File1:蒼い小瓶
薄暗い牢獄の中に、彼女はいた。
手足は鈍い色の鎖によって繋がれていた。
「随分と暴れてくれたものだな」
男の声が聞こえた。
「……子供達をどうする気だ」
「子供?」
囚人の問いに男は嘲笑した。
「お前の子供なら、ここにいるじゃねぇか」
男は何本かの瓶を懐から出した。――それは。
「貴様っ……」
女はその意味を察すると、男を睨みつけた。男はそれを気にも留めずに愉しそうに言った。
「お前の望む契約者が何時現れるのか……もっとも来ないだろうがな、契約者は」
男が笑いながらその場を去る。その光景を女はただ見つめていた。見つめるしか、なかった。
* * *
「隼人、どうしても来てくれよ。お前がいないと本当に試合勝てないって」
「あー、無理。その日は用事あるし」
隼人と呼ばれた少年は、その頼みを斬ってのけた。
そして早足で教室から退室した。
高橋隼人。ごく普通の高校生である。
成績は良くも悪くもなく、それなりに友達付き合いもある。
特技といえば、サッカーくらいだろう。だが彼は敢えて帰宅部、という生活を選んだ。
その生活で、満足していた。極端に悪かったり、極端によかったりする必要はない。
「隼人、おかえり」
「……ただいま」
父親が声をかける。やけにうきうきとした様子である。
「今日はな、隼人に渡したい物があるんだ」
「は?」
何かあったのだろうか、と隼人は思う。別に今日は記念日でも、誕生日でもない。
これだ、と父親が“それ”を隼人の手に置いた。
「……何これ」
それは青い、何の変哲のない小瓶だった。ただ、中に小さな泡が発生しては静かに消える様子が見える。
「父さんの昔の友達から貰ったんだ。ただの瓶さ」
「ふぅん」
本当にただの瓶だ。何かの曲にある、茶色の小瓶とやらでもない。
「まあ、隼人の好きに使うといいさ」
「……そう」
隼人は瓶を持って、自室へと戻った。
この瓶がきっかけで、隼人の人生が大きく変わることを、今はまだ知らない。




