活を送れるはずよ。
だからまず、仲良くなりましょう?」
檻に近づこうとするのを、竜人は鎖を鳴らして警戒する。
女性はそれをなだめるような目つきをしてから、
格子に手を触れ檻の中を見つめる。
「貴方のことを知ってる人は、
遠くなってしまったけれど、悪いようにはしないわ。
だから、少しだけ信じてくれないかしら?」
竜人の頭が暗闇から出てくるのを眺め、
女性はカメラや音声録音が無いのを確認した後につぶやく。
「……私も、早くクロード博士から逃れるために。」
竜人の瞳が少しだけ憂いを帯びたような気がした。
「貴方も私の言う事を聞いておいて損はないと思うわ。
今後も、これからも……そうだといいわね。」
ふふっと猫獣人の女性は竜人へ微笑んだ後、
ゆっくりと部屋から出て行った。




